追想の山々1111  up-date 2001.09.20

和賀岳(1440m) 登頂日1991.08.07 単独
乳頭温泉(4.00)===真木渓谷小路又登山口(6.00)−−−甘露水(6.20)−−−避難小屋(7.00)−−−薬師岳(7.45)−−−和賀岳(8.55)−−−薬師岳(9.50)−−−避難小屋(10.25)−−−甘露水(11.00)−−−小路又登山口(11.00)===乳頭温泉へ
所要時間 5時間00分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
   1991年・日本300名山東北の山旅(その4)=(54歳)
和賀一等三角点


予定通り4時に乳頭温泉郷キャンプ場を出発する。  
今日の和賀岳はロングコースのことも考え私一人だけ、妻はテントキーパー役。道路地図帳で十分に確認しておいたのだが、それでも初っ端から迷ってしまい、何回も通りがかりの人に道を確認しながらようやく真木渓谷への林道へ入った。林道は奥まるにつれて手入れも悪く、このまま進んでも大丈夫かと思われるような悪路となって来た。タイヤが3分の一も没するような水たまり、車底をこすりそうな落石は至るところにある。  
林道とはいえほとんど勾配はない。かなり進入したところに仮小屋風の建物があり、ハンター小屋と書かれた字が見える。前方に大きな獣の姿、おそるおそる近づくとカモシカだった。じっとこっちを見ていて、かなり接近したところで、ひょいと身を翻すようにして山の斜面へ消えた。動物園のカモシカと違って美しい銀色の毛並みが目に残った。薬師橋を渡って道とも言えぬほどの荒れ放題の道を少し行くと、左に登山口の表示があった。
案内書にはこの奥にもう一つ「甘露水登山口」があって、今ではそこが利用されていると書かれている。河原のような石だらけの道をさらに50メートルほど進んでみたが、道は崩壊、大きくえぐれてそれ以上は無理だった。  
最初に表示のあった登山口『小路又ロ』へ車をバックで戻し、ここから歩くことにする。  
6時10分出発。甘露水へ700メートルと表示されている。道形もわからなくなるほど荒れ果てた林道を15分ほどで甘露水に着く。『薬師岳和賀岳登山口』の表示がある。雨が降りだしそうな怪しい空模様に、できるだけ早く山頂往復を済ませたい。  
道は思いのほかしっかりと踏まれているのを見て安心する。最初は杉植林の急な登りだったが、小路又口から直接登って来るコースを合流するあたりからブナ林となってきた。深い樹林は熊が出て来そうな不気味さがある。  
『ブナ帯平』と札のかかる小さな平らは、立ち止まりもせずに通過する。

滝倉沢の水場は、二股の清流が一方は滑滝状に流れ下っている。ここも休まずに通過して、急登わずかで避難小屋の滝倉小屋に着く。ここまで1時間、時刻は7時。
ブナ林に囲まれた小屋を覗くと、10人ほどは泊まれる広さがある。
ここから薬帥岳まで1.7キロの表示。ついに雨が落ちてきた。厳しい登山になりそうだ。大雨にならないことを祈りながら歩を速める。  
急な登りを詰めて樹林帯を抜けた途端に雨まじりの強風が吹き付けてきた。前進がためらわれるような荒れ模様であるが、このまま引き返す気は起きなかった。どこまで行けるか、とにかく行けるところまで行ってみることにする。  
7時45分、薬師岳到着、霧で視界はまったくない吹きさらしの山頂だった。ペースだけは快調だ。案内書で3時間のところを、1時間35分で歩いてきた。  
和賀岳への方角がわからない。小さな薬師堂の陰に身を寄せて地図を確認する。薬師平と書かれた標識が立っているが、それが和賀岳方面かどうか確信できない。しかしそれ以外に道は見当たらない。それをたどってみるほかない。晴れていれば和賀岳も視界に入って迷うこともないだろう。

薬師平へはゆっくりとした下りで、お花畑の中を行く。晴れていたら素晴らしかろうと思われるところだ。何とか和賀岳の山頂を踏みたいとはやる気持ちには、ゆっくりと周囲を愛でる余裕はない。案内書では薬師岳から和賀岳を往復するのに3時間から3時半を要することになっている。まだまだ先は長い。  
薬師岳からは急に道の手入れも悪くなる。歩く人も少ないのだろう。笹や潅木がかぶさって歩きにくい。笹に隠れた道を足で探るようにして進む。  
薬師平からは再び登りとなって、笹を分けるようにして小杉山の分岐に着く。時計を確認する間も惜しんで、道標に従い右折して和賀岳へ向かう。ここまで来たらもう引き返す気はない。

小杉山の分岐からは稜線通しのコースとなる。天気が良ければさぞかし気持ちいいコースと思われる。一面笹に覆われたところでは、果たしてコースがうまく拾えるかと不安になるが、何とか探って進んで行く。  
やや急な登りを終わって凸部に立った。和賀岳山頂かと思ったが違うようだ。山頂まではさらにいくつものコブを越えて行かなければならなかった。ひとコブ越えると、霧の中にもうひとつコブがあらわれる。それが山頂かと思い足を速めてそのピークに立つと、またその先霧の中にコブが見える。  
雨に濡れた笹が道を隠し、視界のきかない中で、もし道を見失ったらという不安に襲われ、何回もここで引き返そうか、どうしようかと自問自答しながらも山頂へ向けて進んでいった。北国の遠い山に再び訪れる機会をもてるかどうかわからない。どうしても登って帰りたかった。
何回目かのぼんやりと見えるピークに、柱のようなものが見える。今度こそ山頂に違いない。そのひと登りを終るとまさしくそこが和賀岳の山頂だった。  
天気が良かったらどうということもないのだろうが、大荒れの気象条件の中、“ついに来た”そんな喜びが湧きあがった。
強風が吹き抜け寒さにじっとしていられない。石祠が安置されている。一等三角点を確認し、急いで山頂部の写真だけ撮って下山にかかる。展望はなくても、苦労して立てた山頂は、そこに足を踏む人だけの満足感があった。
来た道を小走りに下る。
帰りは安心感もあって小杉山分岐で2〜3分の休憩をとる。ここは標高1229メートル、和賀岳までの標高差はわずかに221メートル、それにしては歩きでがあった。  
薬師平付近のお花畑にはハクサンシャジン、ハクサンフウロ、タチギボシ、エゾシオガマ、ハクサンボウフウ、コガネギク・・・霧の中で風に耐えて咲いていた。  
薬師岳を過ぎ、急下降して樹林帯に入ると、ようやく風がおさまってきた。安堵感と、山頂を踏んで来た満足感がじわっと広がった。  
雨が激しくなって来た。滝倉沢の水場で休憩。腹にパンを詰め込む。この激しい雨だと落石だらけのあの林道が心配になる。いつ崩壊が起こるかわからない。

無事自動車まで戻り、悪路の林道を脱すると緊張感から開放された。
帰りは乳頭温泉五湯の一つ『鶴の場』で汗を流す。ここも秘湯で名高い湯で、訪れた著名人の色紙が沢山並んでいた。風呂はどれも素朴な小屋がけで、いかにも秘湯の趣が溢れている。いつもは混むという湯も、今日の悪天で人影もまばら、のどかな温泉気分を味わった。