日本の酒を訪ねて名称:藤平酒造




の巻
久留里城
一年ほど前、友人からお土産として頂いた4号瓶を開け、
口に含んだときに驚きを隠せなかった。
千葉にこんなにも美しい地酒があったなんて・・。

落ち着いていて、バランスがよく、キレもあり、懐の深さもある。
あまり出すぎる所がないのもいい。
君津には隠れたお酒があるんだなぁ、と当時シミジミ思っていた。

忙しい正月があっという間にすぎ、久々に連休を取れたので
ふっとこのお酒の故郷に無性に行ってみたくなった。

調べるとこの町は、千葉県内では屈指の名水の湧き出る場所であり
かつては里見氏の居城で有名な久留里城も直ぐそば。
母が社長を勤め、息子3人で酒を醸しているという背景も
興味をそそったからだ。

井戸 前日にアポを取るという、常識外れの行為をして恐縮だったのだが、
快く蔵見学をOKしてくれた。

浜松町駅から高速バスでアクアラインを飛ばし、およそ2時間。
揺れるバスは三半規管を刺激し、酒を飲むまえに泥酔。
睡眠不足という事もあり顔面蒼白、気力減退とひどい有様だったが
久留里の美しい空気を吸い込むと
水に浸かった乾燥わかめのように、一気に元気を取り戻した。

蔵には、年季の入った釜や絞り機がところ狭しと並んでいて
訪れた蔵の中でも、非常にこじんまりとした空間。
ヒゲを蓄えた次男を中心に小規模造りで300石
キチンと目の行き届く、手造りの酒にこだわっている。

残念ながらお会い出来なかった長男が経営や経理、
小生と同じ歳の三男が麹造りと営業を担当。
まさに「三本の矢」の話のごとき、
3兄弟の強き結束のもとで「福祝」は醸されていた。

忙しい中、たった今しぼったばかりの純米吟醸を飲ませて頂いた。
明らかに固さはあるが、幅のある山田錦の旨味と深みがあり
キラキラと、いろんな味覚の余韻が楽しめる原酒は感動の一言。

この酒は3ヶ月後に出荷されるそうだが、
加水し、一度だけ火入れをしてから出すそうなので、
間違いなく二度と飲めぬ一杯。 利き猪口
利き猪口に入った一合ほどの酒が、
これほど愛おしく思ったことはない。

これがホントの「一期一会」ならぬ「一合一会」
という事なのか。。

販売をしているお店のほうでは、
すでに瓶詰めされている純米しぼりたてを試飲した。
先日、自店で扱った時、思わず感動の吐息をこぼした、
本醸造のしぼりたての上をいく逸品。
この酒はどこまで進化するのか・・
と良い意味で怖さを覚える。

彼らの目指す酒は、静岡の重鎮蔵「開運」。
名前も似ているし、これから良きライバルになるのかなぁ〜
なんて、勝手な想像で胸を躍らせてしまった。

ほろ酔いのまま念願の久留里城へ。
自然薯たっぷりの名物「雨城そば」を麓のお店で胃袋に放り込み
極寒の中、本丸へ向かう。
築城時に3日に一度、雨が降ったことから
久留里城を別名「雨城」と言うそうだ。

この日は運よく好天に恵まれたが、
美酒が血液に溶け出し、本丸から久留里の町を一望したとき
感動のあまり心で涙。

心の雨を拭い去り、千葉清酒の聖地を後にした。
またこの町を訪れたい・・そう思ったことは言うまでもない。



                  2006年1月8日 バーシー石橋

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