山岳巡礼  hkk-1507 ≪山岳巡礼≫のトップへ戻る  

滝子山(1590m)

北海道

 1990.03.05

妻同行   三等三角点
コース

笹子駅(8.15)―――吉久保バス停(8.31)―――堰堤(8.54)―――道証地蔵(9.14)―――右岸に移る(9.40)―――切石(9.50)―――東西長窪沢分岐(10.26)―――笹藪―――小尾根取付(11.24)―――造林小屋(11.43-11.48)―――滝子山(12.16-12.35)―――つつじヶ丘(12.44)―――檜平(13.00)―――桜沢上流(1341)―――車道(14.00)―――藤沢集落(14.30)―――初狩駅(14.40)

 1990.5.12 大蔵高丸―大谷ケ丸―滝子山―大鹿山 はこちらへ

滝子山山頂

笹子駅で下車したのは私一人。
甲州街道を笹子川に沿って大月方面へ。登校の小学生が「おはようございます」と元気に挨拶、あわてて「おはよう」と返すが、半分声が喉につかえている間に、子供達は元気に通り過ぎて行った。

吉久保入口バス停を左折、集落に入り神社の角の道標に導かれて畑中の道を進む。春の気配を感じさせる長閑さの中、「チィーツイチイツイツイ」小鳥のさえずり。

中央高速道をまたいだ先の林道から、薄暗い植林の大鹿沢沿いを上って行く。道標が多すぎるほど目につく。笹子駅から1時間ほどで大鹿峠と滝子山の分岐点、道証地蔵(みちあかしじぞう)に着く。ようやく山道となり、芽吹き前の明るい林となる。

清流を渡って右岸へ。切石を高巻くあたりで高度を500mほどを稼いだことになる。このあたりから雪を見るようになる。大曲峠への道を分けた先に10mほどの飛瀑のなどもあって、小渓とはいえなかなか良い雰囲気がある。

雪は徐々に深くなってきた。急流、なめ、変幻する小渓を楽しむ余裕がまだあった。沢はY字に別れ、道標に従い右へ。雪はさらに増して道形もやや不明瞭、立ち止まり確認する作業が増える。歩き始めて2時間余、造林小屋に着く。雪上には人の足跡は全く見当たらない。

疲労感もなく、『滝子山へ』の板切れの表示に従い、勾配を増した登りにかかる。道は明瞭なるも笹藪のような感じ。葉はたっぷりと露を含んでいる。雨衣上下にゴア帽子、スパッツで完全武装に変身。丈余の笹はものの10歩か20歩もすると、帽子から足まで雨に降られたように滴が流れる。完全武装でも中まで濡れそうだ。

ちらちらと舞い落ちてきたのは雪。今日の予報は晴れのはず。手は凍えて痛みすら伴う。手先の神経が薄れて行く。ガマンするしかない。さらに高度が上がると、笹の葉に乗った雪はそのまま氷りつき、雪の重みで登山道に倒れ込んでいる。踏み付けたり、蹴払ったり、杖で持ち上げて道を開いたりして進むという難儀を強いられるようになってきた。

唐松林の中の笹薮は登山道の確認も難しい。道標も見当たらない。笹は雪圧に押し倒され、没した状態から推測すると、今冬このルートを歩いた登山者はいない感じだ。

倒された笹下の道を探りながら、辛うじて分け進む。緊張感が高まり、先ほどまで呑気に滝を愛でていたのが嘘のようだ。ルートを外さないことに神経を集中。先を考えると手袋を濡らしたくないが、ガマンできずに着用。ここまでは不明瞭ながらかろうじて道形を追うことができた。

ついに進む方向がつかめなくなる。右手等高線レベルの笹薮、左手は尾根に続く雑木と笹の混交した斜面。決めあぐねた末、雑木斜面から尾根に取りついてみることにする。

足首までの雪を蹴散らし、藪を分けてがむしゃらに尾根を目がけてて登る。斜面上から下に向かって雪に押し倒された身の丈以上の笹を踏み分け進むのは並大抵ではなかった。たどり着いた尾根には、踏み跡はおろか縦走路とおぼしきものは識別出来ない。樹間を透して、右前方に高みらしいシルエットが霧にかすんで見える。滝子山か?

無駄になっても、この尾根伝いに高みまで行って見るか・・・。尾根はすぐ先で大きく下っているようだ。どんな下りか確認出来ず不安が大きい。“迷ったら元の場所に戻る”この鉄則に従い、先ほど道の途切れたところまで戻って探し直すことにする。

倒れた笹を杖で起こしてみると、あった、やはり道はちゃんと続いていたのだ。もう少し丁寧に探すべきだった。しかし笹薮は相変わらず。途切れがちな道を探しながら、時間をかけて慎重に進むと、ようやく笹薮を抜け出ることができた。樹相がブナ林となり、道標が滝子山と大曲峠を指しているのを目にして、ようやく安堵する。

道標からは直角に90度右に折れ尾根の登りとなる。雑木の尾根は一面の雪で道はほとんど判別出来ない。ただ忠実に尾根をたどってさえ行けば滝子山に着けると信じながらも、多少の不安はぬぐえない。せめて足跡のひとつでも、赤布の一切れでもあればと思わざるを得ない。

下山に要する時間だけは十分残すよう、持ち時間を考えながら頑張る。雑木林の隙間に見通しがきいてくると、登山道らしい感じがつかめてきた。この屋根上の無垢な雪面に、坪足の跡を残して30分も登っただろうか、霧の中の小さな平坦地に小屋を見付ける。外観は荒れているが中は比較的しっかりしている。小屋の前に道標が立っている。一方は大谷ケ丸、反対側に滝子山。ようやく安心感が広がる。笹薮を分けてここまで1時間半、その二倍も三倍も歩いた気がする。

小屋に入ってザックを下ろし小憩。テルモスの熱い紅茶が元気を回復してくれる。
積雪は膝下あたりで白一色、足下に道は見えないが、方向だけはわかる。道標の指す方向へ進む。樹問を100メートルも進むと急斜面に突き当たる。斜面には潅木が植生、直登はかなり厳しい。斜面左方、水平に植生が切れているので、それをしばらく進んでみる。しかし登山ルートと言う感じがしない。戻ってやりなおし。

急斜面を見上げて、よし、登れるところまで頑張ってみよう・・・最初の20メートルは雪を掻き分けて何とか登ったが、潅木に遮られるともう進むことは困難。手近な木につかまってぐいっと体重を引き上げる。しかし足場が悪い。雪と一緒にずり落ちる。横に移動して足場を求める。太腿まで埋まる雪、胸につかえるような急勾配に悪戦苦闘。右に左に移動しながらそれでも少しづつ高度を稼いで行く。登りやすいルートを探して移動しているうちに、だんだんと自分の位置が不確かになって来た。しかし“足跡を残してあるから大丈夫”と気持ちを落ち着かせる。上部に大きな枯れ木が見える。頂上はその方向と見当をつける。潅木が密になりルートもままならない。強引に潅木を越えようとして跳ね返され、頭から雪の中に転落する。もうこれ以上この急登は危険と判断。戻るべきか?左手水平方向に灌木の切れ間が窺える。そこまで移動して見ることにして、木にしがみつきながらトラバースして行くと、何と踏み後の残る尾根ではないか。やった―、ついに登山道に出た。

小屋を出てすぐに急斜面に取りついたのが失敗だった。あの道標の方向に忠実に進もうとしたのが誤りだった。考えて見れば道標は寸分違わぬ角度で方向を示しているわけではなく、おおよその方向を示しているに過ぎない。

足跡は登りと下りにそれぞれ一人分、つまり往復の足跡だ。一週間はど前のものか。もう安心だ。先程まで目印にしてい枯れ木を右下にして、馬の背状の急尾根をわずか登るとそこが滝子山の山頂だった。木片に『滝子山山頂』と記されていた。

久しぶりに緊張した登山だった。前半の楽々気分が一転、集中しと気力で踏むことのできた頂に感慨。私なりに登頂の喜びは大きい。霧で眺望はないが頂に立っただけで十分満足だった。粉雪がちらちら舞う寒さの中、紅茶とパンで一人登頂の喜びをかみ締めた。

案内書には「三角点とその先に好展望の絶頂があり・・・」となっている。頂上の雪を石で蹴散らして三角点標石を探すが見つからない。好展望地の方にあるのかもしれない。一瞬霧が消えて登って来た尾根続きに標柱らしきものが見える。三角点峰かもしれしない。
20分ほどの休憩で足跡を追って下山にかかる。数分歩くと小さいコル、三叉路の分岐に立派な道標があった。造林小屋からこのこのルートでコル、山頂へと登らなくてはいけなかったようだ。足跡さえ外さなければあとは心配ない。緊張からの解放感が広がる。コルの先の小ピークで、あたりの雪を掘ると三角点標石が出てきた。

急な坂をグリセードを混ぜながら快適に下って行く。登りの困難に比し、道標もしっかりしている。登りにとったルートは冬用には不向きだったらしい。
下り着いた集落で、老婆が「ご苦労さん、ここから富士山が良く見えるのだがな。今日は気の毒だな」と慰めてくれた。道々、「ここでは行き会った人にあいさつします」と書かれていた。


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