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 黒湯山(2007m)

長野・群馬県 2013.09.06 単独 マイカー 黒湯山 三等三角点
コース 登山口(5.40)---黒湯山(6.15)---林道山田線(11.55)--七味温泉(13.15)

【登山道を見失い、猛烈な密藪との戦い。苦難の山行記録】

黒湯山々頂は背丈を越す笹の群生

万座高原の中級山岳、しかし山頂までの高低差はたった200mでお散歩気分。ネットと地図によれば簡単に往復できるはずだった。多分往復1時間程度だろうか。

万座温泉から須坂市方面へ3~4キロ走る。地図の1838m地点の広い空き地に駐車。ここから山頂へ向けてか細い登山道が延びている。最初のガレの縁をたどると尾根道に変わる。

笹藪がうっとうしいがこの程度はよくあることだ。道は比較的明瞭で迷うところはない。ちょっとした岩は左手から巻くようにして通過。途中上下レインウエアを着用、笹露でびっしょり。
0数分歩いて平坦地に登り着いたところで道が消えた。とうやら山頂らしい。笹薮の中を探してみたが三角点はみつからない(帰宅して地図と照らすと、山頂は目の前にもう一つ小さなピークがあって、そこが三角点らしい)ガスが濃く周囲の視界も非常に悪い。
 


この後大変な苦難が待っていた。

登って来た頼りない踏跡を頼りにして下山にかかる。しばら下ると、登って来た道とはちがうような気がする。相変わらずガスき濃く、視界は効かない。ここで山頂まで戻るべきだった。しかし「道を間違えるはずはない、気のせいだ」と呑気に考えてそのまま下っていく。

こん急坂はなかったはず?登りのルートと違うこは明らかだ。携帯していた赤布を、2~3カ所残しておけば間違わずに済んだだろうと後悔。山頂に戻ろうか・・・しかし間違いなく山頂へ戻れるという自信はない。感では北へ寄りすぎている、南へ軌道修正してみよう。

背を超す笹(篠竹)が濃くなって動くのに苦労するようになる。迷ったことをはっきり認識する。迷ったときに下へ降りるのはセオリーに反する。密藪を必死に漕ぎ分けながら急峻な斜面を這い登る。竹に滑って転び、打ちつけ、さらに編んだような竹に挟まって足を抜くのも一苦労。とにかく上(尾根)へ登り返そう。編んだような竹藪を一本づつほぐして進む。1メートル進むのも容易ではない。経験したことのない猛烈な密藪。竹に滑って頻繁に転ぶ.手足総動員で登ったピークは岩峰、とても越えられそうもない。仕方なくふたたび下降。気がつくと帽子がない。現在地がわからず、濃いガスで太陽も見えず、コンパスが役に立たない。どっちへ進めばよいのか・・・?かつてない緊張がつのる。

そのあとも、とにかく尾根上へという思いで2回高みへ這い登ってみたが登山道らしいものに出会うことができなかった。
山頂から20分もあれば下山できるはずだったのに、時間は容赦なく過ぎてゆく。焦り、緊張、暗くなる前に密藪から出られなかったら・・・不安がつのる。これまでにもさまざまな体験をしてきたが、動物的感で何とか脱出してきた。それと比べても今回は様子がだいぶ違う。不安は募るばかり。
「遭難」が脳裏をかすめる。こんな藪の中では探し出すことなんか不可能。夜は気温10度以下になるだろう。

這い登ったところは立ちはだかる岩壁

手足総動員で藪をかき分けての登リ降りの繰り返しは、表現できないほどきびしい。体力温存も考えなくてはならない。役にたたなかったが、首にかけていたコンパスもいつの間にかもぎ取られてなくなっていた。

どこでもいい、今は何としても自力で安全なところへ脱出することが第一。
網の目状態にからみあった篠竹は、体力で押し開くことが無理。一本づつほぐすように左右に分け、通り抜けていくために時間と根気、それに精神力だ。 

山頂をあとにしてから5時間近く経過。順調に降りていれば20分ほどだったはず。体力消耗も著しい。食べ物はゼロ、水は500ccボトル一本のみ。手も脚もすり傷と切り傷、そして打ち身。だが痛みを感じる余裕がない。体力的にももう残りの余裕はあまりない。 

ふと見ると、密藪の下に獣道か、あるいは以前人の歩いていた道か、途切れ途切れだがつづいている。その先がどこかへつながっているずだ。今はそれが一筋の光明。篠竹をかき分け、時には腹ばいで潜り抜け、力を振り絞っていると突然林道へ飛び出した。救われた!ついに藪を突破すねことができた。緊張感が解け、疲労もあってへなへなと座り込んでしまった。

地図がないのでこの林道がどこへ通じているのか、どのあたりにいるのか見当もつかない。どっちにしても駐車場所には戻れない。林道さえ下って行けば人家のあるところへ出られることは間違ない。山頂から林道へ出るまで、つまり山中の密藪をさまよっていたのは6時間近く。よく耐え抜いたと思う。

林道は楽園の遊歩道かと思われるほど歩きやすい。疲れた足でもすっすっと前に出る。1時間余りだって行くと、紅葉で名高い松川渓谷の最奥『七味温泉』があった。
ようやく自分の現在いる場所が確認できた。宿の女将さんの親切と気遣いが涙が出るほどありがたかった。おかみさんがタクシーの手配をしてくれたり、午前中で営業終了したにもかかわらずソバを作ってくれ、「上がって休みなさい、温泉へ入ったら」と親切に、何回も何回も礼を述べ、駐車場所へと戻ることができた。

タクシーで万座高原の駐車場所へ。帰宅して家内にはことの次第をすべて告白、案の定「もう山へ行くのはやめて」と言うのも無理はない。反省の残った登山だった。

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早朝5時40分登山開始がラッキーだった。簡単に往復できると思って12時ころの出発だったら、山中で夜を迎えることになっただろう。20数年の登山歴でも、数少ない緊張の山行になってしまった。反省すべきはいろいろあります。
この山域は根曲り竹の「竹の子取り」で知られ、毎年竹藪に迷い込む遭難事故によって死者が出ることで知られるとい話もあとから耳にした。

 
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