No.319の記事

愛と幻想のファシズムを読んで

愛と幻想のファシズム上下愛と幻想のファシズム上下

ここ数年村上龍に触れる機会があり、ちまちまと昔の本を読んでいます。その中で面白かったものの感想を今回は書いてみようと思います。題名は「愛と幻想のファシズム」という、タイトルを見られるとちょっと引かれてしまいそうな一冊です。ジャンルとしては政治経済小説になるんですが、どっちかというと主人公たちが極端な思想を元に日本を変えていく様子を描いた作品、という感じです。前回感想書いた希望の国エクソダスに比べると、昔のちょっとグロい村上龍のイメージに近いテイストの作品でした。

ストーリーは、ハンターとしてアラスカで生活していた鈴原冬二(通称トウジ)が、売れない映画監督である相田剣介(通称ゼロ)に出会った事で始まります。ゼロに日本を変えないかと誘われ、トウジは日本に渡ります。このトウジが弱肉強食の狩猟の原理を説き政治結社「狩猟社」を結成し、徐々に勢力を拡大していきます。
この狩猟の原理というのがちょっと分かりにくいんですが、押しなべていうと「弱者は淘汰されよ」という事のようです。ただお話の中の狩猟社の主な攻撃対象は力を持った対抗勢力で、そのトップを廃人にするとかかなり凶悪な手段で潰していきます。最初は弱者に直接手を下す事はなく、社会制度を支配する事で自然に滅んで行くようにしむけるんでしょう。作品後半には(おそらく社会制度としての)医療は不要であるという主張もされていて、医療従事者としては「そら言い過ぎなんじゃないの!」と思ってしまいました。
方法論的には極悪なんですけど、若い理想主義的な人はこういうファシズム的思想に染まりやすいんでしょうね。こういう理想を掲げ非情な手段で対抗勢力を潰して行くというスタイルを見ていて、オウム真理教の事件を思い出してしまいました。確かこの作品って地下鉄サリン事件が起こる前に発表されてた気がするんで、思想的に影響があったんじゃないかと思いました。ま、理想主義の限界が見えてきた今の自分には、むしろ懐古的な気持ちしか抱かせないんですけどね。

政治及び経済については自分は知識がほとんどないので、直感的には理解できないところも多々あり、ファンタジー小説を読んでいるような世界観のあいまいさを感じてしまいました。この辺は知識がある人は感じ方が違うんでしょう。
ただそんな知識のない僕でもストーリーの躍動感みたいなものは読めるし、それだけでグイグイ引き込まれるので一気に読み進めることができました。そう言う意味ではとても面白かったです。

正直全部理解できてもいないので内容の良しあしは評価できないんでしょうけど、少なくとも読んで後悔するような作品ではありませんでした。もう少し政治経済の知識がついたら読み直してみたいですね。