追想の山々1141  up-date 2001.10.21

笹ヶ峰(1860m) 登頂日1997.11.01 単独
登山口(12.45)−−丸山荘(13.35)−−−笹ヶ峰(14.15-20)−−−丸山荘814.40-45)−−−登山口(15.25)===西条市ビジネスホテル
所要時間 2時間40分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
1997年秋・300名山四国の山旅(その3)=60才
積雪を踏んで山頂へ立つ


東赤石山を下山した後、新居浜市、西条市を経由、国道154号へ入ると間もなく石槌山への道と分岐して、寒風山トンネル方面へ向かう。  
とりあえず笹ケ峰の登山口を確認するのが目的だったが、時刻はまだ正午を少し回ったばかり。登山口へうまく行き着ければ、ひょっとして今日登ることも可能かもしれない。そんな野望?が湧いてきた。  
西条市から20分くらいだっただろうか、”笹ケ峰登山口”の明瞭な道標があり迷うことはなかった。一本道の林道をどんどん駆け上ってゆく。行く手の谷の奥に、一目で笹ケ峰とわかるなだらかな山稜があらわれた。真っ白に雪化粧している。積雪の状況が気にかかる。  
林道はかなり長く感じたが、時間的には2〜30分のものだっただろうか。途中で1箇所だけ分岐があったが、道の状態の良い方を選んだ。と言ってもその分岐から急に凸凹の激しい悪路に変って、とても状態が良いとは言えない。
林道がゲートで閉鎖されている手前に笹ケ峰登山口があった。10台ほどの自動車が止まっていた。これだけの人たちが先に登っていると言うことは、積雪があってもトレールはしっかりできているだろう。時刻は12時40分。『今日登ろうか、どうしようか。コースタイムは往復3時間35分、明るいうちに下山できるどうかぎりぎり。午前中に標高差1000メートルの東赤石山を登って、その疲労も考えに入れておかなくてはならない。』 あれこれ思案をめぐらせたが、時間的に無理になったら途中引き返す覚悟で登ることにし決心した。

笹ケ峰までの標高差は500メートルくらいだろうか(実際には860メートルあった。それを知っていたら、無理して登る気にはならなかっただろう)。資料を取り出して調べる時間も惜しく、靴だけ履き替え、ザックは東赤石山のまま中身も点検せずにそのまま背中にして即刻出発した。足の疲れも計算して、所要3時間45分、4時半下山を目標にする。
午前中に1000メートルを登ったことは関係ないようなスピードで歩き出した。沢沿いの樹林の道はまだ紅葉が残っているが、それを観賞するゆとりはない。『とにかく明るいうちに下山しなくてはならない』その一心で歩くことだけに集中。あまり山慣れた風でもない若い夫婦が下ってくるのに出会った。「頂上まで時間はどのくらいかかりましたか」と尋ねると「私たちはゆっくりでしたから3時間ほどでした」という。それと同じタイムで歩いたら到底明るいうちには下山できない。あの二人が山頂まで行ってきたと言うことは、雪の方は案じるほどのことはないのかもしれない。  
西山越コースとの分岐を過ぎる頃には、額から汗の滴がしたたっていた。今までも1日2山ということは数えきれないほどやっている。その場合、2山目は比較的楽な山にしてきた。この笹ケ峰も標高1000メートルまで自動車で入ってしまうので、軽い山のつもりでいたが果たして本当にそうだっただろうか。山頂まで3時間かかったという。標高差500メートルなんていうことはない。急に足の方が心配になってきた。
そろそろ足の重さが気にかかるころだと、自分の足に問いかけながら足を運ぶが、午前中の登山は関係ないように足は快調なピッチで動いてくれる。長い丸太の階段を登り切ると丸山荘だった。大きな山小屋で通年営業しているようだ。
建物の背後、手の届きそうな近さで、白く雪をまとった笹ケ峰が構えている。20分もあれば登れそうに見えた。登山口から丸山荘まで48分、コースタイムは1時間40分だからかなりの早さだ。これなら時間切れとなって途中引きかかえすような事態はない。ほっとする。小屋の脇に水場があった。氷のような冷たい水を、砂漠の乾きを癒すかのように柄杓でぐいぐいと飲み干した。
ここで休んでいる暇はない。小屋の横手から黒木の林へ入る。すぐに笹原がある。とたんに雪道となった。一筋の踏み跡についてふたたび潅木林へ入ってゆく。小屋からはなだらかに見えた斜面も、歩くと結構勾配がきつい。しかしこの勾配ならすぐに山頂へ着くだろうと、つい楽観的に考えてしまう。それにしてもあの夫婦以外に下山して来る人に会ってない。止っていた自動車の数からしてまだかなりの人数がいるはずだが・・・・・。そんなことを考えていると、案の定このあと何組みもの登山者に出会った。

寒さに震えている登山者・・・山頂
午前中はあれほど良かった天気がすっかり灰色の雲に覆われ、風も出てきた。
霧氷の潅木林を抜け出すと、後は山頂まで一面の笹原が広がっている。笹は腰あたりの丈で、天気がよかったら見晴らしの展望コースだと想像される。コース上は笹が刈り払われているが、それでも油断すると雪の下に隠れた笹の幹で、滑って足をとられる。膝の捻挫が完全ではないので、急ぎながらも慎重に足元を確かめて登ってゆく。
コースは一面笹の斜面を大きくジグザグを切って行く。寒風を遮る樹林もなく、吹きさらしのなかで寒さがきつい。潅木に付着した雪がきれいな樹氷を見せてくれる。小さいながらエビのしっぽも出来ている。気温が低いようだ。四国の気象としては真冬並みの寒さであろうと思われる。
小屋から山頂まで20分もあればと読んだのは甘かった。笹の斜面へ出てからも、きつい登りが長くつづいた。
稜線状の高みへ登りつき、左へ折れて稜線をたどると山頂があった。10数人の大部隊がいた。
広い山頂である。小祠の小さな鳥居にもエビのしっぽが出来ていた。それにしても寒い。風のためか山頂には積雪はなく、地肌が出ている。とにかく風が強く寒さが厳しい。上空の垂れ込めた黒い雲が足早に流れてゆく。西の方角に瓶ケ森とおぼしき山が黒く聳えているのが望めたが、その外めぼしい眺望はなかった。ウールの手袋をしていても手が凍えてくる。

寒さに追われるようにして山頂を後にした。
スニーカーに軽装の若い男女4人が積雪と寒さの中、手袋もなく苦労して下ってゆく。まさかこんな状況とは夢にも思わなかったのだろう。逆に多少山を知っている者は、必要以上に警戒心や恐怖感を持ってしまう。あんな姿の若者達でもちゃんと登頂しているのだから、もっと気楽に考えることも必要かもしれない。あの歩きかたで明るいうちに下山できるのだろうか、人ごとながらちょっと心配になる。
小屋までもどり、もう一度水をがぶ飲みする。
予定より1時間も早く下山できそうだ。小屋前のベンチで腰をおろし、ほっとした気分で小休止をとった。
笹ケ峰は標高差が約900メートルもあった。東赤石山と合わせて今日一日で1900メートル登ったのだ。それにしては自分でも信じられないくらい、疲労もなく快調なペースで歩けた。
登山口まで半ば駆け下るようにして一気に下った。時刻は3時25分。夕暮れにはまだ十分時間が残っていた。
西条市まで戻り、コンビニで食糧を仕入れた上、ビジネスホテルへ入った。