追想の山々1150  up-date 2001.10.25

吾妻山(1239m) 登頂日1997.10.11 単独
国民休暇村(15.00)−−−小弥山−−−吾妻山(15.30)−−−南の原−−−国民宿舎(15.50)===R314、183==道後山スキー場
所要時間 50分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
中国山地の300名山(その2)
吾妻山


三瓶温泉で汗を流し終っても雨はまだ強く降りつづていた。
とりあえず次に登頂予定の比婆山系吾妻山へ向かったが、頭の中で考えていたよりかなり時間がかかった。いったん頓原町まで戻り、それから松江市方面へ自動車を向ける。わかりにくい分岐が多く、頻繁に地図を確認しながらの走行であった。国道314号線の途中、急激な高低差をループ状の橋で対処しているのが珍しかった。『奥出雲おろちループ』と名づけられていた。巨額の資金を要したことだろう。その先で居合わせた地元の人に、吾妻山登頂最短コースである登山口の国民休暇村を教えてもらうことができて助かった。田舎では得てして山のことを聞いても的確な答えが返ってこないケースが多い。
木次線八川駅前から(小さな駅でわかりにくい)小馬木方面へ向かい、峠を一つ越えて集落へ入ってしばらく走ると道標があった。すばらしい道で80キロほどで走ってしまったが、最奥の集落あたりでは田舎の細道に変った。堰堤の手前で大きくカーブすると山道となる。後は一本道を国民休暇村目指して疾駆。高度はどんどん上がってゆく。途中広島県側から上がって来る林道と合流すると、国民休暇村は間もなくだった。三瓶温泉から3時間近い時間がかかっていた。時刻は午後3時。秋の日はすでに傾いている。

吾妻山は翌日登るつもりでいたが、標高差はたったの200メートル、1時間もあれば往復できる。後の日程を楽にするために登ってしまうことに決めた。
国民休暇村からは吾妻山頂上が目の前に見えている。三瓶山の雨が嘘のように、ここは青空が広がっていた。山頂にかけては樹木はなく、何組かのファミリーたちが山頂へ向かい、また下ってくる姿が手に取るように見える。国民宿舎に泊まる人たちだろう。普通なら午後の3時から登頂するなんて考えられないが、まさに公園を散歩するような気分だ。
国民宿舎上のゴルフ場を思わせる草地から、山頂への遊歩道がつけられている。登りはじめてすぐの小さなピークが小弥山という。登山支度は私一人。老人や子供連れを追い越して山頂まで30分だった。
広々とした山頂からは、色づきはじめた比婆山系の烏帽子山などが間近にのぞめる。眼下には草原状のなだらかな起伏が広がり、丘を眺めているような気分だった。
午前中に登った三瓶山が見えないかと探したがわからなかった。烏帽子山の後方遠くに見える山は、多分この後登頂予定の道後山であろう。見るべき展望もなく夕暮れの風に追われるように山頂を後にした。大半の人は同じ道を引き返して行くが、南原方面への周回コースから下山して行く一組の家族連れが見えた。それを追うようにしてゆるやかな稜線歩きから南原へと下り、駐車場へ戻った。

ほんのピクニックだったが、比婆山系を大きく周回すればもっとハイキング気分になれただろうか。
今日は2山の登頂ができたし、時間もすでに夕暮れの4時近く。ここで車内(マイカーの中)に泊まるのが順当なところだったが、またまた先を急ぐせっかち虫が騒いで、今日のうちに道後山の登山口まで移動しておこうという気になってしまった。
上ってきた林道を戻る。小馬木の集落あたりを通過したとき、振返ってみると重なり合う山の奥に一つのピークのがあった。その姿は切妻屋根そのもの、字の通り吾妻山に間違いない。自動車を止めてその姿をカメラに収めた。先を急がないと暗くなるまでに余り時間はない。オーソドックスに国道を行けば間違いないのに(R314〜R183)、地図を見てつい近道をと思ってしまった。
県道444号線を使ってショートカットすべく、殆ど自動車も通らない間道へ乗り入れた。道はまったくの山の中、1車線ぎりぎりの林道同様の悪路、何とか峠を越えて集落が近づいてきたとき『土砂崩壊、通行止』の表示がある。通行を阻止するように大型のユンボが道を塞いでいる。これではどうしようもない。何でもっと手前に表示しないのか。これからまた山道を戻って、と考えると無性に腹が立ってきた。日没が間近い。いざとなったらどこへでも自動車を止めて寝るが、何ともやりきれない気分だ。すぐ先に民家が見える。クラクションを鳴らしてみたが何の反応もない。ユンボの脇が少しだけ空いている。自動車を降りてみると、道路をはみ出して谷側の斜面に轍が残っている。しかし道路との段差が大きく、片側車輪を谷側の斜面へ乗せたらスタッグしてしまう危険性が大きい。そうなったらもうどうしようもない。暫く対処方法を考えた。急がば回れ、そんな言葉も浮かんだが、どうしても引き返す気になれず、スタッグ覚悟で、それこそ1センチ刻みでユンボの脇を進めて行った。スタッグか、あるいは左手斜面の崩れか脂汗の流れるような緊張だったが、幸運にも何事もなく無事に通過した。
すぐに国道へ出て、後は一路道後山登山口へ向かう。
日没間近の夕日をうけた笹原の山が見える。あれが道後山にちがいない。登山口となる道後山スキー場への道を教わり、ようやく目的地が目の前となった。スキー場への途中、売店で酒を買い入れ、最奥の駐車場へ着いたのはもう夜の帳が下りはじめたころだった。
今日一日、自動車を走らせた距離と時間は、いったいどのくらいになるだろうか。すっかり暗くなった誰もいない駐車場で急いで夕食を作った。