読書

心の科学〜戻ってきたハープ

心の科学

高校時代の友人に、心理に興味があるならと勧められたのが「心の科学〜戻ってきたハープ」(原題:extraordinary knowing)という本です。あらすじとしては、無くなったハープがダウジングによって手元に戻ってきて以来、いわゆる透視のような現象について科学的アプローチをするようになった心理学者の体験談です。構成は全12章+エピローグと結構なボリュームですが、第5章くらいまでは自身の体験が主で、その後から他の研究者の業績を交じえた話が主になります。これを読み終えたので感想でも書いてみようと思います。

まず最初の著者の個人的経験とそれから導き出される仮説の部分は、突拍子もないので全然受け入れられませんでした。これで早速挫折しかけるわけですが、中盤から著者が他の研究報告についていろいろ調べ始め、それらが紹介されてくると面白くなります。それぞれは限られた事象の報告でしかないんですが、各現象の背後にある共通モデルを著者がアレコレ考え始めると、自分もそれに引き込まれて俄然面白くなってくるんですね。
結局多数の異なる研究者が透視や「透視」「予知」現象についての科学的実証実験を行い、ある程度の確実性をもってそういっ現象が存在しうるという事は自分的にも納得できました。ただどうしても受け入れられないのが「遠隔地を挟んだ人どうしの心がなんらかの形で接続され得る(もしくは同一化される?)」という著者の仮説です。もう少しもっともらしくて実証可能な部分から順に積み上げてくれれば、受け入れ易かったのかもしれませんが、ルポ的な文書のためそういう書き方をしておらず、とても残念でした。
自分なりに仮説を考えてみところ、論理的な説明を伴わずに正解を選んでしまう「勘」の延長上に「予知」や「透視」があるんじゃないかな〜という所に落ち着きそうです。ニューロンの塊である脳みそが複雑な反射弓の集合体だとすれば、論理的思考では解答が出せなくても何らかの「正しい」リアクションを起こせる「勘」は説明できます。同様にある程度対象の情報が分かっていれば、確率は低いけど「透視」「予知」じみたことはできるようになるんじゃないかな〜と思うわけです。ただこの仮説だと、事前情報のない遠隔地の状況やランダムな事象についての「予知」や「透視」については全く説明できません。うーん。やっぱダメか。
ま、脳味噌はブラックボックスで当の本人でさえも何を知っているのか全て把握しきれてない、という点では著者と同じ意見なのかも…とお茶を濁してみる。

あとどうしても引っかかったのは、実証困難で傍証から推測せざるを得ないという共通性があるにしても、量子物理学と心理学を同じレイヤーで語っている部分です。あくまで比喩として言ってるだけかもしれませんが、夢のある話だねぇ〜と笑って流す事はできず、むしろ胡散臭い感じがして残念でした。

とまぁブツブツ文句を言ってますが、最近読んだ本の中では最も考えさせられた本でした。まず「透視」「予知」に関する(比較的)科学的なレビューとして、非常に興味深かったです。それと既存の原理原則で説明しきれない現象に対して、自分なりに現象モデルを想像する楽しみがありました。一見して胡散臭い事象に著者が引き込まれてしまったのもうなづけるわけです。そう考えると、やっぱり研究者にこそ読んで欲しいなぁと思う本でした。

1Q84〜book1とbook2を読了しました

1Q84book11Q84book2
話題の村上春樹最新作1Q84ですが、なぜか発売日数日前にして買うことができました。出版社の煽りっぽい増刷報道を尻目に淡々と読み進めたところ、やっと先日読み終えたので感想を書いてみたいと思います。
ちなみに事前に内容告知を全くしないというのが著者の方針のようなので、Webのレビューなんかは全く見ずに読んでます。都合ネタバレしますんで読みたくない方はこの下は見ないようにお願いします。

物語は天吾という青年と青豆という女性(ともに30歳くらい)が、過去を書き換えられた世界…1Q84を舞台に展開します。天吾の方はふかえりという女子高生の書いた「空気さなぎ」を小説化して世の中に出し、また青豆は女性に暴力を振るう男性を非合法に抹殺する、その過程で「さきがけ」という宗教団体と関わり、そしてお互いに関わっていくというお話です。

各章は青豆と天吾の物語が交互に記されており、book1までは二人は全くと言って良いほど交わりません…というか同じ世界にいるかどうかも疑わしい感じです。物語は非常にゆっくり進み人物描写がとても丁寧なので、大事なことを見落とさないようにじっくり読んでみました。この巻では登場人物達は誰一人として損なわれず、天吾はふかえりと出会う事で自分の中にわずかな変化が訪れ、青豆は婦人警官のあゆみと出会い人生で2人目の親友になれそうな予感を感じます。物語の核心への兆しは最後にちょっとしかないので、book2で広げたお話を回収しきれるのか心配になります。
ところがbook2に入ると、様々な人が損なわれはじめます。それに伴い物語はダイナミックに展開しはじめ、天吾は自分の生い立ちと父親とに正面から向き合い、青豆はさきがけのリーダーとのやりとりからパラダイムシフトに至ります。そしてお互いの存在を強く意識しますが、せつない終局を迎えます。この展開のためにbook1はあったのね、というくらい物語に疾走感がありました。そのせいかbook1に1週間近くかけたのにbook2は2日間で読み終えてしまいました。

感想として、実に村上春樹的なモチーフと展開があり面白かったです。過去の作品を超える強烈な衝撃はありませんでしたが、book1で登場人物の生い立ちと内面を細かく書いているので、book2で起こる大きな変化にしっかり感情移入できました。特に天吾は生い立ちや価値観に感情移入するところもあり、他人事ではない気持ちになりました。最初は世界との対立みたいな話かと思っていましたが、意外に恋愛小説だったというのも面白かったです。
ただ終局を迎えるにあたって謎が残りすぎですし、青豆の最後はアレで良いのか?と思うところもあり、book2は煮詰めが足りない感じが残りました。なのでbook2はまた読み返す必要がありそうですが、実はbook3が出てもう少しすっきりした終局があるんじゃいないかなぁ〜と予想をしています。

半島を出よ!

半島を出よ上巻半島を出よ下巻
村上龍の「5分後の世界」を読んでいて、そう言えば似たような内容の長編小説「半島を出よ」を読んでないなと思い吉祥寺のLIBROで買ってきました。上下巻でかなりのボリュームの長編小説で、経済破綻から右傾化した日本に北朝鮮の反乱軍(と称する侵攻軍)がやって来て福岡を占領してしまうところからお話が始まります。

特に主人公は設定されておらず、高麗遠征軍を名乗る北朝鮮反乱軍と日本政府、占領された福岡のイシハラグループ(イっちゃってる詩人と少年犯罪者のグループ)の群像劇みたいな展開になっています。おかげで登場人物が非常に多く、特に北朝鮮側の人はカタカナ名なので全く覚えられませんでした。ただ巻頭に人物一覧表がついてますし、チョイ役も結構多いので案外困る事はなかったです。
上巻の内容は日本政府と北朝鮮反乱軍の対峙が中心で、主たる登場人物の背景が余すところなく語られます。日本政府の腑抜けた対応にイライラさせられますが、現実にこういう事が起ったら似たような対応するんだろうなと思ってしまうのが泣けます。読者にとって異質な存在の北朝鮮の特殊部隊と少年犯罪者の描写はかなり緻密にされているので、若干読みづらいと感じてしまう部分もありました。
下巻に入ると日本のSWAT、そしてイシハラグループが絡んで俄然イナミックな展開になります。文字通りのカタルシスや人物の内面変化があり、上巻で耐えた分は下巻でしっかり回収できました。

とにかく設定から人物造形までかなり細かく積んであるので、読むのは大変でしたが読了後の満足感は最高でした。久々に読み応えのある小説に出会えた気がしましたね。

村上春樹の新作小説が発売される!!

1q84
今年の5月末に村上春樹の新作が発売されるそうです。題名は「1Q84」で、公式サイトまであります。Webをあさってみると、ジョージオーウェルの小説「1984」をもじったタイトルなんじゃないか?とか、恐怖をテーマにしているだとか、実は恋愛小説だとか、魯迅にインスパイアされているとかいろんなうわさが飛び交っています。
1984年っていうと今から25年も前になるわけで、自分が7〜8歳、つまり小学校低学年の頃になります。正直弟と野原で遊んでいたくらいしか思い出せないので、wikipediaの1984年の項目を見てみると…結構印象に残る事が沢山ありました。覚えていたのはエリマキトカゲのCM、ホイチョイプロダクションの見栄講座(小学生が読むような本じゃないですが)、風の谷のナウシカが公開、ファミコンのゼビウスが発売、うーん懐かしいですね。

閑話休題。
他人の評価を見てしまうと余計な先入観で分析的に読んでしまうので、そういうのを見ないで発売日に買って読んでみるつもりです。自分以内だと2000年以降の村上春樹は心に突き刺さるような鋭さを感じないので、そういうデタッチメント系の話を久しぶりに読んでみたいなぁと淡い期待を抱いています。上下2巻の長編小説になるそうなので、今年の夏は楽しめそうですね。

マンガ「罪と罰」

罪と罰
随分前にWebのニュースでドフトエフスキーの「罪と罰」がマンガ化されるというニュースを見て「マンガ業界のネタ切れもここまで来たか…」と感慨深く思った気がしたんですが、そのまま忘れ去っていました。
で最近吉祥寺のLIBROでその「罪と罰」を見かけたんですが、絵柄に見覚えがあったので作者を見ると最近さっぱり見なかった落合尚之が書いていました。この作者は「黒い羊は眠らない」と「ダンデライオン」くらいしか書いてない寡作の人なんですが、やたら心的に濃い話ばっかり書くんですね。なので人のダークサイド話が大好きな僕は、この人の過去の作品は全て持っていたりします。ただ最近はさっぱり新作が出ていなかったので、もう断筆したんだと思っていました(と思ったら実は公式ブログまであったみたいです)。
そんなわけで店頭でえらく興味を惹かれたので、とりあえず1巻と2巻を買って読み始めいてみました。するとついつい続きが読みたくなってしまい、結局最新の4巻まで買って読みきってしまいました…ってこれ書いてる当直の間に5巻が発売されてますね。帰りに吉祥寺に寄って買ってかなきゃ。

以下ネタバレ注意

1〜2巻は主人公の裁弥勒(たちみろく)が女子高生売春組織のボス馬場光(ばばひかる:現役女子高生)を殺してしまう過程なので、ひたすら鬱屈していてちょっと読みづらいです。しかし3巻に入ると落合作品には欠かせない欲望の体現者、須藤魁(すどうかい)が出てくると、落合ワールドが展開されて俄然面白くなってきます。キーワードは「欲望と自己欺瞞」そして「この世界は地獄そのものだ」、依存的弱者であるミサの存在といい、まるで「黒い羊は眠らない」みたいです。
今後の展開がすごく気になるのでドフトエフスキーの原作を読んでみようかと思いましたが、結局マンガ版が完結するまで読まずにおく事にしました。無教養ってのも時にも役に立つ事があるようです。

最近マンガが面白くなってやまないbukkonでした。