追想の山々1147  up-date 2001.10.24

鍬崎山=くわざきやま(2090m) 登頂日1994.07.31 単独
●上野駅〓〓夜行急行能登〓〓富山駅〓〓〓立山===山麓駅からゴンドラで山頂駅へ
山頂駅(8.40)−−−瀬戸蔵山(9.10)−−−大品山(9.40-50)−−−175mP(11.00-10)−−−鍬崎山(12.10-13.00)−−−1756mP(13.30)−−−大品山(14.30)−−−瀬戸蔵山(15.05)−−−山頂駅(15.30)
ゴンドラで山麓駅へ下山、夜行急行能登で上野へ
所要時間 6時間25分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
一等三角点鍬崎山

日本三百名山の225座目。
上野発23時55分、急行能登号に乗車。富山着6時9分。富山市の空は雲が重たく垂れ込めている。富山電鉄立山行きは発車まで40分の待ち合わせ。この間に朝食を済ませる。立山駅着7時58分。駅の周辺は観光客や登山者でごった返していたが、全部が立山室堂方面へ向かってしまい、ゴンドラ駅方面のバスに乗ったのは私一人だけだった。

その昔佐々政成が 巨額の財宝をこの鍬崎山へ隠したという、いわゆる“埋蔵金”の伝説で一部の人には知られているようだが、実際には日本三百名山を目指す登山者ででもない限り、地元の人を除いて鍬崎山の名前さえ知らないだろう。ゴンドラは冬はスキー、それ以外は観光用に通年運転している。
出札孫の女性に登山届を提出すると「気をつけて行ってきて下さい」 と送られてゴンドラに乗り込んだ。

一気に500メートルの高度を上がって、標高1188メートルの山頂駅が登山の出発点である。左右に極楽坂、雷鳥、粟巣野スキー場がつながり、ゲレンデには草の緑が広がっている。
最初は整備された階段道を登って行く。大品山までは歩きいい散策道で、樹木や動物の解説板が随所に立てられている。杉の巨木に“立山杉”の表示がある。

大品山から先、鍬崎山までは拓かれて間もない登山道で、それ以前は残雪期のみ登頂が許される薮山だったとのことである。大品山の手前に瀬戸蔵山のピークがある。ブナ林の中のひっそりと目立たないピークだが、展望板があって、毛勝山、大日岳、雄山などの山名が見える。しかし今日は雲がまとわりつき、わずかにその片鱗がかいま見られるだけだった。
瀬戸蔵山からは、南へ向きを変えて、はっきりとした尾根を下降してい く。一部に晴れ間も見えて来てどうやら雨の心配はなさそうだ。鞍部から登り返すとベンチのある大品山。大日岳が雲の切れ間から少しだけのぞいている。“すぐ先に山鳩広場あり”の表示を見て休まずそこまで足をのばした。2〜300メートル先、樹林の中の平坦地がその広場だった。下山後は夜行列車で帰る予定なので時間はたっぶりある。ゆっ くり歩いてもまだ時間が余ってしまう。心置きなくここで小休止にする。

それにしても、どうしたことか今日は発汗がひどい。湿度が高く蒸し暑いこともある。夜行で来た寝不足もある。歩き方がゆっくり過ぎて調子が出ないのかもしれない。こんなことが年に何回かはあるので、あまりれ気にしないことにする。
大品山からは薮っぽくなることを予想して長袖シャツに軍手をはめた。しかし予想したほどの悪路ではない。普通のハイキングコース程度には整備されていて、多少覚悟して来た緊張が緩む。広場から5分で粟巣野への道を分ける。ここから本コースー番の下降、 100メートルの標高を下って行く。これを下り切ると、いよいよ鍬崎山への本格的な登りが始まる。
滝のような汗に水筒の水不足が心配される。
道は依然としてしっかりしている。ロープの張られた岩場を越えると、好展望地1756メートルピーク。雲のため遠望はないが、去来する霧の切れ間から、一瞬だがきれいな鍬崎山の三角錐が見えたのはラッキーだった。手の届きそうなほどに近い。残りワンピッチという感じだ。ここまで厳しい登りもなかったのに疲労感が強い。腰を下ろし鍬崎山を目にしながら、しばしの休憩にした。
少し下った後、だらだらした稜線の登りとなる。ゆっくり歩いているのに、足が重くていつもの軽快さがどうしても戻って来ない。

勾配がかなりきつくなってきた。霧が樹林を包んで見通しも悪い。予定外だったが、小ピークで休憩をとる。あと30分くらいだろうか。枯れ枝を杖代わりに拾ってみたが、どうもしっくりしない。ダケカンバが目立ち高山の雰囲気が感じられるようになってきた。登山道には背丈の笹がはびこって、手でかき分けながら進むようになる。全身作業で体力消耗が激しい。汗がしたたる。ダケカンバの急登途中で、再び休憩、腰を下ろす。目の前、霧の切れ間にうかがえる鍬崎山ピークまであと一投足、笹を分ける作業がようやく終り、やや傾斜が緩み、ぽっかりと頭上の天井が抜けた感じで、鍬崎山の山頂に立った。
二等三角点、露岩の山頂は小ぶりながら気持ちのよい頂だった。あいにく展望は得られず、ほんの一瞬大日岳の姿が青くうかがえただけだった。展望盤には御獄、乗鞍、北ノ俣、黒部五郎、薬師、三ツ岳、烏帽子、南沢、越後沢、立山、剣、大日、毛勝、僧ケ岳などの名峰の名前が刻まれている。
山頂はダケカンバの矮樹のほか、ハイマツ、ミヤマハンノキ等高山の植生で、ミヤマアキノキリンソウが風に揺れている。頭上にはアキアカネが無数に飛翔し、頭、手、ところかまわずとまる。
30分ほどしてゴンドラで一緒だった二人が登って来た。冷えたビー ルを勧められて飲んだそのうまかったこと、このうまさは当分忘れられそうにない。インテリらしい落ち着いた二人で名刺交換した。
上空の一点だけ青空が広がるかと思うと、一方では入道雲が勢いを増して成長している。 1時間ほど岩に座して涼風を楽しんでから下山にかかった。

下山をはじめて15分ほどすると、遠雷が騒ぎはじめた。間もなく梢の葉を雨粒がたたきはじめる。『やばいな』遠雷は止む気配はないが、すぐに激しい雨になりそにもない。小さな上り下りも足にこたえるが、登りにくらべれば楽なものだ。
大品山へのきつい登りにかかるころ、ついに本格的な降りになってきた。雨具を着用すると蒸し暑さがたまらない。大品山の項上で雨具の上だけ脱いで傘をさす。喉が乾くが水筒の水もほとんど終りだ。どうもこの疲労は脱水によるものだと思われる。
樹林は乳白色の霧にぼんやりとして、距離感のない幽玄な景観に変わっていた。登りでは賑やかに聞こえた野鳥の囀りも、どこに身を潜めてしまったのか、まったくその気配がない。
大品山から粟巣野へ下する予定を変更、ゴンドラで下ることにした。頼戸蔵山を過ぎるころから雷鳴が近づき、やがて土砂降りとなってしまった。雨に追われて足を速め、3時30分ゴンドラ山頂駅へ到着。客もなく従業員が手持ち無沙汰の様子だ。まずは自動販売機へ直行、 缶ジュースが喉にしみる。 私一人の乗客のためにゴンドラが動き出した。
下山後15分ほど歩いて、粟巣野にある厚生年金施設の温泉(粟巣野温泉)に入浴。大きな浴槽に時間をかけてゆっくりと浸かり、乾いた衣服に着替えると、疲れもとれてさっぱりとした気分にかえった。

温泉を出ると雨は止んでいた。立山駅行きバスの乗客はまた私一人だけだった。
たいした山ではないと高をくくったのは甘かった。体の切れが悪かったこともあり、いつになく疲労感の大きい山行だった。次週からは北海道の山旅、早いところ疲労を取り除かなければ。
期待の展望は得られなかったが、それでも日本三百名山を一つ消化した満足感に包まれて、夜行列車で帰途についた。