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海と毒薬〜小説と映画を比べる

海と毒薬小説海と毒薬映画
遠藤周作が久しぶりに読みたくなったので、気になってたけどまだ読めてなかった小説「海と毒薬」を読み、それを映像化した映画版「海と毒薬」もあわせて観てみたので感想を書いてみようかと思います。お話としては、終戦直前に起こった日本の医師による米軍捕虜生体解剖事件を元に、それに関わった医師や看護師を描いたものです。

小説の方は、終戦後の西東京で主人公(名称不明、遠藤周作?)が勝呂という気味の悪い医師と出会うところからお話が始まります。勝呂が件の生体解剖事件に関与したことに気がついた主人公が、その事を勝呂に問いうたところで生体解剖に関与した2人の医師、1人の看護師の回想が始まっていきます。
最初に勝呂の回想がじっくり語られ、田部夫人の手術死隠蔽事件や「おばはん」の死を経て、生体解剖事件に至ります。解剖シーン自体は結構淡々と描写されてあっさり勝呂編は終わります。次に同僚の戸田と看護師の上田の生い立ちが語られ、同様に事件に関わったところでお話が終わります。各登場人物が事件からどんな影響を受けたかをもっと知りたいなぁという点では、やや消化不良な終わり方でした。あとがきによると遠藤周作は続編を書きたかったそうなので、なるほどと納得。

映画版のほうは前半の名称不明の主人公は出てこず、勝呂が米軍に尋問を受けるシーンから回想として物語が始まり、ほぼ彼が主人公のまま終わります。相方の医師と看護師の回想もあるんですが、小説ほどの掘り下げはありません。なので心理描写は正直物足りない感じでした。ただ映画の良いところは、文書で読んでもイメージしにくい大学の雰囲気や手術のシーンが見れる事です。手術シーンは片肺挿管もガーゼカウントもしてませんでしたが、肺切除のくだりは妙にリアルで当時の手術の雰囲気はこんなもんだったんだろうなぁ〜と感心してしまいました。

小説でも映画でも一番気になる、何故彼ら医療人は生体解剖を承諾したのか?について興味があったんですが、両作品とも最後までしっくり来ませんでした(きたらきたで困りますが…)。人命が地球より重いかもしれない現代の日本に育った自分にとって生体解剖なんて絶対あり得ないだけに、その辺の心理描写に期待をしていたんですけどね…。やはり戦時で人がたくさん死んでいく空気の中、旧来の医学部制度の上司から指示をされるっていう状況を体験してみないと分からないんでしょうかねぇ。