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 ■■■ 快哉の残雪登山 ■■■
木ノ根山=きのねやま(1135m)細蔵山=ほそぞうやま(1551m)

長野県 2006.04.28 単独 マイカー 木ノ根山 三等三角点 地図 剣岳北西
コース 早月川・鍋増谷の出合(5.35)−−−木ノ根山(7.45)−−−1330mピーク(9.10)−−−細蔵山(10.25-10.50)−−−1330mピーク(11.30)−−−休憩10分−−−木ノ根山(13.22)−−−鍋増谷の出合(14.25)
(鉛筆を忘れ、時刻は記憶のためあいまいです。出発、山頂、帰着だけは正確です。この中には2〜3分の立ち休みが何回も入っています)
細蔵山山頂にて(背後は剣岳)

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細蔵山は「知る人ぞ知る」と言われる富山県の秘蔵っ子のような存在の一つ、私も昨年始めて山友C子さんから教えてもらって知った。
今年の残雪登山はC子さんたちとの細蔵山を考えていた。10日前の4月17日、C子さんたちは細蔵山へチャレンジ、私は天候不安定を理由に見送った経緯がある。(C子さんたちは結局山頂まで至らずに引き返してきたという)

細蔵山の目玉は剣岳の展望、これが得られなかったら登る値打ちは半減、故に文句のない快晴の日を待ち望んでいた。そしてその日がようやくやってきた。前夜の天気予報で再確認、穏やかな快晴。よし、決行。好天とは言え厳しい残雪の山、事故だけは起こさないよう肝に銘じて出発。相棒のない単独行であればなおさらだ。

登山道は途中までも拓かれておらずまったくの薮山、雪のあるとき以外登頂は不可能だという。
滑川ICを出てから早月川沿いの剣岳公園線を伊折へ向かう。夜明けにはまだ間がある。突然閉鎖されたゲートにぶちあたり仰天、先日この道を走ったはずのC子さんからもそんな話はなかった。土砂崩れでもあったのか、ゲートの先を見ると落ち葉などが散乱していて、もう何ヶ月も閉鎖となっている模様。道を間違えているはずもないし・・・。車を降りて思案。いくらか白み始めた中に、ふと見るとゲートとは別のダートが左手にある。いぶかりながら車を走らせると、ダート区間はわずかで、再びきれいな道へとつながった。諦める寸前だった。

伊折橋手前で早月川右岸の道へ入って様子をうかがうが、尾根末端部の取付を確定できずに行ったり来たりする。5時を過ぎて明るさも増してきた。何か目印はと探すがそれらしいものもない。とにかく尾根末端と思われるところに車を止める。(ネットで「鍋増谷の小さな橋を渡ったところが取付点」というのを見ていたので、その橋を探したが見つからない。実は橋ではなくて水流を大きなパイプで早月川へ導いていて、パイプの上は土を盛っただけのダート道としか見えなかったのだ)

杉の木20本ほどが一塊になっている林のところまで行くと、杉の幹に赤ペンキで丸印がついていた。これで間違いなしと確信、あるかないか分からないほどの踏跡へ入った。しばらく登ると踏跡は消失も同然、薮こぎに変わる。すぐに残雪帯に変わることを期待して、昨夜の雨で濡れた潅木の露に濡れながら歩きよさそうなところを拾って行く。遅々たる歩みに時間のロスが気になる。予想外に林道へ飛び出したが依然として雪はまったくない。薮こぎを嫌って林道をしばらく進んで適当なところから尾根へ上がることにする。ところが尾根だけがどんどん高くなっていってしまう。これは大変と急斜面を尾根目がけ、擁壁保護の金網にピッケルのピックを引っ掛け強引に這い登る。まるでガケ登りだ。

このあともさらに薮こぎがつづき、杉林に入ってからようやく少し雪が見えはじめ、さらに樹林を右に左にと登って行くと雪の上を拾えるようになってほっとする。40分前後薮こぎまがいの重労働を強いられたようだ。しょっぱなから無駄な体力を使ってとんだ大汗をかかされた。
帰りは尾根を忠実に戻ればいいのであまり心配はせず、薮の通過にも目印の赤布は一切残さなかった。

標高点の645mや835mがどこだったか意識しないうちに通過していた。樹間から右手前方に大日岳からつづく早乙女岳などが望めるようになる。天気は予報どおりのピーカン、このあとの展望を想像するとわくわくしてくる。
雪上には登山者の足跡は皆無、最近の降雪からあとは誰も入山していないのか。ときどきカモシカと思われる足跡、それに熊の足跡は何回も目にし、ときには熊の足跡に合わせて歩く場面もある。しかし爪の跡まで明瞭に残っているのを目にしては心おだやかではない。何となくあたりの様子を見回したくなる。熊よけの鈴も、ことさら鳴るように気を使う。

雪の状態は表面が凍ったクラスト状、いわゆるモナカで前に出した足に体重をかけたとたんに20センチほどストンと落ちる。この雪は足への負担がことのほか大きい。ところによってはまったく沈まないところもあったりする。
稜線右方に剣岳、左には毛勝三山方面も見えてくる。すばしらい眺めだ。低潅木類はすべて雪の下、雪がもう少し締まっていたらルンルン歩行となるのに。昨年4月の初雪山はその点快適だった。
鉛筆を忘れてしまい、途中の通過時刻をメモできない。それなら何時何分にどこを通過したか気にしても仕方ないと割り切り、ここはどのピークかなど考えずに登って行く。961メートルピークから少し下って登り返しに入る。かなりの急斜面を見てアイゼンを装着する。一歩一歩ステップを切るようにして慎重に足を運ぶ。杉の巨木がときどきあらわれる。これが立山杉というやつで、いかにも年季が入って貫禄も十分だ。
登りきったところが木ノ根山だろう。樹木の途切れたあたりの展望がさらに良くなってきた。雪面が一層純白さを増して、降ったままの無垢処女雪という感じだ。気温が少し上がってきた影響か、表面のクラストはなくなったが、一歩一歩沈むのには閉口し、疲れる。ワカンも持ってはいるがやはり滑落防止優先でアイゼンだ。

左手鍋増谷側は急傾斜で谷底まで切れ落ちている。斜面の潅木類はすべて雪の下、まばらにブナなどの高木が生えているだけ。まかり間違ってそっちへ滑ったら何百メートルをあっという間に谷底直行まちがいなし。特に痩せた稜線はなるべく鍋増谷側を避けて歩くようにする。
薮こぎの消耗がきいてきて疲れを意識するようになり、ペースも大幅ダウン。3分ほどの立ち休みをときどき入れては一息つく。大きなピークはないが、ブナや立山杉の雪稜を、ゆっくりしたペースで進んで行く。途中何回も細蔵山を確認するがまだかなり遠い。実は細蔵山は猫又山の稜線と重なってしまい、はっきりとは確認しがたく、距離感があいまいになってしまう。正面方向の剣、猫又などの眺めを励みにして、最後は1330メートルピークへの登りをがんばった。

1330メートルピークまで3時間35分を要したのは思っていたよりだいぶ時間がかかっている。細蔵山へは80メートル下って300メートルの登り返しとなる。疲れもあって「もうここでいいや・・・。展望だって文句なし、これで十分」と弱気になってしまう。この気持ちはこれまでの山行で数限りないほど味わった思いと同様、しかしそれで諦めたことは一度もない。次へのファイトを生み出すためのセレモニーのようなものだと自分ではよく分かっている。

一服入れてからコルへと下って行く。下りの何と楽なこと。雪をクッションにしてあっという間にコルへ降り立つ。ここで気合を入れなおして急登に取り付いた。この登り、前半はかなり厳しい急登で、つま先を蹴りこみ、一歩一歩ピッケルで確保して慎重に登って行く。とにかく滑落が怖い。やや傾斜が緩んだあたりが中間くらいだろうか。目の先の真っ白な円頂がピークらしい。もうひとがんばりだ。
10分に1回立ち休みを取りながら登るつもりだったが、結局1回の立ち休みだけで山頂まで登りきれた。

天が抜けたような快活そのものの山頂、純白無垢、真っ白な雪に覆われて足を踏み入れるのが惜しいようだ。場違いに一本だけ立っている杉の木は違和感そのもの。そんなこととは別に吸い込まれそうな蒼穹の空、鋼の輝きも似た骨格たくましい剣岳の威容、バタークリームを塗りつけたような大日岳のおだやかな山稜、やはり山頂で眺める感動は格別のものがある。
デジカメを構え、360度の展望に興奮を抑えながら見入る。何と言っても早乙女、大日、奥大日、剣岳、赤谷、猫又と連なる銀嶺の素晴らしさには言葉もない。何回見直しても飽きることはない。大日岳の右肩遠くに見えたのは鍬崎山だっただろうか。歩いてきた長い尾根も手に取るように見えていた。
微風も感じないような穏やかな山頂で、昼食を食べながら大展望に繰り返し目をやった。やはり1330メートルピークで引き返さなくてよかった。こう思うのも、これも毎度のことであった。

25分の帯頂で下山にかかる。コルまでの急なところは後向き姿勢でアイゼンを蹴りこみ、慎重を期して下った。
途中、振り返っては感動の展望を惜しみつつ歩を進める。疲れもあっていつものスピードにはほど遠いスローペース、足跡はおおかた残っていたが、木ノ根山から先のコルへ下ったあたりからわかりにくくなってきた。コルでアイゼンを外すと見ちがえるように歩きやすいし楽になった。
一本尾根で迷うところもないと楽観しているが、それでも万一ということもある。極力足跡の見えるところは拾って行くようにする。やがて足跡はほとんど見つからなくなってきた。そうなるとやはり「あれ、どっちだっけ」というところは出てくる。落ち着いて方向を確認、ときどきあらわれる足跡に安心しながら下って、あのいやな薮に入って行った。どこをどう歩いたのか思い出せないし記憶に残るものもない。方向だけを確かめ、なるべく尾根を大きく外れないようにして薮の隙間を縫って進む。歩きやすいところを拾っているうちに、鍋増谷側へ少し方向ずれしていたが、修正してしばらくすると林道へ出ることができた。この先尾根先端までの薮こぎはもうたくさんという気持ち。林道を下って行けば早月川へ出ることは間違いない。その林道は荒れ放題で今は廃道となっていた。廃道をたどって早月川沿いの車道に降り立つと、そこから尾根先端付近の駐車場所まで数分の距離だった。早月川の上流部を眺めると遠く剣や大日が午後の日を照り返すようにして聳えていた。

≪参考≫
▼途中まででも歩きやすい踏跡があると、4月末からGWにかけての登頂がずいぶん楽になると思いますが、今回の薮こぎはけっこう体力を消耗しました。今年は異常な豪雪、それに4月に入っても気温の低い日が多く、残雪には都合の良い条件が整っていたと思うのですが、4月末のこの時期は挑戦するのには少し遅かったようです。
普通の年なら適期は4月上旬というところでしょうか。(これは私の単なる推測です)
▼残雪登山はピッケルよりストックの方が役に立つことも多いのですが、今回の細蔵山はピッケルが正解でした。ちなみに昨年の初雪山はストックが正解でした。
▼ワカンも携帯しましたが、実際にはアイゼンだけでした。この時期に登る場合はそうなると思います。
 
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