読書

フリーライダーという概念

読みたいなと思った本を立ち読みしに行く時間を確保するのが難しくなってきたので、最近はそういった本をamazonのほしい物リストに貯めこむ習慣をつけています。ただそうやって貯めこんだ本を効率よく一度に立ち読みしようとすると大きめの本屋さんに行かなくてはならず、そんな本屋さんに行く機会はさらに限られてしまうので、結局本を読む習慣から遠ざかっていました。ところが先日に東京駅近辺でぶらぶら時間をつぶす機会ふとできたので、ここぞとばかりに丸善丸の内本店に行って立ち読みを一気に解消してきました。候補のほとんどは新書でしたが、新参レーベルの新書は相変わらず中身が薄いのが多くてて買う気が起きず、たくさん候補があった割には数冊しか買いませんでした。今回はそのうちの1冊、「フリーライダー〜あなたの隣のただ乗り社員」という講談社現代新書の感想でも書いてみようと思います。

フリーライダーあなたの隣のただ乗り社員
第1章によるとフリーライダーというのは組織の中でただ乗りしているもしくは周囲にそういうふうに感じられてしまう人達で、彼らに関わる同僚や上司、顧客からの信頼を得られず、実務上や精神的な負担を与え、最終的には組織としてのパフォーマンスを低下させるのが問題との事です。うーむ、仕事を初めてから10年くらい経つとそういう事象に困ることもあったのでさっそく購入を決定しました。
家に帰ってじっくり読んでみると、第2章でさっそくフリーライダーを分類してました。軸は仕事の成果に対する欲求度の高低(略奪系とサボり系)と周囲への影響の種類(実務的負担系と精神的負担系)の2つあり、合計4種類の特性を下に書きだしてみます。

  • サボり系&実務系負担が高い人をアガリ系→仕事せず責任も取らないので周囲の実務負担が増える人
  • 略奪系&実務系負担が高い人を成果アイデア泥棒系→周囲の協力を得ても感謝せず成果を自分だけのものとアピールする人
  • サボり系&精神的負担が高い人を暗黒フォース系→現状維持と保身を優先するあまり周囲のやる気を削ぐ
  • 略奪系&精神的負担が高い人をクラッシャー系→成果を出せていない事を受け入れず自覚させようとする人や部署に対して攻撃的になりやる気を削ぐ

こうして並べてみると、確かにいつかどこかで見たような気のする行動類型です。〇〇系なんて分け方をすると薄っぺらなビジネス書のような感じがして辟易しますが、まぁリアリティを感じる類型なので気にせず読み進めます。
続いて第3章では「組織の構成員の貢献度を正確に評価するのが難しいため、貢献度が低くてもそこそこの利益の分配にあずかれる人が存在しうる」という構造がフリーライダーを生み出す原因であるという事と、貢献度への評価としてのアメとムチをどう使うか?について書かれています。ここはちょっと総論的過ぎる上に後半「脳科学」的な記載が鼻に付いて主題がさらにぼやけてしまうので、原因論だけ理解して後は軽く読み飛ばします。で、肝心の類型別のフリーライダー対策が書かれている第4章に到達します。ここでは組織レベルでの対策が書かれていてなかなか面白く読めました。章の最後にある図から類型別の対策をまた書きだしてみます。

  • アガリ系は成果に対するプレッシャーを組織レベルでかけオープンな評価で昇進を決める→例えばある期間内の具体的な達成目標について他の構成員の前でプレゼンテーションさせ、それが達成できない人は昇進させない等
  • 成果アイデア泥棒系は多面的な成果評価を組織レベルで行う→例えば複数の人間の評価を取り入れてゴマをする相手を固定しないようにする、成果のみではなくプロセスも評価対象にする等
  • 暗黒フォース系は組織レベルで達成すべき期限付きの目標を提示して停滞を許さない
  • クラッシャー系は彼に対する評価と彼の所属するチーム評価を分け、本人に対する貢献度評価をマメに本人にフィードバックする

総じて、貢献度評価→利益分配が公正に機能しないとフリーライダーが出現するという原則から、対策はそれらに不正確さが生じないよう目標を設定して実行評価をしっかり行う事に尽きるようです。ただ実務負担が高い系に対する対策は具体的な方法論が例示されてて対処もしやすそうですが、精神的負担が高い系に対しては予防重視だったり本人の変革を促さなくてはななかったりするので、これだけやってダメなら辞めてもらわざるを得ないという感じも受けました。フリーライダーの特性として無自覚にフリーライドしているということも大いにありうるので、自分がこの類型(特に精神負担が高い系)にあてはまらないように気をつける必要もありそうですね…などと考えてたら第5章は自分がフリーライダー化しないように、もしくは職場にフリーライダーを生み出さないようにどう振舞うべきかについて解説していました。箇条書きを拾うと「成長を続ける努力をする」「できない理由を言わずに何にでも巻き込まれる」「成長に直接関係なさそうでも面白がって近寄る」「常に感謝の気持ちを忘れない」…字面だけ読むとお行儀や良くてしっくり来ないかもしれませんが、第5章までに提示されてる具体例を読んでくると確かにそうかも…と思わせるところがなかなかスゴイです。
ちなみに最後の第6章はいわゆる草食系な新入社員にどう対応していくかという問題提起で終わっています。今までの章がどちらかというと同僚や上司をイメージしたフリーライダーについて解説していましたが、今度は組織に積極的貢献をしにくい新入社員について書こうとしているみたいです。うーん、これはこれで興味深いですね。

同じ著者の「不機嫌な職場」シリーズは職場を非効率にする構造についての問題提起は面白かったもの、対応策があまりに情緒的というか理想論的過ぎてどうしても受け入れる事ができず、読後残念感が残りました。それに比べると本書は具体的な問題提起と対応策が書いてあって受け入れやすかったですし、また似たような現象が見られる教育機関や研究機関でも、教育を受けるだけになりがちなフリーライドをどこまで許容するかや、給与や昇進だけによらない貢献度に対する利益分配の方法など、組織特有の部分を上手くすりあわせていけば適応できそうな汎用性の高さを感じました。
もちろんフリーライダーという定性的なレッテル貼りが行き過ぎればそれこそ「不機嫌な職場」になりかねないというリスクもあると思うので、ある程度お互いがライドしあいつつそれが負担になりすぎないバランス作りも大事なのかもしれません。いずれにしてもこれだけいろいろな事を考えさせられたのは久しぶりで、そういう意味でも刺激的な本でした。

野蛮人のテーブルマナーって何?

子供心にスパイとか探偵とかが好きでジェームスボンドの007シリーズをよく見ていました。そのせいか今でも諜報戦や情報統制なんかに興味がすごくあります。最近は本業にかまけてそういう本をさっぱり読んでいなかったんですが、元外交官の佐藤優という人の本が最近売れているというPOPを書店で見かけ、売り文句に感化されて買ってきました。ところがです、お話としては結構面白かったんですが、どうにも内容が薄かった。ということで、たまにはそういう本の感想でも書いてみようかと思います。

野蛮人のテーブルマナー「諜報的生活」の技術
今回読んだのは「野蛮人のテーブルマナー」と「野蛮人のテーブルマナー『諜報的生活』の技術」という本です。実は一度に2冊買って、最初に「野蛮人のテーブルマナー」を読んでまとまりのない文書だな〜という感想を持ってはいたんですが、やめておけば良いのについつい『諜報的生活』の技術まで読んでしまったというわけです。本の構成は全5章で、自説を述べる第1章「諜報的生活」の技術について全12回と、著名人との対談を書いた第2〜5章に分けられます。前半の12回は以下のタイトルを主題に実例(と思われる体験談など)から成っており、前作に当たる「野蛮人のテーブルマナー」よりは分かりやすい構成になっています。

それではその諜報的生活についてまとめてみましょう。

  • 第1回:読書術→ジャンルを問わず本を読む。直前に必要な情報を仕入れようとしない。一夜漬けの暗記ではなくいろいろな情報が有機的につながったネットワークを作らないと意味がないという意味かな?
  • 第2回:文書諜報→情報を得たい分野について公開されているものは何でも読む。突拍子も無いソースに頼るなってこと
  • 第3回:協力諜報→得た情報を第3者に公開する際はソースに了解をとる)
  • 第4回:リエゾンの重要性→対立勢力間のトラブルには仲介役が必要
  • 第5回:大物になると常に生命が危険→文字通り
  • 第6回:交渉に役立つ人間行動学→交渉相手と食事やトイレを一緒にできればかなり近しい関係になれる
  • 第7回:余計な秘密は知らない方がいい→知っている事を隠すことはできない(確かにそうかも)
  • 第8回:安心できる裏取りの方法→…
  • 第9回:憎まれること無く嫌われる方法→下品に行動せよ。これはテキメンに効きそう
  • 第10回:(情報源への)上手な金の渡し方→情報の良し悪しに無関係に友情を装って渡す
  • 第11回:逃げ出すタイミングの見つけ方→経験談、具体的教訓なし
  • 第12回:始めるとき終わりについて考えておく→決めておけば終了時に無駄なエネルギーが不要になる

という事でした。これらのTIPSはそれなりに面白いんですが、諜報的というキャッチコピーから想像する非日常なお話ではなく、対人交渉の鉄則的なお話が多かったのでそれほど目新しい内容ではありませんでした。外交の場での諜報活動というのはたしかに対人交渉が主なので、現実にこういう内容なのかもしれません。自分的にはもう少し操作的な情報の流し方なんかに興味があるので、ちょっと違ったかなーという感じです。
それと後半に経験談がありましたが、お話としては面白かったものの直接的に得られる教訓はありませんでした。これは蛇足でしたね。

総じて、そこそこ面白いんですが立ち読みで充分。定価で買うほどの価値は無い気がしました。もうちょっとしっかり立ち読みして買うようにしなきゃダメですね。

海と毒薬〜小説と映画を比べる

海と毒薬小説海と毒薬映画
遠藤周作が久しぶりに読みたくなったので、気になってたけどまだ読めてなかった小説「海と毒薬」を読み、それを映像化した映画版「海と毒薬」もあわせて観てみたので感想を書いてみようかと思います。お話としては、終戦直前に起こった日本の医師による米軍捕虜生体解剖事件を元に、それに関わった医師や看護師を描いたものです。

小説の方は、終戦後の西東京で主人公(名称不明、遠藤周作?)が勝呂という気味の悪い医師と出会うところからお話が始まります。勝呂が件の生体解剖事件に関与したことに気がついた主人公が、その事を勝呂に問いうたところで生体解剖に関与した2人の医師、1人の看護師の回想が始まっていきます。
最初に勝呂の回想がじっくり語られ、田部夫人の手術死隠蔽事件や「おばはん」の死を経て、生体解剖事件に至ります。解剖シーン自体は結構淡々と描写されてあっさり勝呂編は終わります。次に同僚の戸田と看護師の上田の生い立ちが語られ、同様に事件に関わったところでお話が終わります。各登場人物が事件からどんな影響を受けたかをもっと知りたいなぁという点では、やや消化不良な終わり方でした。あとがきによると遠藤周作は続編を書きたかったそうなので、なるほどと納得。

映画版のほうは前半の名称不明の主人公は出てこず、勝呂が米軍に尋問を受けるシーンから回想として物語が始まり、ほぼ彼が主人公のまま終わります。相方の医師と看護師の回想もあるんですが、小説ほどの掘り下げはありません。なので心理描写は正直物足りない感じでした。ただ映画の良いところは、文書で読んでもイメージしにくい大学の雰囲気や手術のシーンが見れる事です。手術シーンは片肺挿管もガーゼカウントもしてませんでしたが、肺切除のくだりは妙にリアルで当時の手術の雰囲気はこんなもんだったんだろうなぁ〜と感心してしまいました。

小説でも映画でも一番気になる、何故彼ら医療人は生体解剖を承諾したのか?について興味があったんですが、両作品とも最後までしっくり来ませんでした(きたらきたで困りますが…)。人命が地球より重いかもしれない現代の日本に育った自分にとって生体解剖なんて絶対あり得ないだけに、その辺の心理描写に期待をしていたんですけどね…。やはり戦時で人がたくさん死んでいく空気の中、旧来の医学部制度の上司から指示をされるっていう状況を体験してみないと分からないんでしょうかねぇ。

小説「宴のあと」

宴のあと
蓋を開けてみれば民主党圧勝の衆議院選挙の最中、三島由紀夫の都知事選挙がらみの作品「宴のあと」を読んだのでその感想を書いてみようかと思います。今回はオチも書くので、ネタバレ嫌な方はここから下は読まないようにしましょう。

雪後庵という料亭の女主人福沢かづが、野口雄賢という初老の元外交官に出会い、その都知事選挙に巻き込まれていくというお話です。時代は戦後で学生運動が始まる前、1960年代のようです。

かづは新潟を出奔してからいろいろ遍歴があり、50歳にして政治家の出入りする料亭の女将になります。彼女は今の安定した生活に満足しているんですが、ふと出会った前時代的な男性、野口に惚れてしまいます。そこまでは良かったんですが、この野口を都知事選挙に担ぎ出す話が出て、かづはその選挙活動に全身全霊を投じていくことになります。
とにかく前時代的で理想主義、型にはまることを至上とする野口と、奔放に生きているようで人心を掴み巧みに生き抜くかづの対比があちこちに出てきます。ちょっと極端な人物設定にもかかわらずかづの心情の描写は非常に細やかで、共感できないにしてもよく書き込んでいるなぁと感心しました。
衆議院選挙にからめて選挙モノを呼んでみようと思い立ったんですが、この作品の中で重視されているのは二人の情念の対比であり、選挙はそれを浮き立たせるための「宴」でしかなかったようです。タイトルに反してほぼ全編宴の描写に費やしており、宴のあとの描写は最後に少しだけでした。
「宴」は野口落選という結果で終わり、その後の虚脱の中でかづは抵当に入れた雪後庵を取り戻そうとします。敵対する政治家に通じる事で雪後庵を取り戻すものの、その事で野口と破局しそれぞれが選挙前の生活に戻ってしまうわけです。選挙参謀の山崎の言葉を借りれば「すべては所を得、すべての鳥は塒に帰った」という終わり方でした。この熱狂とその後の虚脱っての実に三島由紀夫的で面白かったですね。

しかしこの作品、明らかに実話を元にしたためプライバシー侵害の最初の判例になったようですが、それにしては人物造詣がリアルすぎました。訴訟されるくらいなので当事者にインタビューなんかしてないとすると、ここまで微細に書いた三島由紀夫の想像力(妄想力?)に感服してしまいました。売れっ子小説家になるならこれくらい書けないといけないんでしょうね。

今さら機動戦士ガンダムTHE ORIGINを読む

機動戦士ガンダム ORIGIN
ガンヲタというのがどういう定義なのか分かりませんが、最近自分はそれに近付いている気がします。小さい頃見ていた再放送のTV版ファーストガンダムはロボットが戦争する程度の認識しかありませんでしたが、大人になってから見直したそれは人間ドラマが面白く、今さらながらすっかりはまってしまいました。映像作品はDVDレンタルで見尽くしたところなので、かなり前から気になっていた安彦良和リニューアル版「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」を最近読み始めてみました。

第1巻はやっぱり「ガンダム大地に立つ」な内容でしたが、TV版よりは現実的な安彦解釈が加わっていて、その差が面白かったです。全体の流れもTV版のようにホワイトベースが地球を一周するという流れには無理があるのか、北米→ジャブロー→ベルファスト→オデッサの順番に改編されており、エピソードの時系列は大きく動いていました。そのおかげで随分まともな展開になった印象でした。特に途中に挿入されるオリジナルのエピソード〜ダイクンの死からルウム戦役に至る政治劇は、安彦良和の本領発揮な感じで面白かったです。
まぁ明らかに集中力が切れてる感じのエピソード(黒い三連星とガンダムの対決)や回収しきれていない伏線があったりしますが、ファースト大好きな人ならおおよそ満足できると思います。結局中古で買い始めて最新の19巻まで一気に読み進めてしまいました。各巻の発売日をみると、続編が出るまでに半年近くかかるみたいなので、もう1年くらいは楽しめそうです。

最近はお台場にガンダムが立ったりしたせいもあり世間的にも外れた感じがしないので、どっぷり漬かってみようかと思います。ちなみに今どきの研修医の先生方が完全にSEED世代で、歳を実感して泣けたってのはここだけの秘密です。