追想の山々1155  up-date 2001.10.27

奥秩父
小川山
(2418m) 登頂日1993.06.05 単独
瑞牆山荘(5.10)−−−富士見平(5.35)−−−瑞牆山分岐(5.50)−−−八丁平(6.30)−−−第一展望露岩(7.00)−−−第二展望露岩(7.20)−−−第三展望露岩(7.35)−−−小川山(8.00-.20)−−−八丁平(9.55-10.00)−−−大日小屋(10.15)−−−富士見平(10.45)−−−瑞牆山荘(11.00)
所要時間  1日目 **** 2日目 *** 3日目 ****
信州百名山
露岩展望台から瑞牆山をスケッチ


奥秩父西端にひっそりとたたずむ小川山。2400メートルの高度を超えれば既に立派な中級山脈としてその名を知られていいはずなのに、山好きの中にあってもその存在を知らない人もけっこういる。私も信州百名山として始めて知った山である。

奥秩父の盟主“甲武信岳”にくらべても、その背丈ではたいして遜色はないのに、平凡な山容と主稜線から外れているという位置関係から、その存在が目に付きにくいのだろう。ただし、クライマーにとっては練習ゲレンデとしての存在感が大きいようだ。
そのような状況が幸いしてか、太古以来斧の入らぬ原始のままに、シラベなどの原生林に覆われていた奥秩父山塊の様子を今に留めている貴重な山域でもある。

早朝、瑞牆山荘前の駐車場からスタート。さすが高度1500メートルは肌寒い。雲量70パーセント、上天気とはいえない。
ガイドブックによれば小川山は登山道も不明瞭で、熟達者以外は無理だと記されている。瑞牆山荘から天鳥川の瑞牆山分岐までは登山者の多い一般コースで問題ないが、その先がどうか気にかかる。
富士見小屋の建つ富士見平で金峰山への道を分け、左瑞牆山への道を取る。道標には小川山への表示はなく無視されている。
天鳥川へ下りきる手前で道は二分する。ここに小川山の道標があった。小川山へは右手につま先上がりの道がつけられていた。心配したような悪い道ではなく、しっかりと踏まれている。倒壊した建物のところで通が不明確になったが、探すと建物の脇に草に埋もれた道が見つかった。この後八丁平までは何ら問題はない。左手に崩れ落ちて来そうな瑞牆山の岩塔を仰ぎながらだらだらと登って行くと、大日岩との分岐の先で木材搬出用の古びた索道台座が苔を蒸していた。かつてこの付近で大々的な伐採作業が行われたのであろう。

手入れもされないカラマツ密生林の、ぬかるんだ細道を行くとコメツガ林が切り開かれたような空間があって、八丁平の標識があった。このあたりから本格的な原生林の芽囲気が濃くなってきた。
この先からは道とは言えないが、歩く人もそこそこあるらしく踏み跡はしっ かりしているので迷う心配はない。道を閉ざす苔蒸した風倒木を、跨いだりくぐったり、何回となく繰り返す。倒木の折り重なった先でルートを探す場面もあるが、テープやペンキマークが案内してくれる。
ひとしきり厄介な倒木帯をやり過ごすと、花崗岩の露岩に出た。露岩に登らずに巻いて行く道もあったが、その露岩に登り立って見ると、いい展望が得られた。あまり天気がよくないのが残念だが、それでも金峰山や瑞牆山が指呼の距離にあり、純白の衣装をまとった富士山の頭もとび出している。南アルプスや八ヶ岳は湿っぼい千切れ雲がまといついているが、群青のシルエットで連なっていた。そして先に目をやる と、若芽の緑が光る黒樹に覆われたゆるやかな円頂がうかがえる。変哲もない姿のそれが小川山であった。
再び原生林に埋もれた道を行く。

奥秩父にあって訪れる登山者の少ない寂峰として、小川山の外にもう ひとつ和名倉山(白石山)がある。しかし和名倉山は既に全山伐り尽くされて、昔ながらの深い原生林はない。ただ登山について言うなら、ルートファインデイングは小川山より難しかった。
花崗岩の露岩がその後2カ所あって、それぞれ好展望台となっていた。
シャクナゲの木が多い。それも大きくてかなり立派な木である。実はこの山行はシャクナゲも一つの目的だった。しかし花期には10日ほど早かったようだ。これだけの群生が満開になったらその見事さは想像に難くない。

今日の曇り空が、かえって苔で埋まる原生林の雰囲気を好ましいものにしているようだ。原生林全体がしっとりと潤い、苔がすべての音を吸収して、耳につくのはときおり響く小鳥の声だけ、幽邃無限のときがここでは肌に伝わって来るようだった。
本峰手前の小さなピークを越えて、急になった登りを一汗かくと目の前に三角点標石があった。赤ペンキで塗られた三角点は二等だった。標点の周囲が数平方メートルばかり切り開かれているだけで、遠目に見て想像していた広い山頂とはまったくちがうのが意外に思えた。周囲はシャクナゲ、その回りはコメツガの樹林が密生して展望はなかった。
ときどき雲間からこぼれる陽を受けてひと時を過ごしてから山頂を後にした。
下山は八丁平までは同じ道を取り、その先は大日小屋を経由して瑞牆山まで下った。