日本の酒を訪ねて名称:三和酒造




の巻
臥龍梅!
先月とまったく同じ鈍行電車にのって、清水を目指していた。
白隠正宗の原駅よりさらに1時間弱、
ゆっくりと進む東海道本線に揺られ、目的地の清水駅にたどり着いた。

小雨降る清水は予想外に近代化されていて
漁業の盛んな町だと思っていたら、貿易港として栄えているそうだ。
お目当ての桜海老も、実はお隣の由比でしか殆ど揚がらないらしい。
実際に地元に来てみないと解らないものである。
しばらく待っていると、駅まで高級外車に乗った鈴木社長がお出迎え。
こんなスゴイ車に乗ったことない・・と思わぬところにびっくり。
乗り心地よい椅子にもたれながら、まずは本社のほうに連れていってもらった。

応接間に通されると、鈴木社長から蔵のこだわりを話していただく。
もっとも印象的なお話しは、酒造りに際しての「設計図」についてだ。
吟醸造りにこだわるのなら、いくら大きな蔵元であっても
小規模の仕込みしかできないはず。
給水にしても500〜750キロの限定給水しかできないし
モロミの温度管理にしても、対流しないものを大きなタンクにいれては
一定の低温熟成が不可能なのである。

 仕込みに入る前段階での設計図を
 蔵元がしっかりと立てないと
 いくら良い米、良い杜氏を雇っても、
 良い酒は出来ないという訳だ。

 試飲会でしかお目にかかった事が
 なかった鈴木社長がこんなにも
 熱く語るとは思いもしなかった。


 良い酒に関わる人は、やはり熱く情熱的なんだなぁ・・。
酵母についてもこだわりがあった。
4年前から立ち上げた「臥龍梅」ゆえ
いまさら静岡酵母HD−1を使うわけにはいかない。

10号系の香りの出るタイプの酵母をつかい
今までの静岡酒にはない幅と香りを出そうとしているそうだ。
そんな話をしながら奥様がお酒を用意してくれた。
山田錦55の純吟、静系88の純吟、一年熟成の特本の生。
社長の前で試飲するっていうのは、実に緊張する。
変な事も言えないし、飲んでも舌は上の空。

山田錦の生原酒が、豊潤なメロンの香りがあって旨かったのと
静系の生酒は、温度が上がってバランスが良かったのは覚えている。
本醸造もいいなぁ〜って程度の記憶。
気が小さいと意識が散漫してしまう・・もっと男を磨かないといけない。

車で数分飛ばすと、製造工場が現われる。
思ったとおりの小さな蔵で手造り感が伝わってくる。
休憩中だった菅原杜氏が出迎えてくれてちょっとだけお話しをしてくれた。
ニコニコしていて、正直な方でお話を聞いているだけで何だか癒される。
だれかに似ている方だなぁ〜って思いながら
後ろ髪をひかれる思いで蔵を後にした。

車内で昨年度の県内における新酒鑑評会の
話になって吟醸の部で一位になった
ということを聞いてピンときた。
(菅原杜氏は輪島功一に似ていたのだ!)

チャンピオンの風格があったのは
そのせいだったのか。

本社のすぐ傍に清見寺という
有名なお寺があって数年前から
一度見てみたかった、本物の臥龍梅を目にした。

家康がおよそ300年も前に植えたという梅は、花こそ少ないが
歴史の重みと風格をもっていて心奪われる。

「臥龍」は寝ている龍の事で、まだ雲雨を得ないため天にのぼれず
地にひそみ隠れている龍のことである。
中国では諸葛孔明、日本では家康のことを指す言葉なのだか
この酒も天下獲りが出来るであろう銘酒の一つに違いない。

社長と別れて地元の寿司屋に入った。
飲んだ地酒が磯自慢や何故か末廣。
地元で飲めぬ辺りもさすが臥龍・・今後も目が話せぬ銘酒である。

       2006年 3月  バーシー石橋

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