読書

入門!システム思考

入門!システム思考の表紙
最近は学会演題に絡んだ文書書きが多く、煮詰まったときは新書の濫読で気分転換しています。なので本を読む量がかなり増えました。それで読む本が厳選されなくなったせいか、よく立ち読みせずに買って後悔する事も増えました。そんなわけで今回は、「システム思考」に興味があり「入門!システム思考」という講談社新書を読んでみたら、文字通り入門だけだった…というトホホなお話です。

いきなり書いてしまいますと、システム思考とは「問題があればそれを起こす仕組みを理解し、仕組み自体の改善を狙った解決方法を検討する」というアプローチのようです。で、全体の構成を簡単にまとめてみると…。

  • 1〜2章はシステム思考が必要な場面を実例を挙げて説明。
  • 3章はシステム思考をするための視点、「時系列」と「ループ図」を説明。
  • 4章は比較的良く見られる「システム原型」について一部説明。
  • 5章はシステム思考を使った行動。

1〜3章まではシステム思考についての導入で分かりやすい実例をかなり丁寧に説明しています。ループ図については、人体のフィードバックシステムを習っている僕らにはむしろ分かりやすい視点でした。なのでシステム思考とは、そういう視点を社会工学的に応用せよって事なのかな?と理解しました。
で、より実用的な匂いのする4章のシステム原型の説明ですが、これが全てのシステム原型をつぶさに解説しているわけでもなく、実に中途半端な内容で欲求不満になりました。そして5章ではシステム思考を学んだ上での行動指針を書いているようですが、これはかなり内容にまとまりがなく、全然しっくりきませんでした。

そんなわけで、立ち読みの段階で4章までざっと読み「これは面白そうだ!」と思って買ったところ、4章以降から急に尻すぼまりになり、家で読み終わったところで猛烈な残念感に苛まれるというはずれ本でした。問題を起こす構造に注目することを「システム思考」と呼ぶらしく、それについて研究している人が結構いる→つまり他に良書が存在するか可能性がある、という事を知れた所に存在意義はあったかもしれませんけどね…。
入門編にしても講談社新書の読者層ににとってはかなり情報量が少なく、もっと具体的な方法論を語って欲しかったなぁというのが感想です。

ナンバー2が会社をダメにする

ナンバー2が会社をダメにする
講談社新書が昔から好きでよく読んでいますが、最近ちょっと面白いなと思っているのがPHP新書です。自分以内の位置づけとしては、岩波新書が人文系で重めな内容が多くちょっと苦手で、講談社新書は比較的心理や医療系が多く、PHP新書が若干経済よりの印象です(あくまで私見)。
そのPHP新書で面白そうなものがあったので、幾つか読んでみました。最近読んだのが「ナンバー2が会社をダメにする」っていう本です。タイトルに反してナンバー2が何をすべきかというよりは、会社をダメにするのは「権威主義」と「属人志向」なので、社内をまとめる立場にあるナンバー2の人はそれに注意しなさい!という内容でした。

構成は全8章で第1章の「組織不祥事は意識決定プロセス(会議など)の障害による」という問題提起から始まります。以後第3章からは組織風土の中に権威主義と属人思考が芽生えると意思決定プロセスに障害が発生する、という事を実例を挙げて解説しています。属人思考や権威主義の徴候の実例を挙げているので、翌日からでも使える実用性が良いです。また読み進めて行くと権威主義と属人思考は表裏一体の概念のようで、総じて「検証をサボり実態のない何かに盲従する事」を表しているようです。
最後の6〜7章はナンバー2としてどうすべきかという事が書いてあり、タイトル的にはこれが最も大事なところのはずですが、残念ながらまとまりが弱く前半部に比べると主張が弱い感じでした。

で自分の周囲でこういう視点が役立ちそうなところを考えると、自分以内では権威主義は大丈夫そうかな…まだ若輩のくせに「何とかの権威」なんて聞くとつい疑ってしまうタイプなもんで。それよりむしろ教授を頂点とした医局組織や私立の病院の意思決定システムが、属人的に物事が進みやすそうな気がします。当然その中に身をおいている僕自身の意思決定にも、属人的要素が入り込んでいるんでしょうね。ただ確たる根拠なんてのは存在しないことの多い医療の現場では、判断がやや属人的にならざるを得ない部分もあるとは思います。だからこそ可能な限りそこに陥らない努力が必要なんでしょうね。

仮説として高いレベルまで昇華されてはいませんが、問題点を絞って事例を示しながらしつこいくらいに解説しているので、わりと臨場感を持って頭に入って来る気がしました。そういう意味で実用性の高い文書でしたね。ナンバー2でなくとも人に指示を出す立場にあれば役立つ事請け合いと思いました。久々に興味深い本でした。

前頭葉は脳の社長さんなのか?

前頭葉は脳の社長さん?
昔から心理学や精神医学に興味があったせいか、現在は認知症にかかわる仕事をしています。が、その基礎となる神経内科的な知識や、さらにその基礎になる大脳生理学的な事についてはあまり威張れるレベルの知識がありません。神経内科については仕事でかかわる関係上何とかなるんですが、大脳生理学に関してはほぼ素人レベルです。学生時代から神経生理学は大嫌いで、教科書を読むのはどうも苦手なんですね。
ただ最近は研究的な事に手を出そうかと思っており、そうすると大脳生理学的基礎知識がないと歯が立たないことに気がつきました。ってなわけで比較的読み易そうなブルーバックスシリーズを使って、知識の導入を企ってみました。最初に読み終わった「前頭葉は脳の社長さん?」という本をまとめてみます。

  • 第1章〜第3章:前頭葉の働きについて概要
  • 第4章:外側前頭前野(Broca野あたり)
    論理的思考を担当、他の部位から来た情報を作業記憶(ワーキングメモリー)として保持し操作する
    →背外側前頭前野:見た物の空間位置情報を処理
    →腹外側前頭前野:見た物の分類や意味情報を処理
  • 第5章:底部前頭前野(眼窩面とも呼ばれます)
    衝動と後悔を担当、情報に対する報酬評価とそれに基づく行動へのバイアス付け
  • 第6章:内側前頭前野(前部帯状回を含む)
    より高度な判断、葛藤の処理と他者への配慮など
  • 第7章:前頭葉の各部位の相互関係
    前にあるほど上位かも?
  • 第8章:意思決定のプロセス
    情報に対応し同時多発的に起こった行動刺激のうち最も強いものが自動的に選択

特に面白かったのは前頭葉の各部位別にその仕事内容が異なっていることです。これは神経心理検査の各項目と脳血流シンチの結果を比較する際にヒントになりそうです。あと意思決定のプロセスについても大雑把に理解できた気がします。大脳とは、お互いが複雑につながりあっている反射弓の集合体で、しかも外からの刺激でその繋がり方は刻一刻と変化していくもの、と言えるのかもしれません。そもそもちゃんと理解できてきるかどうか疑問ですが、ちょっと賢くなった気がしました。

愛と幻想のファシズムを読んで

愛と幻想のファシズム上下愛と幻想のファシズム上下

ここ数年村上龍に触れる機会があり、ちまちまと昔の本を読んでいます。その中で面白かったものの感想を今回は書いてみようと思います。題名は「愛と幻想のファシズム」という、タイトルを見られるとちょっと引かれてしまいそうな一冊です。ジャンルとしては政治経済小説になるんですが、どっちかというと主人公たちが極端な思想を元に日本を変えていく様子を描いた作品、という感じです。前回感想書いた希望の国エクソダスに比べると、昔のちょっとグロい村上龍のイメージに近いテイストの作品でした。

ストーリーは、ハンターとしてアラスカで生活していた鈴原冬二(通称トウジ)が、売れない映画監督である相田剣介(通称ゼロ)に出会った事で始まります。ゼロに日本を変えないかと誘われ、トウジは日本に渡ります。このトウジが弱肉強食の狩猟の原理を説き政治結社「狩猟社」を結成し、徐々に勢力を拡大していきます。
この狩猟の原理というのがちょっと分かりにくいんですが、押しなべていうと「弱者は淘汰されよ」という事のようです。ただお話の中の狩猟社の主な攻撃対象は力を持った対抗勢力で、そのトップを廃人にするとかかなり凶悪な手段で潰していきます。最初は弱者に直接手を下す事はなく、社会制度を支配する事で自然に滅んで行くようにしむけるんでしょう。作品後半には(おそらく社会制度としての)医療は不要であるという主張もされていて、医療従事者としては「そら言い過ぎなんじゃないの!」と思ってしまいました。
方法論的には極悪なんですけど、若い理想主義的な人はこういうファシズム的思想に染まりやすいんでしょうね。こういう理想を掲げ非情な手段で対抗勢力を潰して行くというスタイルを見ていて、オウム真理教の事件を思い出してしまいました。確かこの作品って地下鉄サリン事件が起こる前に発表されてた気がするんで、思想的に影響があったんじゃないかと思いました。ま、理想主義の限界が見えてきた今の自分には、むしろ懐古的な気持ちしか抱かせないんですけどね。

政治及び経済については自分は知識がほとんどないので、直感的には理解できないところも多々あり、ファンタジー小説を読んでいるような世界観のあいまいさを感じてしまいました。この辺は知識がある人は感じ方が違うんでしょう。
ただそんな知識のない僕でもストーリーの躍動感みたいなものは読めるし、それだけでグイグイ引き込まれるので一気に読み進めることができました。そう言う意味ではとても面白かったです。

正直全部理解できてもいないので内容の良しあしは評価できないんでしょうけど、少なくとも読んで後悔するような作品ではありませんでした。もう少し政治経済の知識がついたら読み直してみたいですね。

モテたい理由とは?!

モテたい理由
なんとも新書的でないタイトルの本なんですが、これが意外や意外!結構面白かったのでご紹介したいと思います。ちなみにこの著者の赤坂真理さんというヒトを僕は全く知らなかったんですが、小説家の方で結構有名なんだそうで、無知とは恐ろしいもんだと思った次第。

最後まで読み終わってから振り返ると言いたい事はあまり沢山ではなく、「男は一点集中で女はマルチタスク」「社会は流動性を増し男性よりも女性向けにシフトしている」という男女差と社会の変化を根拠に、若い女性向けの雑誌に広がる「女性は他者(特に女性)との関係性に価値を見出す」「女性はのキレイさの追及は男性不在」という概念について繰り返し書いています。
言われて改めて妻の買ってくる「cancam」(公式サイト)を見直すと確かにそう言うふうに書かれているんですね。つまりモテという言葉の意味は、実際に男にモテかどうかではなく、むしろモテと名付けられた特定の価値観とかスタイルを示しているんだって事みたいです。
作者が書いているように特に雑誌メディアがその傾向が強い印象ですね。まぁこれは男性向け雑誌(本文中の例えでいけばホットドッグプレス)が、女の子視点から遠く離れたモテを追及しているのに似ていますね。「男性は他者との関係性よりもモノに価値を見出し易い」けど「男性にとってのモテは、やっぱり女性不在」ってさっき書いた事とちょうど対応します。
若干極端に感じる部分もありますが、男の自分がcancamを読んで感じた違和感を明文化してくれたという点でちょっと感動しました。

もちろん実際の女性達はそんなメディアの語るステレオタイプの人ばかりではないし、特に僕のいる業界にいる理系女子はこの本で言うところの男性的な人も結構多い気がするんで、自分的には単純にメディア批判の本だと信じています。ただ、僕が知らないだけで世の中にはそういった人達が増えているのかもしれないし、社会が流動性を増すと男性は対応しにくくなるなんてくだりはなんだか空恐ろしくなってしまいました。

文章自体は散文的でテーマからの逸脱は多いし、最終章は付け足し的な自己開示が入っているし、主張を論理的に語る文体ではありません。ただエッセイ的な分だけ、その主張のリアリティ(というか生々しさ)みたいなものが感じられました。そう言う意味でも結構楽しめる本でしたね。