追想の山々1049  up-date 2001.06.27

朝日連峰 登頂日1989.07.26-27 晴&曇り 単独

鳥原山(1430m)・大朝日岳(1870m)・西朝日岳(1814)竜門岳(1687)・寒江山(1695)清水岩山(1465m)

●上野駅〓〓夜行列車〓〓山形駅==バス==宮宿==タクシー==朝日鉱泉(9.10)−−−鳥原山(11.05)−−−小朝日岳(12.10)−−−大朝日岳(13.25)−−−西朝日岳(14.35)−−−竜門小屋(15.30)
●竜門小屋(4.15)−−−寒江山(5.00)−−−竜門小屋(6.00-6.45)−−−清水岩山−−−日暮沢小屋(9.15-12.00)==バス==山形駅
所要時間 1日目 6時間20分 2日目 4時間15分**** 3日目 ****
   交通不便な朝日連峰を登る(52歳)
長大な朝日連峰。手前から竜門、寒江、以東岳

上野発23:00、山形駅着が4:09。
人影のない山交バスターミナルで宮宿行きのバスを約3時間近く待った。1時間25分で宮宿に到着。停留所前のタクシーに足を運ぶ。相乗りが見つかり朝日鉱泉へ。

この日の予定は朝日鉱泉−−鳥原山−−大朝日岳−−西朝日岳−−竜門小屋(泊)の一日コースだが、出発が遅いのできびしい。吊橋から一緒に なった青年と、話しながらだらだら登りを行く。青年は中ツル尾根から大朝日岳を目指すと言うので、鳥原山コ ースとの分岐で別れた。  
分岐から鳥原山へはかなり急な登りがつづく。木洩れ日がちらちらと揺れるブナ林を、じぐざぐに高度を上げていく。ときおり強い風が梢を鳴らして吹き抜けていく。  
ひと汗かいて小さく下ると沢の流れに出た。汗を拭い喉を潤して小憩ののち再び樹林の道を登る。傾斜はきついが調子よく足は出てくれる。この調子なら夕刻までに竜門小屋まで行けるだろう。

樹林帯を抜けると低潅木の中を木道が敷かれ、左手の小高い所に島原小屋があった。下ってきた登山者に聞くと、上はガスで天候もよくないので途中で引き返してきたとのこと。それを聞いてちょっと不安はあったが、ガスくらいでこの登山を止めるわけにはいかない。

木道の先から急な登りをつづけて鳥原山に立った。風が強い。期待した大展望は叶わず、朝日岳も上部は雲をかぶっていた。
調子よかったペースも小朝日岳への急登でそろそろ足にこたえて来た。登りついた小朝日岳もあまり眺望はきかない。北西方向、重たげな空の下に波打つ朝日連峰のうねりがあった。憧れてきた朝日連峰の巨体の一角だ。食い入るように見つめた。  

鳥原山を振り返る
小朝日岳からは岩や木の根の歩きにくい高低差200メートルの急坂を一気に下り、もう一度登り返すと気持ちいい尾根上の道となった。大朝日岳こそ見えないが、右手には雪田とハイマツ、ダケカンバの点在する雄大な斜面がカール状にひろがり、その先には朝日連峰がゆったりと延びている。
のんびり歩くのもいっときで、ふたたび急登を喘ぐ。ここまでかなりのハイペースで歩いてきた疲労も出てきた。”銀玉水”の水場でひと息入れる。ガスで視界が全く閉ざされてしまった。『あっ、 ヒメサユリ』
という女性の声、見ると淡い紫の花が咲いてた。 名前は知っていたが実物を目にするのは始めて、透き通るような薄い花弁はいとおしい程に頼りなく弱々しい。触れたら消えてしまいそうな薄絹を思わせる風情に疲れた足を休めてしばし見とれた。

ようやく胸突きの急坂が終わり、ガスの中にぼんやりと建物の影が浮かんできた。朝日小屋だ。小屋を出て行く人、入る人、登山者で賑やかだ。ザックを置いて大朝日岳の頂上へ向かった。
13 :25山頂に立つ。山頂には小さいケルンが立ち、三角点があった。展望はゼロ。

大朝日岳山頂
これからゆっくり歩いても竜門小屋へ4時には着ける。昼食休憩をとってから朝日小屋を後にした。ところが濃霧で目隠し同然、方角がつかめない。縦横に交差する踏跡は、どれを辿っていいかわからない。高校生に確認してから竜門小屋に向かった。すぐに金玉水がある筈なのになかなかそれらしきところがない。思った以上に歩いてから金玉水のキャンプ場で水を飲み、水筒にも補給する。『金玉水』 の名前に反し、有機質の臭いが鼻につくまずい水だった。  

中岳への登りは、不安をかき立てる強風と、濃霧の道だった。時折行き交う人の姿に不安を取り除きながら進む。左回りに大きくカーブして下りはじめるとすぐ、突如濃霧から抜け出て目の前に陽を浴び、緑の絨鍛を敷き詰めたような山々が目に飛び込んできた。まったく突然の変化、鬱々と押し込められていた気持ちが一気に解放された喜びが広がる。そこが中岳だった。風に靡く草原が、まるで海原のように見えた。ニッコウキスゲが彩りを添えている。中岳が天侯を二分する役割を果たしているようだ。  

西朝日岳の頂上の手前で展望を楽しむ。風の通り道から外れたのかおだやかだ。北に向かって竜門山、寒江山、そして重厚な山体で構えているのは以東岳、相模尾根や明日下山予定のユーフン尾根も一望できる。主峰大朝日岳こそ見えないが、朝日連峰の雄大さを十分感ずることができた。
西朝日岳山頂を踏んでから、目の前の竜門小屋へ向かった。

竜門小屋にはかなりの登山者が入っていた。シュラフで寝場所を確保、使用料の500円を備えっけの箱に入れてから、傾きかけた陽の下に出てウヰスキーの水割りで、今日のコース無事踏破を一人乾杯する。  
小屋は展望にも恵まれ、西朝日、寒江、以東等朝日連峰の主だった山々が眺められる。重畳たる山々は尾根を分け、支尾根は更に小尾根となって深く谷を刻んでいた。自炊の夕食は即席の鶏飯と味噌汁。食後はココアにした。
ヒナウスユキソウ 寒江山山頂
食後も展望を楽しんだ。鳥海山や月山、それに遥か日本海側の市街も見える。日は西に傾き山上も薄暮の時を迎え、おおかたの登山者は小屋に戻って行った。
刻々と変化する西の空を見つめ、寒江山の肩に深紅の太陽が姿を消すまで目は吸いつけれていた。太陽の沈んだあとの空は、白味がかった青ガラスの透明感が、不思議な世界を見ているようだった。落日のドラマを1時間以上も眺め、小屋に戻る頃今度は上空が燃えるような夕焼けに変わっていった。  

夜半、屋根を打っ雨音に目覚める。3時、早起きが起きだした。
4時、薄明るくなった外を窓越しにのぞくと、乳白色の霧が立ち込めて何にも見えない。この天気、さてどうしよう。以東岳までは無理としても、せっかくだから寒江山までは行っておきたい。それにヒナウスユキソウの群落も見たい。  
ぐずぐずしていると『山が見えてきた』 という声。それならということで、荷物はそのままにして小屋を出た。確かにガスは晴れてきたようだ。薄明るくなった道を百畝畑から寒江山へ向かった。朝の冷気がここち良い。大きな雪渓が右手斜面に広がっている。期待どおりヒナウスユキソウの大群落だ。時期は少し遅いがその見事さは十分に偲ぶことができる。
南寒江山から寒江山に行き着く頃、再び霧が視界を邪魔しだした。日本海遥かに薄く見えるのは、方角からして佐渡ケ島か。飯豊山ははっきりと確認できる。

花を眺めながら小屋へ戻った。がらんとしてた小屋で朝食を作り、ゆっくりと食べてから予定の時間よりかなり早く下山にかかった。  
竜門山に登り返し、ユーフン山から日暮沢小屋に向かった。
下山した日暮沢小屋の渓流で汗を拭い、着替えをして3時間のバス待ちを横になって体を休めた。
深田久弥の日本百名山には、朝日岳の項に「鳥原山・小朝日岳・大朝日岳・寒江山・以東岳」を上げている。本来はこれを全部登って、百名山踏破となるのだろうが、その以東岳は残ってしまった。
それから5年後、大鳥池から以東岳を登って朝日連峰すべての頂を踏むこととができた。