1999年5月ゴールデンウィーク明け、あたしは正直いって、途方にくれていました。 その年に入って自分の目がどんどん見えなくなっていく自覚がでてきて、覚悟はしていたとはいえ、 けっこう落ち込み始めました。バイトをやめなければならなくなり。「この目の状態でやれなくなるのなら これから先、どうすれば良いのだろう?」そう途方に暮れていました。自分はまだ、もう少しなら できそうだと思っていたあたしなのに、不景気と「かわいそう」「あぶない」という見えている人の都合。 「今のあたしの目でそう言われるなら、これから先、見えなくなったらどうしたら良い?」 少し途方に暮れてしまったのかもしれません。 この時「いろいろ差別されることもあるけど・・・」の意味が少しだけわかったような気がしました。
MOOVにバイト、その2年間ほどのとても忙しかった日々が、いっきに暇になってしまった。 ・・・これから、どうしよう。動かなければいけないのに、あたしには、これから先の自信がなくなって しまったかもしれない。そう思いかけていました。
よっぽど思いきったことをしなければ、もう動けないかもしれない・・・そう思っていた5月の末、 あたしは東京へ行きました。友達と上京したついでにALMAの事務所に行ってみよう。 これからやらなければならない仕事の為に。・・・そう確か仕事の為に行ったはずでした。
あの時、まさかALMAのメンバーに会えるとは思わずにいたんです。
MOOVのおじさんには「とりあえず、マネージャーさんに会ってきて」と言われ、そのつもりで
電話してみました。いつもグズグズしてしまうあたしが珍しく、すぐに電話をしたのがタイミングだったのでしょう。
「今日だったらメンバーに会えますよ」の言葉に、知らない場所に行く不安なんて吹き飛んでしまいました。
途中、とても親切な女の子に出逢い、その子のおかげで迷いながらも何とか会場に辿り着けました。
「実は彼らには、まだ話していないのです」というマネージャーさんの言葉。
「えーっ、あたしの事、わかるかなぁー?」その時、会場に着くまでの1時間の間に何故だか声が
みるみるうちに枯れてきて、あたしの声はまるで他人の声のようになっていました。それに彼らに
とっては仕事関係だろうからなぁー、神戸でならともかく、きっと分からないだろう・・・。
「みんな、友達を連れてきたよ、誰だか当ててごらん」というマネージャーさんの言葉に、一人はたまたま見えてしまう
位置に座ってて、あたしを見て大笑いしてるっ。あとの3人は一生懸命、考えてる・・。
「ああ、やっぱり、当らないだろうなぁ」そう思った時に「はるばる来てくれた友達でしょー?サッちゃんっ!!」
正直、とっても嬉しかったです。「えーっ、何で分かったのぉー!?」のあたしの声に
「うわぁー、別人の声っ!?」とびっくりする4人。でも「大丈夫、声は別人だけど、喋るとサッちゃん」の
言葉にちょっと照れくさいのと、ちゃんと認識されている気がして嬉しかったです。
その時ALMAに仕事がはいってたおかげで、彼らの演奏も聞くことができました。
初めて彼らに会った時にも聞いたことのある♪君の役目は幸せになること を聞けた時は
「ここまで来て良かった・・・」と涙が出てきました。
彼らの楽曲は勢いのあるものや、ポップでさわやかんものもありますが、バラードの曲は
無意識のうちに強がってた心を楽にしてくれるような気がします。ホッと素直に力が抜けるような
そんな気にさせてくれます。そんな彼らの曲を聴いて、いつも無理をしすぎている自分に気がつきます。
あの時、思いきって東京へ会いに行き、快く迎えてくれたみんな。
これからの事を途方に暮れかけていたあたしにとって、彼らは堂々としていて、たくましくて
頼もしく思えました。あたしの方が臆病なのかもしれない、彼らと一緒に居れば、あたしでも強く
なれそうな、そんな気がしました。
あの5月の時に東京で聞いたある1曲がとても心に染みたこと、今でも覚えています。
それまでに3度は聴いたことある曲なのに、何故かあの時、心にズーンと響いてきました。
電話の向こうで泣きじゃくってる友達の為に、ただ聞いてあげるだけしかできないけれど・・・と
いうような内容の曲です。ALMAなら本当にそうだろうな・・そう思わせるような曲です。
♪ だから今ここで、歌をうたうよ。君の痛みが消えるように。この声が君の杖になって、新しい一歩、
踏み出せるように♪
このサビの部分を聞いた時、「ALMAのみんなと一緒に居たら、きっと強くなれる」そう強く思えて
涙が出そうでした。
あの時、もしALMAに会いに行っていなければ、あたしは今でも途方に暮れたままで、
立ち止まったままだったかもしれません。
普通、中途失明者は『今まで見えていたこと』にこだわってしまって、『見えなくなること』を
なかなかすぐには受け入れられないのかもしれません。それを受け入れられるにはかなりの時間が
掛かるのかもしれません。
あたしもあの時期に彼らに会わなければ、『見えなくなることへの怖さ』から、見えている人を
嫌いになっていたかもしれません。
今のあたしは、以前ほど、『見えていること』に拘らなくなってきました。
見えなくなってくることによって、案外、『見えてくるモノ』も結構あるのです。
今は、自分よりも『見えていない』友達ができました。そのおかげで『見えなくなる怖さ』は
少し薄れて来たような気がします。(それでも、いよいよの時はかなり落ち込むのでしょうが)
良き先輩たちが居るのは心強いものです。
もしかしたら、あの5月に、あの歌を聞いた時が、あたしにとっての『新しい一歩』を踏み出す キッカケになったかもしれない、今はそう思えます。
そして、いよいよ、最後の覚悟をしなければならない時期がきっと近づいています。 覚悟はできているはずだけど・・いざとなると度胸がないもの。 あたしは、もう一度、大きな一歩を踏み出すことができるのでしょうか・・・。(2001年 秋)