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大仏岳=だいぶつだけ(1167m)

秋田県 2006.10.14 単独 マイカー 地図 上桧木内北西  大仏岳 一等三角点
コース 小岱倉林道終点(5.20)---大仏岳(7.00-7.05) ---下山路を失い70分のロス---小岱倉林道終点(9.10)
大仏岳一等三角点

下山路を見失ってパニック寸前の緊張を味わう。

大仏岳はガイドブック(山渓刊行『秋田県の山』)にも掲載されているが、あえてインターネットで調べた別のコースを選んだ。理由は時間的に有利ということ。
また山渓ガイドの方はコースがわかりにくい記されていたが、ネット情報の方は道ははっきりしているとのこと。それも選択の理由の一つになった。

前夜はマタギの里阿仁にある“道の駅あに”で車内泊。『あに温泉』へ入って地元の人に大仏岳の様子を聞いてみたが知っている人はいなかった。ただ「あの辺の山はクマの巣だ」という人もいた。大変な山を選んでしまったと半ば後悔しながら、ここまで来たのだから何とかこの一等三角点に登って帰りたいという気持も強かった。

R105号線『道の駅あに』から北へ向かって150メートルほど先を左折、比立内の集落を抜けてしばらく走ると、左手に採石場の砂利の山積みが゙見える。ここで左に分かれる林道(小岱倉林道の表示あり)へ入ると採石場の管理事務所がある。この林道は未舗装だが路面状態は良く走りやすい。途中大白沢林道が右に分かれるが構わず小岱倉林道を直進。最後は上り勾配が少し強くなって草や潅木の枝が張り出し、車体をこするようになるがすぐに林道終点となる。採石場事務所から約14キロ、ゆっくり走って45分だった。

林道終点に降り立ってあたりを見回すが道標などは皆無、どこから取りついていいのか見当がつかない。林道延長工事を途中で放棄したらしいブルドーザーの開鑿あとがあったので、これを300メートルほど進むとヤブに突き当たる。どの方向に行けばいいのか。道がはっきりしているという話は何だったのか。途方にくれていると杉林の中に赤テープが見える。道のない斜面を赤テープを追って登って行くと、それこそはっきりした道があった。駐車地点から来ているのだろうか?、でもそんな道は気がつかなかった。

とにかく道が見つかってほっとする。あとはクマに気をつけながらルンルン気分で1時間もあれば山頂という楽観ムード。だが甘かった。緩い登りをしばらくたどると大きなブナの倒木が登山道の真上に沿うようにして行く手をふさいでいる。左右どっちにも踏跡らしいものがないし、倒木の上に這い上がって先端まで行ってみたが同じこと。倒木の先をヤブに入って探すとかろうじて踏跡らしいものが見つかった。その先も草木が茂って道がわかりにくく、立ち止まっては確認する作業が何回もある。赤テープがときどき見えるが、それでも帰りが案じられるので持参した赤布をいくつか残しながら登って行った。

このコースは一般登山道とはほど遠く、山慣れない人には歩くのは無理だ。戸惑いながらも何とか尾根に出ると道がはっきりしてきた。ブナの大木が林立する尾根を気持ちよく登って行く。急勾配の尾根を登りきると稜線状のコースとなる。急登の尾根が終ると少しヤブっぽくなって踏跡は薄くなり、歩きにくいところもあるが迷うほどのことはなく順調に山頂へ近づいていった。

ヤブを抜け出すようにして再び明瞭な道に出た。ここで目印を残さなかったのがあとで悔やまれる結果を招いてしまった。
明瞭な道をほんのひと登りするとそこが一等三角点大仏岳の山頂だった。まずは一等三角点を確認、カメラにおさめる。小さな沼が3つある。沼に近づくと泥の中にずぶずぶと沈んで足首まで泥に埋まってしまいびっくり。見た目に硬い土に見えたのにうかつだった。
私が登ってきたのとは逆方向に登山道があった。これがガイド本のコースだと思われる。
たなびく雲の上に聳えている端正な山は鳥海山、自信はないが北の方角に見える藍色の連なりは八幡平の山々だろうか。

山頂までの登りは1時間40分だった。さて下りは1時間少々というところか。そう思って下山にかかった。ところがこれからが大変だった。
私は山頂に立ったとき、下るべき道にストックを立てておくことを習慣にしている。山頂へ複数のコースが来ている場合、どれが登ってきたコースか分からなくなってしまうことがたまにあり、事実そんな経験をしている。その反省でこんな知恵がつけられたのだ。
ストックで目印にした道を下りはじめた。明瞭なはっきりした道で何にも考えずに足を運んでいく。一つコブを越え、あれっ、こんなところを通ったかな?そう思いながら深く考えることもなく進むと、これまた記憶にない岩峰の上に出てしまった。そして道はここでなくなっている。頭の中に混乱が走る。別の道があったのだろうか。探しながら戻ってみたが、別の道がみつからないまま、また山頂まで戻ってしまった。岩峰までは片道10分ほど。
やはり岩峰の先に道があるのだ、そう思って再び岩峰へ。しかしその先に踏跡は見つからない。強引にヤブの中へ突っ込んで探して見たがムダだった。ヤブをもがきながら岩峰へ登り返す。
やはり山頂と岩峰との間に登ってきた道があるのだ、そう確信して山頂へ戻りながら道を探したが見つからない。そんなはずはない、探しかたが悪いのだ。もう一度岩峰との間で道を探すがダメで山頂へ戻る。この時点でかなりの焦りを感じ、パニックに近い心境、クマの巣と言われる山で迷ったらどうなることやら。
何回も岩峰との間を往き来している間に、その岩峰を通ったような気がしてきた。

気を落ち着けて地図を広げ、山頂からの地形と照らし合わせると、登ってきたブナの急尾根はあれだ、そう確信できる尾根がある。それはあの岩峰とは方向が少しちがう。もう一度探してみよう、それでダメなら反対側から上がってきている道を下るより仕方がない。車の回収が大変だがそんなことは言っていられない。

これが最後と決めてまた岩峰への明瞭な道を細心の注意でたどると、山頂からほんのわずか下って平坦になったところでふと足が止まった。右手のヤブがわずかだが開いているように見える。3、4歩入ってみると薄い踏跡があり、さらに進むと踏跡はいっそうはっきりとしてきて記憶が戻った。これだったのだ。登りでこのヤブから出るときは気づかなかったが、それがうかつというもの、ここは確実に目印を残さなくてはいけなかったのだ。
救われた思いでブナの急尾根を下って行った。しかしブナの倒木地点までに踏跡を失ってルートを探すこと2度か3度、そのたびに冷やりとさせられたが無事踏跡を拾うことが出来たのはラッキーだった。

山また山が幾重にも重なる山地、適当に下っていけばどこかの里へ降りられるという甘い山ではない。それだけに道を失った緊張感は強いものがあった。この山のことはこの先永く記憶に残ることだろう。

ヤブを漕いだりしている間に、ザックのポケットのファスナーが何かに引っかかって開いてしまったらしい。中に入れていたケータイ、メガネ、車のスペアキーなどが無くなっていた。
またヤブ漕ぎしている間に手に持っていたストックが、気がつくと手から離れてどこかへいってしまったらしい。一緒にクマよけの鈴も消えていた。