追想の山々1130  up-date 2001.10.11

                              

大船山=だいせんやま(1786m)〜平治岳=ひじだけ(1643m) 
登頂日1998.05.19 単独
長者原(7.40)−−−雨ケ池(8.35)−−−坊ガつる(9.10)−−−5合目(9.50)−−−肩(10.10)−−−大船山(10.25-35)−−−北大船山(10.50)−−−大戸越(11.15)−−−平治岳(11.40-12.15)−−−大戸越(12.35)−−−坊ガつる(13.05)−−−法華院温泉(13.15-45)−−−雨ケ池(14.30)−−−長者原(15.15)
所要時間 7時間35分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
1998年・九州早がけ登山・8日間で14座=(52歳)
大崩山・傾山阿蘇烏帽子岳・普賢岳・多良岳〜経ケ岳・天山・背振山・英彦山・釈迦岳・大船山〜平治岳・湧蓋山・由布岳・鶴見岳・尾鈴山

大船山=
日本300名山
満開のミヤマキリシマを堪能する
大船山と満開のミヤマキリシマ

九州6日目。
釈迦岳山頂下の椿ガ鼻パークハイランドで一夜を過ごし、朝5時久住高原へ向かって出発する。  
松原ダムの分岐で212号線を小国町方面へ向かわなくてはならないのに、菊池市方面へ走ってしまった。途中で気がついたから良かったが、そのまま行ったら熊本の方へ行ってしまうところ。さらに小国町で今度は阿蘇方面へ向かってしまい、ずいぶん遠回りをしてしまった。  
30分以上ロスして、それでも大船山登山口の長者原へ無事到着。時刻は7時15分。   

今朝は抜けるような快晴。 
今日は大船山を登るだけ。洗腸も昨夕、釈迦岳で済ませてあるので夕刻までに下山すればいい。時間的には一番ゆっくりした一日となり、まったく慌てる必要はない。まずラーメンをつくって朝食を済ませる。それから身ごしらえを整える。今日は登山靴で歩くことにする。  

7時40分長者原を出発した。  
長者原湿原木道のプロムナードから樹林の中へと入ってゆく。この道は自然観察路となっていて、樹木の名前や解説板などが表示されている。雨ケ池までは標高差約350メートル、比較的ゆったりした登りの道を行く。久しぶりの快晴に、野鳥たちも気分がいい。頭上から降るような囀りが絶えない。  
展望はないが落葉樹林の気持ちいい静かな道で、ゆとりの足どりで登って行く。ときおり小さな急登があったり、踏み跡が二つに分かれたりするが、整備もよくて歩きいい道がつづく。樹林を抜け出て急に明るくなった。ほぼ1時間歩いて最初のポイント”雨ケ池”に到着。けっこう汗をかいている。池には木道が敷設されているが、今は水は干ていた。花をつけたミヤマキリシマの株が点在している。平治岳のミヤマキリシマはどうだろうか。期待が高まる。  

雨ケ池を過ぎると再び潅木林に入る。すぐに大船山、平治岳の姿を望めるようになる。山の中とも思えぬ広々とした盆地のような平坦地が見えてきた。”坊がつる”の平らだ。右手にはたくましく聳え立つ三俣山、そして噴煙上げる硫黄山、久住山なども見える。  
坊がつると平治岳
今日の計画は大船山から平治岳を回って、できれば法華院温泉にも入浴し、長者原に帰るというもの。実は平治岳登頂の予定はなかったが、多良岳から経ケ岳を歩いた日、山頂にいた人が「平治岳はよかった。ほんとうによかった。ミヤマキリシマが咲いていたら素晴らしい」と話してくれた。昨夕洗腸できたのがラッキーで、たまたま今日一日がゆっくりとした日程になり、平治岳を回るコースが取れることになったのである。
草原の坊がつるへ向かって、緩やかな下りを気持ちよく歩いてゆくと、昨日法華院温泉にでも泊まった人たちだろうか、カメラを持って散策している姿にも出会う。坊がつるの表示板まで約30分の下り。ここで車道のような広い道に交わる。その道を右へ行けば法華院温泉、車道を横断して直進するのが大船山へのコース。
橋を渡ってキャンプ場を抜けると、いよいよ大船山への本格的な登りがはじまる。一合目、二合目と表示がついている。
山頂まで標高差500メートル、一気に登り詰めてゆく。汗が帽子の庇を伝って滴り落ちる。一歩一歩足を運んでゆく。背後を振り向けば、久住山から三俣山にかけての山々がどんどん競り上がって行く。坊がつるの草原がはるか眼下になり、法華院温泉がその奥まったところに見える。  
空は晴れ、心も晴れ渡る。いい気分だ。
五合目の表示がある。これで半分、坊がつるから40分かかっている。あと40分。さらに急になった感じの登りを行く。じぐざくを切りながら最後の登りを詰めると明るい稜線に出た。段原と呼ばれるところで、ミヤマキリシマの群落の美しさでも知られるところ。一度見たかったそのミヤマキリシマの群生は見事に花を開いていた。赤紫の小ぶりの花が、降り注ぐ陽光を受けて鮮やかさがいっそう際立った。 花を見ながら休憩している登山者の姿も多い。ここは大船山の肩にあたるところで、山頂へは右にもう少し行かなくてはならない。   
平坦な道を少し歩くと、最後に岩場の急登があって、それを登り切ると待望の大船山頂上だった。時刻は10時25分、長者原からほぼ3時間である。日本三百名山287座目の山頂である。  
歩いてきた段原付近のミヤマキリシマ群落が赤い絨毯のようだ。坊がつるが箱庭のように俯瞰できる。山頂直下には木々の緑を吸い込んだような小さな池があった。  
遮るもののない山頂は大展望台である。惜しいのは大気が少し霞んで遠望がきかないこと。それでもこの久住の山々は手に取るように眺めることができる。久住山と中岳は以前登ったことのあるなつかしい山、それに星生山、硫黄山、三俣山。平治岳は指呼のところにあって、山頂から山腹にかけてミヤマキリシマの花に埋め尽くされていた。早くも心は平治岳に飛んでいる。  

平治岳のミヤマキリシマと三俣山
平治岳でゆっくり休憩することにして、段原まで戻る。  
段原の北端に北大船山の標柱が立っている。この付近一帯はミヤマキリシマが実に美しいところだった。  
さてこれから平治岳とのコル”大戸越”への下りとなる。大船山山頂からだと標高差300メートルほどの下りとなる。道の状態は良いとはいえず、顔につかえるような潅木をくぐったり、足の裏でコロコロ転がる礫岩に足を取られ、思いのほか長くいやな下りだった。下りすぎでは?と心配になるくらい下って、ようやく潅木を抜け出すと大戸越のコルだった。  
坊がつるから直接この大戸越に登ってきて、ここから平治岳へという登山者も多いようだ。
コルから平治岳へは標高差で150〜200メートルくらいだろうか。コースは登り用と下り用に分かれていて、混雑しないようになっていた。山頂までかなり急な登りがつづく。この登りを20分で山頂に達した。  
山頂から坊がつる方面へ向いた斜面は、まさにミヤマキリシマ一色、時期はわずかに早いような気もするが、十分に堪能させてくれるものがある。株と株の間を縫うようにして少し下って行く。手足がミヤマキリシマにひっかかれる。そして株の間に座り込んで昼食休憩にした。 久住の山を眺め、花を愛で、まさに至福のひとときであった。  
明日登る予定の涌蓋山が霞みながらも、その美しくも端正な姿を見ることができた。  

多良岳登頂の際、平治岳の良さを喧伝してくれたおかげで登る気になった。それにこの上天気、ほんとうに幸運だった。  
後で知ったが、久住でミヤマキリシマの一番美しいのが、この平治岳だという。大船山よりずっと人の数が多い。火曜日という平日にもかかわらず、これだけの登山者が登っているということが人気を如実に物語っている。  
まだまだ名残惜しかったが、法華院温泉入浴という楽しみもあったので、30分の休憩で山頂を後にした。  
大戸越まで戻り、ここから一気に坊がつるへと下って行った。このコースはずっと潅木の中で展望はない。峠から30分で坊がつるへ下り、ここから帰りの道とは逆方向へ15分ほどの法華院温泉へ立ち寄る。  
いかにも素朴な山の温泉という風情がいい。茶色に変色した木製の湯船、とうとうと湧き出る豊かな温泉。ずっと浸かっていたい気分だが、これからまた長い道のりを帰らなくてはならない。  
目標の山に無事登頂でき、いつか入ってみたいと思っていた温泉の一つにも入れ、実に満ち足りと気分である。
「生ビールあります」の宣伝につられ、これから2時間も歩くのを忘れて、つい湯上がりの一杯をやってしまった。そこに居合わせた男女4人連れの中年の人に、「これを食べて下さい」と進められたのが『朴葉すし』。五目すしを朴の葉っぱで包んだもので、遠慮なくもらって食べてみると、これが実にうまかった。長者原から散策ピクニックにでも来たのだろう。丁重にお礼を述べて帰途についた。  

スガモリ越えで長者原へ帰るコースもあったが、来た道の方が楽そうに思えて、同じ道を戻ることにした。相変わらず雲一つない晴天がつづき、長者原へ帰ったのは3時15分だった。
明日登頂予定の涌蓋山登山口を確認かたがた筋湯温泉隣接の”ひぜん湯”に入浴。入浴料金100円という安さ。脱衣場もなく、浴槽のそばに脱いだものを適当に置いて、そのままザブンという感じ。

ひぜん湯の広場に車を止めて一夜を過ごした。