☆ 2004年ちさちゃん日記★  6月 ☆
 

 6月23日 ☆ 本人が気がつかない心の中は

 今日は初対面の子と会う約束をして出かけた。と、言っても、いつものような「ナンパ」の初対面ではなく、 あたしのHPを見てくれてた子がメールをくれて、何度かメールのやりとりと、電話をもらって、 今日、会うことになったの。いつもよりは、ちゃーんと段取り踏んでるでしょー?
 お昼すぎに駅で待ち合わせ。全くの初対面だけど、最近は、携帯電話、という文明の利器があるっ。 待ち合わせの改札近くに行き、えーと、と電話を取り出した時にナイスタイミングで電話が鳴った。 「もしもし?」と電話で話すけど、生声も近くに聞こえるっ。あー、居たっ、居たっ!!
 二人で連れ立って、とりあえず、あたしのわりと気にいってる喫茶店に向かうの。待ち合わせの子は、 ここ何年かで目が見えなくなってきてるみたい。福岡から大阪に出てきてライトハウスと言う所に入所してるとのこと。 詳しくはまだ聞いてないけど、多分、まだ盲人暦は浅いんだと思う。心なしか、あたしの腕を持つのも、遠慮がち。
そっかー、あたしがしっかりしないとっ。久々にあたしが手引き?あー、最近、手引きしてないのに気がつく。 一人だと結構、場当たり的に歩いてしまうから。今日は二人分の車幅(!?)も考えながら歩かなきゃ。 あたしの手引きは「手荒な手引き」だから、気をつけてねっ。
 何度かいったことがあって、紅茶はポットで出てきて2杯半はたっぷり飲めるお店。店員さんも 結構、親切だったはずだから・・と、向かったお店。やっぱ、正解っ。お店のお姉さんは、やっぱり 親切だし、紅茶もたっぷり、ケーキも美味しかったそうな。あたしは、ミックスサンドと紅茶を飲みながら、 ひたすら喋ってたような気がする。実に3時間半ぐらい?
 晩御飯も一緒に食べようと、これまた、あたしの「お気に入り」なお店、ナタラージャに向かう。 一緒の子は、あたしのHPの日記も見てくれてたみたいで、「ああ、ここなんだ」とかって、喜んでくれてたみたい。
 ああ、そう、そのお店に向かう前に、トイレによったの。あたしはいつも、適当に入るんだけど、 今日は洋式のトイレを探してあげたりしてたら、そばに居たおばさんが、教えてくれた。ついでに、 流す所も聞いてみたりしたら、おばさんはご親切に「心配やから、まっとったるわ」って。 「あ、別に大丈夫ですよー」と、言ったんだけど、おばちゃん、ドアの外で待ちうけている。
 あたしより先に出た友達が、「ああ、ちゃんと流せたんか」とか言われてる。あたし、心の中で、 「やり方きいたんだから、できるに決ってるんだけどなー」とかおもいつつ、ドアから出たら、一応、お愛想。
 手を洗う時も、水道ひねってくれたり、友達のもひねってくれたりと、ご親切は親切なんだけど、 あたしが水道を自分でとめると「えらいなあー」と言う。う、うーん、それぐらいできるだべ?
 トイレから出る時や、ちゃんと階段とかも教えてくれたりと、結構、親切そうだし、いつものあたしなら、 ホント感謝でいっぱいなんだけど・・いやいや、ちゃんと感謝はしてるんだよ。だけど、なあーんか、 あたしの心の中で、100パーセント素直に手放しでは笑顔を返せないのは何故?。
 「どこ行くの」「ナタラージャっていうお店に」「え?どこやろ?見たるわ」と、おばさんは付近の案内をみる。 「大丈夫ですよー、あたし、ちゃんと知ってますから。ご案内できるぐらいわかってます」と、あたしは去りながらおばさんに言い、 友達を連れて、ひたすら進む。角のお店に突っ込みかけながら、進む。とりあえず、あたしの憩いの場所へ急がねばっ。
 「ここ、まっすぐ行くん?」って、いつのまにか、さっきのおばさんが、背後に居て、いつのまにかあたしの前を歩く。 (お、おかしい、ふりきってきたはずなのに・・・!?)
「ここをまっすぐ行くと、ギョーザのイチローってお店があって、そこを突き当たったら、左向けば、ありますっ」と、 あたしがおばさんに言う。「ふうーん。大丈夫やで、この道はまっすぐ何もないから、どんどん進んできていいで」と、 あたし達の先導をしてるつもりのおばさん。う、うーん、おばさんっ! あたしが道案内してあげられるだけ、よく 知ってるってことに気づいてないでしょー?あなたをナビしてあげてんのは実は、あ・た・し!!
 お店に着いたら、おばさんも食べてく、という。まー、いいか。お客になるなら。 お店に着いたら、いつも仲良しのオーナーさんはいなくて、コックさんが一人で居た。このコックさんは、 日本に来て、まだ何ヶ月かだから、そんなに日本語がまだ通じないの。だからと言って、英語が喋れないあたし。 それに、いつもコックさんは厨房にいて、あたしは今まで直接はなしたことなかったんだ。一度、話してみたいと 思ってたから、今日はチャンスじゃん?
 「あれ?一人ですか?もしかしてお店閉めようとしてる?」とコックさんに聞いてみた。「オーナーさんは?」 「今どっかブラブラしてる」ってコックさんが答えた。あー、良かったあ、ちゃんと日本語が通じたよ。 っていうか、このコックさん、日本語マスターするの早いかも?発音がわりときれいだよー。
 お店に入り、テーブルにつく。友達に「あれ?さっきのおばさんは、どっかいったのかなあ?大変な人だったよねー」とかって、 静かだから、てっきり居ないんだと思って言ったら、「私はどこに座ろうかしら?」と声がした。 やばいっ!今の聞かれたかしら??
 おばさんはそんなのお構いなしな感じで「Cセット!」と頼む。「あ、Cセットって量多いですよ」と あたしが教えてあげる。あたし、いつもAセットだけど、たしか、B、Cの順で量が多くなってくはずっ。 「でも、タンドリーチキンが食べたいから」と、おばさん。ああ、そう、なら、いいけどね・・。
 マイペースに注文するおばさんにきっとコックさん困るだろうな、って思って、あたしが、コックさんに 説明してあげようとするけど、おばさんは細かい注文が多くて、コックさんは、困ったらしい。 「なんか、電話かけにいったよ、あの人」というおばさんの言葉に、「コックさんは、日本語あまり話せないから、 きっとオーナーさんを呼ぶ電話してるんだと思う」と、あたしは答える。
 お店に入って、しばらく話してて、おばさんはインドのビールを頼み、うちら二人にもビールをふるまってくれた。 そして、話を聞いてると、おばさんはもうすでに近くの居酒屋さんで2時間飲んでたらしい。 「なあ、トイレであんたらに会わなかったら、こんなお店があることも知らなかったし、トイレでであった クサイ仲やんなあー?」と、大声で言うおばさんに・・・ハハハ、凄いおやじギャグ。えらいの、 連れてきちゃったなあー。もう随分、酔っぱらいかも?
 やがて、オーナーさんが戻ってきて、そして、丁度、インドから遊びに来てるオーナーさんの お兄さんもやってきた。今日は人口密度おおい店内となってるの。オーナーさんも日本語が上手なんだけど、 お兄さんも日本語がうまいっ。いつのまにか、おばさんの相手をしていた。
 「あんたも飲みなさい」というおばさんに、オーナーさんのお兄さんが、おばさんの向かい側の席を 指差し「ここ、いいですか?」と尋ねるが、答えがない。どうも、同じテーブルを同席するのは、嫌らしい。 「だって、なあ?」とあたしに何か同意を求めてくるが、あたしにはわかんないっ。 あたしは、いつも、気がついたらオーナーさんと一緒のテーブルでお茶飲んでるもん。なんでイヤなのか、あたしには理解しがたい。でも少しだけ、おばさんの心は読めるけどね。多分、ある種の偏見だと思う。
 いつもよりもにぎやかしい店内に、「ごめーん、えらい客つれてきてしまったなあー。」と、 あたしは心の中で呟いた。悪い人ではないんだよ、きっと。そう、悪気はないんだろうけどねー、 でも、オーナーさんのお兄さんに唐突なこと聞いたり、「それってさ、失礼かもよ」とあたしはひたすら心の中で呟くこともあったり。 「きっと、この人、寂しいんだね」と友達が小声で言う。うーん、そうなんだろうけどさ・・・。
 「この子らがトイレでオタオタしてて、見てられへんでなー」とおばさんが言う言葉に、 あたし「この人やっぱ、ある種の優越感なんだろーなあー」と心の中で呟く。本人は気づいてないけど、 「いいことしてるんや」っていう自己満足の。あたしが時々、感じてうんざりする種類の。
 手伝ってくれるのはね、そりゃ、助かるし、感謝なんだけどね。でもね、んと・・うまく今はまだ言えないけど。 そのうち、もっと冷静な頭の時に言葉を選んで書くけど・・。「自分は不自由な人の為にいいことをしてあげた」 なんてね、多少は思うのはいいけどね、でも、ある種、それに付き合ってあげてるあたしの方が「ボランティアなことも あるってのに気づいてよ!!・・と、最近、時々、思うのさっ。
 やがて、オーナーさんがあたしたちの注文したAセットを持ってきてくれた。 あたしはお皿の中身を友達に説明する。「向きが一緒かはわかんないけど、あたしのお皿で言うとね、上半分にナンが乗ってて、 手前にチキンカレーの入ってる器がのってて、その横らへんにご飯が持ってあるの。」と教えてあげる。 そして、「はいっ、これ、フォークね。そしてスプーンっ。」って、向かい側に座ってる友達に手を 伸ばして渡す。あたしが手を伸ばしすぎて、行き違ってしまうけど、「はいっ、はいっ、これね」って、渡す。
 お互いに見えない同志でのやりとりは、ALMAのみんなや、盲導犬連れてる仲良しの友達と行動を共にしてるうちに あたしは、自然とみについてるつもり。生活訓練うけてないけど、こーやって、身について行くものだと思ってるの。
 「ははは、あんなんしてる」と、おばさんがあたしたちの様子を見て笑う。う、うーん、福祉学習の仕事の時なら仕方がないけどさー、 今はプライベート!!見世物みたいな気分で見るのやめてくれるっ?と、あたしは心の中で気分を害するのであった。 ほんと、失礼なおばさんっ。
 「でも、あんたら、お皿の向きが逆だから、ちゃうで」と、おばさんが 言う。どうも、友達のお皿には下半分にナンがあるらしい。「でも、お皿のへりごしにそっと触れば、 わかることですから」と、あたしが言ったら、友達が「あ、触ってみればいいんだ」って、呟く。 あれ?もっと丁寧に教えてあげなきゃいけなかったんだねー?ごめん、ライトハウスで生活訓練受けてるから、あたしより、なれてるのかと思ってた。 あたしは、「習うより慣れろ」できてしまってるから・・・。ホント慣れてきて、勝手にやれてること多いんだもん。
 おばさんの言動に、心にひっかかるいろーんな屈託を押さえつつも、平然と食事をしてたけど、ある一言に あたしの仲の糸が少しだけピキッてきしんだ。
 「でも、あんたら、最近まで見えてたんやろ?」とのおばさんの言葉に初めは、聞こえないふりしてたんだけど、 しつこいおばさん、も一度、同じ質問してきた。「最近っていっても、どれぐらいのスタンスで言ってるのか?」って、 はぐらかすつもりで軽く答えた。だって、友達は最近、見えなくなってきてるんだよ。 あたしは、いろいろ言われるの、慣れてきてるけどね。友達のことも、少し気になるし、その話題を終わらせようとしたの。
 「だって、ギョーザのイチローとか、いろいろ知ってるから、 最近まで見えてたんやろ?」とおばさんが言った。あたしの中糸がもう何本かきしんで切れたっ。
ああー、せっかく回避しようとしたのに、ここで、こんな話をしなきゃ、いけないなんてさ。福祉なんとかの授業料を請求するよ、全く・・。
 「たとえ、自分が見えなくても人に聞けば、どこに何があるか、っていう情報は得られるわけです。 よく、見えないから何もできない、とか、可哀想とか、気の毒とか言われるけど、見えなくても、 できること結構あるんですよ。むしろ、見えなくなったからこそ、わかることも多いし。 世間の人の中には、貴方みたいに、「見えないと何もできない」と思ってる人が多いけど、そうじゃないんですよ。 「見えてないと何もできないの?」って時々、見えてる人に言いたくなる時もあるんです。見えてたあたしが、見えなくなって そう思うんです。」
 いつもは人当たりいいソフトな言い方のあたしが、メチャ丁寧に、でも、いつもとは違う雰囲気で 冷たく言い放った。さすがのおばさんも、しーんとした。
 ごめん、おばさんは悪気はないんだとわかってるんだ。だけどね、その人は悪くないんだけど、いつも思い知らされる世間の風潮に、時々うんざりするあたしが居るから。 それにね、一緒の友達は、これから、見えないで生活していかなければならないの。だから、世間の 風潮に負けて「見えないと駄目なんだ」なーんて思わせたくないじゃん?
 「勉強になるわ」とおばさんは言っててたらしい。(あたしは「やっちまったぜー」と思ってて 少しだけ心の中で反省してたから、聞いてなかったんだけど、友達があとで教えてくれた。)
 気の毒なのは、オーナーさんとオーナーさんのお兄さん。ごめんね、あまりにも、のお客産に、 珍しくあたしの堪忍袋が切れてしまっただけで、他の人には怒ってないんだよー。ほんと、こんなの めったにないこと、ほんとに初めて言い放った暴言なんだから・・・。
 しばらくして、おばさんは、お勘定って、言い、すごすごと帰っていった。 「じゃあ、またね」と言われたけど、ごめん、あんまし、もう会いたくないよ、心の中で呟く。 だって、うちらだけじゃなく、お店の人にも失礼だったんだもん、えらい客についてこられたもんさっ。
 「あの人、面白い人だったね」と、オーナーさんが言う。「んー、っていうか、結構、失礼な人だよ。 ごめん、変な客つれてきちゃって」と、あたし。「あの人はだいぶ酔ってたからだと思うよ」とオーナーさんの お兄さんが言う。そうなんだとは、思うんだけどね、酔ってなくても本人は気づいてなくても、 失礼なことを平然と言う人もいるんだもんね。
 「あのお客さん、二人の分もお金払っていったよ」というオーナーさんの言葉に、あたしたちは顔を見合す。 「なあーんて良い人だったのかしら!」なんて、おどけて言ったあたしだけどね、多分、おばさんは、 あたしが怒ったから、せめてもの罪ほろぼしと思ったんだろうな。だって、あのおばさんの性格からして、 「あんたらの分、おごったるわ」って、大きな声で主張していそうなのに、あたしたちに気づかれないように、 コソコソお金を払っていったみたいだから。ちょっと、悪いことしたかな、って、思ったあたし。 でもね、物珍しく見られるのに、頭に来ることがあるから。その人には罪はないとわかってても、少しうんざりすることあるから。
 それでも、少しは反省してたあたしにオーナーさんがレモンティーを持ってきてくれる。 それから、あたしはお気に入りのマサラチャイも追加注文する。友達は初めてマサラチャイを飲んで喜んでた。
 それから、友達の門限があるから、急いで駅に向かった。 JRに着いて駅員産にお願いしようと思ったんだけど、忙しそうだったので、 「すみません、じゃあ、あたしがホームまでついていって良いですか?」と聞くと、一人の駅員さんが 「じゃあ、何両目の何番目の車両に乗ったかを降りる駅へ連絡しますから」と言う。どうも、あたしは見えてると 思われてるらしい?ま、いいかっ。見えてなくても、後で周りの人に聞いてみたら良いねっ。 東京の山の手線なら、各ドアに点字で書いてあるけど、西日本はまだそんなのないでしょー?
 いつも利用してるから、友達をらくらく手引きしてホームへ上がり、電車を待つ。そしたら、さっき、 「何両目かを見てきて」って言った駅員さんが、やってきて、「車両わかりました。先方の駅に連絡しときます」と言って、 また去っていった。駅員さん、あたしの白杖に気づいたのね?そうっ、手引きしてるのが、必ずしも晴眼者ではない、 ってこともあるのさっ。
 友達の電車を見送り、改札の所を通ると、「ご苦労さん、ありがとーね」と 駅員さんが声をかけてくれた。あたし、にこやかに会釈っ。
 今日はいろーんなことがあったけど、まっ、こんな日もあるさ。 楽しいこともいっぱいあったから、プラスの方が多いしねっ。


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