追想の山々1140  up-date 2001.10.21

東赤石山(1707m) 登頂日1997.11.01 単独
筏津登山口(6.10)−−−豊後−−−沢の分岐(6.50)−−−二つ目の沢(7.30)−−−三つ目の沢(7.50)−−−天狗の庭(8.10)−−−東赤石山(8.35-45)−−−赤石山荘(9.00-10)−−−筏津(10.30)===新居浜市、西条市===笹ヶ峰登山口
所要時間 4時間20分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
1997年秋・300名山四国の山旅(その2)=60才
冠雪の東赤石山頂


三嶺を予定通り登頂後、明日登ることにしている別子山村の東赤石山登山口へ移動。  
地理も不案内、頼るは道路地図帳のみ。
三嶺山麓の東祖谷村は氷のような冷たい雨が舞っている。北風も強く狭い谷間を勢いよく吹き抜けて行く。まるで真冬の村を走っているようだ。
国道439号線と別れて祖谷渓谷へ入る。途中で「かずら橋」を見学する。このあと祖谷有料道路を見送って、深く険しい祖谷渓谷の中に、たった一軒ぽつんとある祖谷温泉へ足を延ばして入浴した。時間がなくて入れなかったが、この温泉旅館には谷底の露天風呂へケーブルカー行くと言う大変珍しい温泉だ。
有料道路まで戻り、祖谷渓谷から大歩危へ向かう。大歩危で自動車を止めて、巨岩の作る渓谷美を鑑賞。
一路別子山村を目指したが、国道とは言え道路は曲がりくねって山間を走り、すれ違いもできない1車線のところが大半。スピードも出せない悪路をいやになるほど走り、予定時間を大幅に超過するのを気にしながら、やっと悪路を抜けて快適な道になると別子山村は近かった。
夕闇の迫る別子山村の国道を注意深く走って行くと、筏津集落の東赤石山登山口を見つけることができた。登山口前の橋を渡った先に 、バーベキュー設備などを備えた公園があり、そこに駐車場もあった。隣接して村営の”筏津山荘”というのがあって、宿泊施設もある。真冬並みの寒さの中、自動車に寝るのも気が重くて「今夜泊めてもらえないか」とたずねたが、予約してないとだめだと断られてしまった。そのとき、管理人の話では「今日東赤石山へ登った客がいたが、雪と寒さのために途中で諦めて帰ってきた」とのことだ。私のことも心配してくれているらしい。
しかたくなく民家の隣接している駐車場で寝ることにした。
強い北風が吹き付ける中で、凍える手で夕食の準備をはじめたときには、すっかり夜の帳が下りていた。持ってきた着替えなどを分厚く着込んで6時前には横になった。9時過ぎに一度目を覚ますと、雲が切れてきれいな星空が広がっていた。積雪の状況など、明日の登頂に備えてあれこれ考えているうちに、ふたたび寝入ってしまった。

夜中の快晴が嘘のように空には雲が広がっている。冷え込みが厳しい。それに北風もまだかなり強い。
なにはともあれ熱いラーメンで体を温め、ウィンドブレーカー代わりに雨具を上下着込んで出発した。国道沿いの登山口から階段状の登りがはじまる。すぐになだらかになった道がしばらく続く。20分ほど歩くと瀬場登山口から上ってくるコースとの合流点で豊後というところだ。登山道に塩をまぶしたように雪が見えてきた。木々の切れ間から前方の高みが見える。黒々とした樹林が雪をかぶっている。どの程度の積雪だろうか?気にかかる
豊後から30分弱で沢を渡る。ここで道が二つに分かれる。考えもせずに”赤石山荘”と示された道を選んだ。瀬場谷に沿ったコースで、沢について登ってゆく。足跡が残るほどの積雪となってきた。木々の紅葉は昨日の強風におおむね散っている。真新しい雪をキャンバスに、色彩豊かな落ち葉の織り成す芸術作品を見るようだ。
体調がいいせいか余り勾配を感じないまま、知らぬ間にどんどん高度を上げている。今日の標高差は1000メートルを超える。
高度にともなって気温も低くなってくる。途中でいったん脱いだ雨具を、ふたたび着込んだ。出発時に広がっていた雲がいつのまにか消え去り、上空は深い濃紺の空に変っていた。山頂からの展望が今から待たれる。
背中に朝日が射してきた。無垢のきれいな雪を踏んで行くのも良い気分である。

二回目の沢を徒渉する。いかにも冷たそうな澄明な水が、空の青さを吸い込んでいる。気温が低くて、歩いていても寒いくらいで、こんなきれいな水を見ても飲みたいとは思わない。コースが沢の中に入ったりしながら、さらに3回目の徒渉をする。ひところより勾配は緩くなってきた。きつい登りは終わったようだ。積雪は4〜5センチというところだろうか。これだけ積もったということは、この時期としてはかなりの降りで、三嶺より積雪は多いだろう。昨日の登山者が途中引き返したのもうなずける。
潅木林を抜け出すと、正面目の前に突然飛び込んできた景観は、青空の下に雪をかぶった岩稜だった。 予想もしていなかったアルプス的な眺めで、なかなかの迫力だ。これが東赤石山だろうか。すぐに縦走路に合流、道標に『天狗の庭』となっていた。左50メートルに赤石山荘、東赤石山は縦走路を右に取る。
大小の岩塊の道は雪をかぶっていて、スリップに気を使う。9月下旬経ケ岳で捻挫した左膝がまだ回復していない。スリップして捻ったりしたらことだ。正面に見えた岩山が目指す東赤石山かと思ったが、その岩山の下を通り過ぎてしまった。山頂への標識を見落としたのかとちょっと心配したが、もう少し先まで行って様子を見てみることにした。
天狗の庭から10数分歩いたところで、東赤石山への小さな道標が立っていた。縦走路と離れて直登してゆく。真っ赤に紅葉した小潅木の葉が、氷細工のように朝日にキラキラと輝いている。その美しさを帰りにカメラに収めようと思っていたが、下山の時にはすでに氷は融けていた。

山頂は巨岩の累積帯で、雪のため岩を乗り越えて山頂へ立つのがちょっとしたスリルだった。
眺望を遮るものとてない山頂は、また風当たりも強く寒気がこたえる。山岳展望の方は笹ケ峰から瓶ケ森にかけての、四国を代表する山地の連なりが見渡すことができた。 また北側には新居浜の市街が俯瞰される。残念ながら瀬戸内海の島々や、中国山地までは望めなかった。
心配だったが無事山頂を踏むことが出来た満足感に満たされて山頂を後にした。
天狗の庭から赤石山荘へ足を延ばし、中で10分間の休憩をとってから、来た道を引き返した。  途中まで下ってくると単独の若い娘さんが登ってくるのに出会った。

筏津へ下りつくと、次に登る笹ケ峰の登山口だけでも今日のうちに確認しておこうと思い、休む間もなく自動車を向けた。
新居浜市への道は山間の悪路を予想していたが、思いのほか良い道だった。別子ダム付近の渓谷の紅葉が美しく、しばらく快適な紅葉狩りドライブを楽しんだ。途中30台前後の自動車の止まっている場所があり、徐行しながら見てみると『銅山越え』の標識が立っていた。知識がなかったが、ここから銅山越え〜西赤石山へのハイキングコースがあって、そのハイカーたちの自動車のようだった。東赤石山は人影もほとんどなく静かだったのに、こちらの人気は高いらしい。
新居浜市へ下り、さらに西条市から寒風山トンネルの手前、笹ケ峰登山口を確認したら、ふたたび新居浜へ戻ってビジネスホテルを探すつもりだ。