第四六巻 

  その137 キュンっとしたのは

 自らが蔵元に赴き、加水しない原酒のみを数多く提供してくれる居酒屋がある。
 驚くべき事に、料理の器も自分らで焼き上げたと言うのだ。
 坊主頭の店員も多く、気合いの入り方が違う。

 百楽門、日置桜、蒼田と聞き慣れぬ銘柄を片っ端から飲んでいると、極上の馬刺が現れた。
 およそ8割は脂で占められた大トロ馬刺は、
 生姜醤油で食べようが、ニンニクで食べようが甘くとろけてきて、原酒に合うのなんのって。

 ゛食中酒゛日本酒を再認識するには、馬刺が最適かも知れないなぁ。
 生海苔の中には、生の千切り山葵が沢山潜んでいて、あまりに辛く、お尻の穴がキュ〜ンと締まった。
 


  その138 大衆のハーモニー

 ふらりと立ち寄った串焼き屋には数多くの地酒、焼酎が揃えてあり、何を頼むか迷ってしまった。
 壁紙に書かれた人気酒ランキングでトップの゛長雲゛を頼んだ。
 黒糖ブームの到来を予感させる良酒だ。

 メニュー表に「タレ焼きと黒ビールは凄く合います」
 と書かれているものだから、試す価値はありそうだ。
 つくねとレバーがタレ壼を経由して私の口に運ばれると、香ばしい黒で洗い流してみた。
 おおっ‥これは!
 タレのまったり感、黒の重厚な爽快感が混じり合い、串焼きという大衆文化の懐の深さを再認識した。

 ハイレベルな地酒゛篠峰゛も美味いが、今宵は黒糖と黒生で酔わせてもらおう。
 


 その139 ありがとうよ

 昔働いていた秋田料理屋を訪れた。
 何も変わらぬ調理場の面々が、半ばからかう様に挨拶しに来ては去っていった。
 凄く照れるが、何だか癒される。

 大好きなブラウマイスターを飲みながらお薦めメニューを見ると、
 以前とは比べられぬ程レベルが高くなっていて嬉しくなった。
 身の引き締まった馬刺、胸肉の柚子胡椒焼き、きりたんぽ肉詰め‥どれも愛情に溢れた逸品だ。

 天寿、飛良泉など力強い秋田酒の利き酒をしてると「貴様も頑張れよ」と説教されている気分になった。
 自己形成を語る上で、避ける事ができぬ店がここにあり、客としてまた来れる喜びに心底浸った。
 


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barcy-ishibashi  2003