追想の山々1154  up-date 2001.10.26

立山3003m)大汝山(3015m真砂岳(2860m別山(2874剣岳(2999m)
2012.08.01〜02 単独
●扇沢===室堂(9.15)−−−一の越(9.55-10.00)−−−雄山(10.40-11.00)−−−大汝山(11.30)−−−内蔵助カール分岐(11.50)−−−真砂岳)−−−別山(12.55-13.20)−−−別山乗越−−−剣山荘(14.35)
●剣山荘(4.15)−−−一服剣(4.35)−−−前剣(5.25-5.30)−−−剣岳(6.40-7.05)−−−一服剣(8.45-8.55)−−−黒百合平−−−別山乗越(10.20-10.25)−−−みくりが池−−−室堂(12.15)〜〜〜扇沢へ

3月から4月にかけの四国遍路の途次、遍路道に近い山をいくか登って以来の山登り。その遍路の山を除けば1月以来半年ぶりの登山ということになる。これほど間を空けたのは20数年の山歩きを通して始めてのこと、山への『感』のようなものがどこかに消えていて、どことなく緊張感がある。

対象の山は立山〜剣岳、以前長男と歩いたときとまったく同じコース、そのときの剣岳はあいにくの濃霧、いつか好天の時にもう一度と思いながら22年の年月が過ぎていた。

***************************

≪1日目…快晴≫

剱岳

扇沢始発のトロリーバスで黒四経由室堂へ。
室堂の空も雲一つない快晴。観光客などで賑わいを見せてる。目の前にそそり立つ立山連峰を仰ぎ見てさあ出発。しかし以前のような馬力はない。その上遍路でダメージを受けた体力回復も3か月たったいまだに尾を引いている。
久しぶりの高山植物に足をとめたりしながら、登山者の列に混じって一の越へ。小さな残雪を渡ったりして一の越コル着、所要45分。針ノ木・蓮華岳から槍ケ岳方面へ、北アルプスの連嶺が目に飛び込んでくる。やはり北アルプスは日本一の山岳展望に値する。

しばし大展望に目を凝らしてから、急峻なガラ場斜面を雄山山頂へ。びっくりするほど登山者が多い。100名を超える中学生の団体から家族やアベック、小さな子供連れ。一本調子の急登40分で雄山山頂(3003m)へ到着。

500円也を納めて山頂神社でお祓いを受け、お神酒をいただく。雲のかけらもない360度の大展望。これからたどる大汝山(3015m)、富士の折立、別山(2874m)の先に岩の鎧をまとった剣岳の威容。鹿島槍など後立山から槍ケ岳、常念岳など北アルプスの主たる峰々がすべて視界にある大景観にしばし圧倒される。

山から見る大汝山と富士の折立(左)    ミヤマダイコンソウ(中)     別山から見る剣岳(右)

雄山をあとに残雪模様の山岳景観を観賞しながら、大汝山、富士の折立、真砂岳、別山へと進む。
別山のピークに立つと、剣沢を挟んだ剣岳が、残雪まだらに模様作って正面に迫る。突兀として山頂へとせりあがる東尾根の異容も迫力がある。明日はあの頂に立てると思うだけで気持ちが昂る。

剣御前小屋を経由して剣沢上部に立つ剣山荘へ。途中3か所ほど残雪の雪渓があるが難なく通過、2時35分剣山荘着。22年前の粗末な小屋は建替えられて立派な山小屋に変身していた。シャワー施設まで整っているのには驚いた。
小屋は収容能力半分ほどの入りで、ゆっくり寝ることができてありがたかった。

前剣の鎖場を行く登山者

本日の正味歩行時間は4時間55分、22年前の4時間10分に比べると歳相応に時間がかっていた。

≪2日目・・・快晴≫

ライト不要となる早朝4時15分剣山荘を出発。

岩片のごろごろした斜面の登り25分で一服剣の小ピークへ着く。黒いシルエットの剣岳源次郎尾根の東方、後立山連峰の山の端が美しいオレンジに染まり、本日の好天を約束している。
別山に暁光が届くと、モノトーンの世界から生気あふれる色彩の世界へと急変身していく。ガレの足元に注意を払い、刻々と移り変わる景観に目を注ぎ、澄明な大気を深く吸って高みへと足を運ぶ。
残雪の平蔵コルを通過して、いよいよ鎖場を繰り返す剣岳ハイライトの岩壁へと突入。事故を起こさないよう『慎重』を吾が身に言い聞かす。

標高2813mの前剣のピークに立つと、岩の殿堂剣岳の山頂が指呼の距離に迫る。残りの高低差は約200m、連続する鎖場は脚力より腕力がものをいう世界。下を見ればスパッと切れ落ちた断崖、もちろん手を放したら一巻の終わりだ。3点支持を守って慎重に移動していく。登山者の多い時は順番待ちで1時間も2時間も待たされるという場所だが、本日は先行登山者も問題なく通過して待ち時間はゼロ。

鎖場が終わり、ガレ斜面に出てひと登りすると剣岳山頂に到達。

22年ぶりの山頂は雲一つないピーカン、そして360度の大展望。岩に座して見える限りの山々をむさぼり眺める。一つ一つ列挙はしきれないが、見渡す限り重畳たる山また山の連なり、白馬方面から針ノ木岳、南へ連なる後立山連峰、表銀座、裏銀座の山

剣岳とお花畑

  雷鳥          剣岳山頂にて

々、常念岳山脈、乗鞍、御嶽、中ア、白山・・・目の前には大日三山、立山連峰etc。

山頂までの所要時間は正味2時間25分、22年前に比べると35分余計にかかった。そして25分間の展望満喫タイムを終って山頂を後にした。

前剣からの下りの途中、砂浴びをしている雷鳥を1メートルの至近距離から見ることが出来た。黒百合平、別山乗越(剣御前小屋)経由で雷鳥沢へ下る。地獄谷は通行止めのため、雷鳥荘からミクリガ池経由で室堂へと帰着した。

脚力の劣化を感じつつも、天候に恵まれ、多くの高山植物にも出会え、おまけに雷鳥の姿を目にするおまけまでついて、快哉の山行を楽しむことかができた。
脚力の劣化を感じつつも、天候に恵まれ、多くの高山植物にも出会え、おまけに雷鳥の姿を目にするおまけまでついて、快哉の山行を楽しむことかができた。


*******************************************************

1990.07.07〜8   長男同行
●扇沢===室堂(9.35)−−−一の越(10.15)−−−雄山(10.55-11.05)−−−大汝山(11.30)−−−真砂岳(12.05)−−−別山(12.40)−−−別山乗越(13.15-40)−−−剣山荘(14.20)
●剣山荘(3.50)−−−一服剣(4.10)−−−前剣(4.50)−−−剣岳(5.40-6.05)−−−一服剣(7.20)−−−剣山荘(7.20)−−−黒百合平(7.50-8.20)−−−別山乗越(9.05)−−−みくりが池温泉入浴(10.20-40)−−−室堂(10.50)〜〜〜扇沢へ
所要時間  1日目 4時間45分 2日目 6時間40分(除、入浴)
室堂から一ノ越へ

第一日目・・・《快晴》
扇沢からトロリーバス、ロープウェイ、バスと乗り継ぎ、陽光が降り注ぐ室堂に到着。ここはもう森林限界の標高2450メートルである。
駅舎を一歩出ると、室堂を取り巻いて聳立する立山の連嶺が、壮大なコロシアムの底から仰ぎ見るような迫力だった。吃立する屏風の根元に立ち、弾むこころで今日これからたどるコースを 目で追う。
長男が同行し、今日は一人ではない。
日本百名水のひとつ、玉殿水を水筒に満たす。雲ひとつ見あたにらない室堂には観光客が散策する姿が行き来している。

石敷きの遊歩道から一の越へ向かう。途中から雪の上を歩くようになる。小雪渓には夏スキー用のポールが並び、スキーの好きな長男は羨ましそうに横目で見て通過。一の越は冷風が吹き抜けて思わず身震いする。大勢の登山者や観光客が憩っていた。
登って来た反対斜面には大きな雪渓が残り、北アルプスの展望が広がっている。ひとしきり景観を楽しんでから、いよいよ雄山への急登にかかる。ミヤマキンパイが風に揺れる急斜面を一歩一歩踏みしめて行 く。目の下の室堂平が、ハイマツと残雪の斑模様となって、うねる波のように見える。
急登40分で社務所の建つ雄山に到着。地図では2992メート ルとなっているが、本当の山頂は雄山神社のあるピークで、標高は3003メートル。玉石の上に座し、神主の打つ太鼓と祝詞に頭を垂れお祓いを受けた後、お神酒を一口づつ授かった。立山三山というのは、この雄山の他に浄土山・別山をいうが、今では誤って大汝山、富士の折立をいうことがしばしばあるそうだ。
社の真後ろに剣岳の威容が峨々として聳立、目の前に延びる大汝から別山へと稜線を辿り、明日はあの頂に立つのが目標だ。白馬、鹿島槍、裏銀座、槍、穂高、薬師・・北アルプスの名 だたる山々はすべて視界の中にあった。

雄山神社の裏側を回り込むようにして岩稜を伝うと、立山最高峰の大汝山はすぐだった。3015メートルの巨岩の頂上には、ひと際大きい岩が塔のように立っていた。これで日本における3000メートル峰はあと南アルプスの農鳥岳を残すのみとなった。
雄山までは大勢いた登山者も、そこから先は急にひっそりとして、人影もまばらとなり、たまにしか行きあわない。
大汝山を過ぎて高山植物の咲くなだらかな道をしばらく行く。富士の折立から砂礫の急な下りに変わり、真砂乗越に降り立つ。このあたりが昨年秋、初老のパーティー数人が一度に疲労凍死したあたりだろうか。雲上の遊歩道のようなこんなところでと思うが、それが山の怖さだ。
真砂岳は巻き道もあるが、 砂礫の斜面を踏んで山頂に立つ。平頂なピークは古びた標柱が立っていて、そこが山頂と知れる程の頂だった。
別山頂上には私だけが登り、やや疲労気味の長男は巻き道を行く。雪田の残る別山頂上は細長く、山頂のピ ークは突き出た山稜の先端にあった。その先端に立ち、剣沢を隔てて堂々と天を圧する剣岳を心行くまで眺め、写真に収めた。これまでは胸から上しか見えなかった剣岳だが、ようやくその全容を余すところなく見ることができた。来し方を振り返 れば大汝、雄山がもう彼方に遠ざかっていた。

巻き道を行った長男と合流、別山乗越へ。
雪渓を渡る冷たい風を避けて遅い昼食にする。ハム、チーズ、トマト、 キュウリをパンに挟み、スープを作って簡単ながら中身の濃い食事をとる。剣御前から剣、後立山連峰を眺めながら最高のランチだった。一人のときは食事の時間ももどかしく次の行動に移ってしまうのだが、連れがあるとゆとりの時間が持てる。
雪渓を四つほど横切りながら剣沢を下って、今日の宿泊地剣山荘に到着。二人で6畳一部屋をあてがわれ、伸び伸びとくつろげたのが嬉しかった。小屋の名物、お代わり自由のシチューもなかなかよかった。
暮れなずむ空に黒部川の峡谷を挟んで五竜、鹿島槍、爺ケ岳の紺青のシルエットがいつまでも目に残った。


第二日目・・・《霧→快晴)

剣岳
剣御前あたりにガスが巻いている。薄明るくなった4時少し前小屋を出る。やや風が強くて寒いが荒れ模様というほどではない。まず一服剣が第一ポイントだ。すぐに懐中電灯も不要となる。 グッグッという鳴き声は雷鳥だ。
雪渓をひとつ渡り、ガラ場をひと登りしてワンピッチで一服剣へ。コースタイム1時間とあるが20分で来てしまった。まだ剣岳本峰は見えない。その前に前剣が立ちはだかっている。
一服剣から見る前剣は、いかにも急峻で険しい。まず最初の鞍部の武蔵のコルまで下り、ガレの登りに取り付く。崩落を起こしそうな岩礫を一歩一歩足場を確かめながら高度を上げて行く。どこがルートともはっきりしない急登を右に左に、足場のよさそうな所を選んで慎重に登る。無事前剣のピークに到達する。残念ながら剣岳の威容はガスに閉ざされて見ることができない。ときおり途切れるガスの隙間から、朝日を浴びた源次郎尾根あたりが垣間見られるのみだが、実に幻想的な眺めだった。

剣岳山頂
いったん小さいコルへ下る。初めて鎖場があらわれる。絶壁にかけ られた鎖にすがって横にトラバースして岩場を越える。岩稜がつづくが、平蔵谷コルへの下りも鎖につかまって難なく通過する。 このコルには避難小屋が建っているが、窓も戸も破れコンクリート の躯体だけだが、万が一のときにはまたとない救いになるだろう。
これから本峰への最後の登りとなる。岩稜のハイライトとはいうものの、一般登山道として鎖や鉄梯子が架けられ、どうということもない。小屋の先でまず長い鉄梯子で岩の裂け目を上に抜ける。その後は鎖で横にトラパースすると、難所は終って岩を踏んで頂上目がけて登って行くのみだ。大きな雪渓が谷へ落ち込んでいる。危なくて雪渓には乗れない。その縁を回るようにコースを取ってて行く。
目の前に雄の雷鳥が一羽。私達を待っていたかのように、ぴょ んと雪渓の上に乗ると、何とグリセードで雪渓を滑り始めたのだ。不器用に見えるが巧みに滑って行くその姿に、しばし拍手を送り たい気分で見とれた。雷鳥ののグリセードにお目にかかれたのは幸運だった。大変な宝物でも見た思いだった。

霧の去来する岩稜を早月尾根への分岐標識を見ながらひと登りすると、そこが岩石累々と積み重なる剣岳山頂だった。だれもいない。風が冷たい。せっかくの山頂ながらガスで眺望はなく、記念写真を撮っただけで頂上を後にした。少し下がった岩陰で休憩を取る。持って来たあんみつが美味かった。雲の切れ間から時折覗くのは毛勝三山だろうか。足下のガスが吹き払われ、平蔵谷コルへの岩稜コースの針峰が小気味よく連なっている。

剣山荘へ戻ったのは7時40分、予定以上に順調な出来栄えだった。
預けてあった荷物を受け取り、黒百合平まで登ってから朝食にする。ガスに覆われていた剣岳は今はすっかりその雄々しい全容を現し、そぎ落とされた岩稜の襞が幾条にも陰影を刻みつけていた。

別山乗越への登りから振り仰ぐと、剣岳の上空には秋を偲ばせる高い鱗雲がかかっていた。
温泉に入って帰ろうと言うことで即決。みくりが池温泉で汗を流し、扇沢への帰途についた。