追想の山々1157  up-date 2001.10.27

虫倉山=むしくらやま(1378m) 登頂日1994.05.06 単独
不動滝(12.30)−−−四阿(13.10)−−−虫倉山(13.25-40)−−−四阿(13.50)−−−不動滝(14.20)===奥裾花駐車場(16.00)
所要時間 1時間50分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
信州百名山
虫倉山より戸隠山をスケッチ


標高差420メートルの軽いハイキング。

大渚山を登った後、小谷温泉で一浴。中条村の『虫倉山』へ移動。
白馬村でガソリン補給後、千国街道(別称塩の道)と別れ、近年まで秘境と言われた鬼無里村に入る。長野市に居住していたころ、水芭蕉見物に、また山菜採りにと何回も訪れたことのあるこの僻村も、あれから10何年がたって、道路をはじめ村全体が見違えるほど開けていた。

虫倉山のある中条村へはさらに大桐峠を越えて小川村方面へ向かわなければならない。峠を越え、民家がぽつぽつ点在するあたりで、田植えの準備に精出す老人に、虫倉山への登山口を教えてもらった。わかりにくい村内の曲がりくねった道をきょろきょろしながら自動車を走らせ、『虫倉山』の道標を見つけた。
道標にしたがってしっかりした林道を登って行くと、不動の滝前が手頃な駐車場で、ここが不動の滝コースの登山口となっていた。高度計を見ると960メートル、山頂までの標高差は420メー トルほどである。ガイドブックにも見当たらない山だったが、地元民に親しまれ密着している山のようだ。
登山口には立派な道標やコース案内も設置されていた。
時間があったら、3日目の帰りがけに登ってもいいと思っていた山を、 初日、大渚山につづいて登ってしまえるのはありがたい。信州百名山の著者清水英一氏が「小さいながらも精悍な感じのする山」と評している。低山ながら中条の村落を背後から庇護するかのように、温かく聳立している様子はうかがうことができた。

カメラ、スケッチブック、水筒という手軽ないでたちで山頂へ向かっ た。
しばらくは杉植林の中を歩くが、すぐに砂防堰堤を3つほど越えたところで、いかにも春らしい雑木の明るい潅木帯となった。梢に芽吹いたばかりの新禄が、柔らかく山全体を包みこんでいる。黄禄、萌え黄、薄緑、薄茶あるいはライトグリーン・・・・さまざまな色彩が渾然一体となって、一つの調和を保っていた。
地域民が繁く通う山らしく、登山道の整備も良好、急登もなくじぐざぐに山頂へ導いてくれた。そこここに咲く山桜が、萌える新緑の中では一際目立つ。エンレイソ ウ、スミレ、ヤマブキなど春の花が登山道に彩りを添えている。
40分ほどで稜線に立った。四阿があって、そこは北アルプスの展望台にもなっている。展望板には小蓮華、白馬、五竜、槍、穂高、常念な どがイラスト入りで描かれているが、その姿は雲の中だった。山へ登らなくても、村全体どこでもがアルプスの展望台と言えるほどで、ちょっと小高いところへ登れば、どこからでもアルプスの展望が望める、中条とはそんな村である。

四阿から稜線を緩やかに登り、いったん下ってからもう 一度登り返したところが虫倉山山項だった。
展望の邪魔になる木は伐採され、大きな望遠鏡が設置されて、自由に使うこともできる。こんなサービスのある山も珍しい。上空は晴れているが、周囲の山々には雲がかかって、遠望は効かないのが残念だった。 確認できたのは戸隠山と高妻、ぼんやりと妙高山。ちなみに山頂展望板に記された山は、北アルプス、富士山、美ガ原、聖山、八ヶ岳、冠着山、浅間、四阿山、根子、白根、横手山、笠岳、斑尾、黒姫、妙高、高妻、 戸隠と、まさに大パノラマだった。
しかし山頂での展望で特に私の目を引いたのは、限下に広がる村落の風景だった。よくぞこのような山間に住み着いたものと思わせるほどの、入り組んだ山地の中に集落が点在、狭い山間に数戸、あるいは十敷戸、まことに長閑な、しかし暖かみの感じられる山村風景であった。山頂からそんな景観を府徹していると、今でこそ自動車道が整備され、外界との交渉も密になっているが、どこへ出るにも徒歩で峠を越えなければならなかった昔の生活は、 どれほど不便を強いられたことだろうと往時を偲んでしまう。

汗が冷えて来たのを機に山頂を辞した。
途中コゴミや蕗を採りながら来た道を戻った。

翌日東山へ登るべく再び大桐峠を越えて鬼無里村へ戻った。裾花川に沿って上流に逆上ると、最奥に広い駐車場がある。ここも以前の悪路とは違って道も改良され、駐車場周辺の整備も進んで様変わりしていた。奥裾花の水芭蕉は、今や全国に知られるまでになり、加えて今が見ごろで、近在をはじめ遠方からも観光客がどっと押し寄せていた。