日本の酒を訪ねて





の巻




 
   
   
お盆休みをたっぷりと取り、満を持して念願の伊賀蔵元ツアーを敢行した。
名古屋から特急で2時間弱、奈良の県境に程近い名張にやってくると
ご丁寧に「而今」蔵元の大西さんが迎えにきてくれた。

30歳になりたての大西さんは、昨年から杜氏となり、
いきなりの金賞受賞。 玄関前の2ショット
今年は特に大きなプレッシャーが
双肩にかかっている彼だが、
ふだんは屈託の笑顔が素敵な好青年である。

「自然な旨味が出てきて、
  綺麗に切れていく酒」を目指し、
個性ばかりを打ち出すのではなく、
基本を忠実に少ない石高で
手間暇惜しまぬ姿勢で酒を醸している。


昨年の仕込みで特に苦労したという
麹室を覗き込むと、すべての壁板が
取り除かれていた。
温度が上がらず理想の麹造りが
やりづらかった室を、今年は全面改装。今期にかける意気込みが伝わってくる。

酵母はイソアミル系のバナナ香が特徴のMK1や、
カプロン系のリンゴ香が特徴のMK3などを使用。
試行錯誤しながら、スペックによって使い分けている。

蔵の屋上に登ってみると、名張の美しい町並みが遠くまで見えるのだが、
直ぐ隣の墓場を指差し、興味深いお話をしてくれた。
昔は亡くなった方を土葬していたそうで、
その成分のリンが溶け出し酵母が活発に動くことで、
美味しいお酒が出来るのだとか。
ちょっと不気味な話に苦笑い。。ホントにそうなのかなぁ〜。

「而今」の木屋正酒造さんから車を走らせ、30分ほどで 隣町である伊賀上野の「三重錦」を醸す中井酒造場に着く。

現役プロボクサーという異色の経歴を持つ中井さんは写真などで拝見している
イメージとは全く異なり、関西弁を駆使してよく喋る、フレンドリーな方だ。
初対面なのに旧友と再会したような、不思議な気持ちに襲われた。

こじんまりした蔵内を案内して頂きながら、 造りのこだわりや、地酒への思いなどを伺いながら奥に進む。

一番奥に差し掛かると、大きな木造の建物が目に入ってきたので、
きっと貯蔵庫だろうと通り過ぎよう トレーニングジム!
と思ったら、最近作ったばかりだという
ボクシングジムであった。
蔵内にジムを作ってしまうとは・・
中井さんの「俺流」の象徴的な建物を見て、
大西さんと爆笑してしまった。

蔵を一回りしたあと、上野の街散策に出かけた。

有名な伊賀上野城を中心に栄えた町並みは美しく、懐かしさを覚える。
名物の田楽、かたやき、伊賀焼きの器屋や養肝漬の老舗を訪れ、
現地で有名なお茶屋に入った。
抹茶が想像以上に入ったアイスクリームは
タップリの量で、滑らかで美味しい。

  しかし想定外の量だったため、若干お腹を下してしまった。
黙って我慢をしていると、数分後に中井さんも不調を訴えだした。
プロボクサーとはいえ、胃袋まで鍛えることが出来ないようである。

上野で有名な地酒屋に入ると、そこの親父が昔の諺?を教えてくれた。
「名張根性、牛根性」
上野と名張は昔から不仲な街らしく、目の仇にしていたらしい。
現に中井さんも名張を意識した発言が多かった。
「上野の方に見所が多くありますね」と私が言うと
嬉しそうに「当たり前ですよ!」って応える。
大西さんは何とも思っていないようなのだが・・。

夜は中井さん、大西さんと名張の居酒屋へ。
同世代という事もあり、言いたい放題で笑いに笑った。
彼らの酒造りの情熱が痛いほど伝わってきて、
何か自分に出来ることは無いものかと、考えさせられる事も。
とにかくあっと言う間に、充実した一日は終ってしまった。
大西さんの蔵の杜氏場をお借りし、深い眠りから覚めると
もうお昼前になっていた。 天国蒲団
伊賀味噌で作っていただいたお味噌汁に
舌鼓を打ち、家路についた。

東京に戻ると、
大西さんからメールが届いていた。


私が帰った後、わざわざ中井さんが迎えに来て、
名張名物の「屁っこき饅頭」をお土産に持たせたかったそうだ。
上野の人間が名張の名産品を勧めるとは・・
中井さんは意外にも懐の深い人なんだなぁ。

私と同じ年の中井さん、3つ下の大西さんが、酒の街とも言うべき伊賀から
全国を席巻する地酒を送り出してくれるに違いあるまい。

                    2005年8月 バーシー石橋

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