日本の酒を訪ねて名称:高嶋酒造




の巻
これぞ日本!
時間を見つけ、愛しの地酒と触れ合うべく 駿河の国へ電車で向かった。
特急で熱海まで飛ばし、東海道本線に乗り換えると
びっくりするくらい真っ直ぐの線路が、視界の先まで伸びていき
アメリカのハイウェイを突っ走っているようで実に気持ちがいい。
ひたすら真っ直ぐ走っていた電車が左、右と曲線を描いたあと
高嶋酒造のある原駅に到着した。

駅を降り直進すると、風情ある旧東海道が姿を現し
雪を頂いた富士か我々を出迎えてくれる。 (なんて情緒ある町なのだろう)
趣のある町に足を踏み入れると
無性に自転車で走り抜けたくなる。
先月訪れた久留里の町でもそうだったように、
いい酒がある所には、そう思わせる雰囲気があるものなのだ。


原駅からたった5分ほど歩くと旧道沿いに高嶋酒造さんが見つかる。
外観からしてもこじんまりとした印象の建物。
玄関の先に目をやると、早速高嶋社長を見つけることができた。
大きな体にヒゲを蓄えた貫禄のある表情で、
およそ27歳とは思えぬ堂々たる容姿だが
白隠正宗という酒のイメージと一致して嬉しくなった。


最初に通されたのは大きな井戸。
150メートルという深井戸には
300年〜400年前に降り注いだ
富士の雪どけ水が流れ込み、かなり良質な
軟水が今でも豊富に流れている。

実に軟らかく甘みのあるお水は
地域の人たちにも
無償で提供しているという。


一麹ニモトという酒造りの基本があるが、
それ以前の原料処理にもこだわり、
静岡県では2件のみの手間のかかる自家精米をしている。(他は開運さん)
酒米は、兵庫の山田錦と新潟産の五百万石を使用、
静系と呼ばれる焼津で作られた新たな酒米にもチャレンジするという。

酵母は自家培養。
静岡NEW−5という、あまり端麗になりすぎず
味と香りのバランスが良いタイプに仕上がる酵母らしく
よく使われているHD1のように味の線が細くなりすぎないそうだ。

仕込み水はとにかく冷やし、三段仕込みの「留め」のときに
なるべく冷えた水を投入することで、
ゆっくり溶けてゆっくり発酵させることができる。
いわゆる長期もろみを造りだすという訳だ。

2年前の社長就任とともに、美味い酒造りの為の設備投資をし
サーマルタンクの導入、ジャケットと呼ばれるタンクの回りを走る
冷却機を改良、さらにパストライザーという県内で4社ほどしか
使ってない瓶火入れの装置まで駆使している。

絞ったお酒の冷蔵管理も完璧で、非の打ち所がまるでない。
数ヶ月前、たまたま口にした白隠正宗に思わず感動してしまったのは
これら手間のかかった背景があったのだと痛感した。

 蔵を出て、地元で有名な松蔭寺に向かった。
 江戸中期の名僧・白隠禅師のお墓があることで
 有名なお寺なのだが、その禅師、一休
 沢庵和尚と並んで
 庶民に親しまれた方だったそうだ。


「駿河には過ぎたるものが二つあり、
 富士のお山に原の白隠」

 という言葉が残っているが、
 白隠正宗もこのこだわりがあれば、
 いずれ全国にその名を轟かすに違いあるまい。

社長の勧めで、沼津の和食屋で白隠正宗を楽しむことにした。
錫の徳利で暖められたまろやかな純米酒の燗冷ましと
地元で獲れた、軽く〆た真サバの抜群の相性。
「なんて地酒って素晴らしいのだ!」
カウンターで一人お猪口を傾けながら何度も何度も心でつぶやいていた。

                       2006年2月 バーシー石橋

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