追想の山々1164  up-date 2001.10.28

みちのく ≪9山11湯≫ の旅
8月 7日・・・・大東岳(宮城) 8月10日・・・・禿 山(山形) 8月13日・・・・神室山(秋田)
8月 8日・・・・泉ケ岳(宮城) 8月11日・・・・高松岳(秋田) 8月14日・・・・焼石岳(岩手)
8月 9日・・・・船形山(宮城) 8月12日・・・・虎毛山(秋田) 8月15日・・・・五葉山(岩手)

神室山=かむろやま(1365m) 登頂日1991.08.13 
矢地の沢キャンプ場(5.30)===西の又川登山口(6.15)−−−第一吊橋(6.35)−−−第二吊橋(6.45)−−−不動明王(7.20-25)−−−御田の神(8.05)−−−前神室分岐(8.25)−−−神室山(8.35-55)−−−分岐(9.05)−−−有屋口分岐(9.20)−−−前神室山(9.45-10.05)−−−ざんげ坂(10.25)−−−1095mP(10.30)−−−西の又かわ登山口(11.10)===川原毛地獄見物===大湯滝入浴===泥湯温泉入浴===つぶ沼キャンプ場へ
所要時間 4時間55分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
日本300名山
1235mPの右背後に神室山

高差約950メートル。

テントを出て空を仰ぐと、待望の青い空があった。雲量50パーセン ト、快晴には程遠いがそれでもこの山旅7日日にしての青空であった。台風の心配がなかったら、この矢地の沢キャンプ場で3泊するはずだったが、結局温泉に2泊してしまった。
キャン プ場を後にして、目標の中山小学校前のバス停から国道と分かれて役内集落への道へ入ると、早くも野良仕事の人々の姿が見える。田舎の人は勤勉である。念のため登山口を尋ねると「この先に鳥居がある。そこを入って行けばいい」と教えられる。
未鋪装となった田園の中を行くと、目立つ鳥居があった。鳥居の脇に駐車場があって、通常はここが登山口になるが、私ちは鳥居をくぐって、さらに車幅一杯の林道を奥へ進入した。鳥居から10分ほどで沢コースと尾根コースの分岐点の登山口に到着した。キャンプ場から30分だった。数台駐車可能なスペースがあるが、 他に駐車している車はなかった。
妻は今回の山旅本命である明日の焼石岳に備え、ここで休養かたがた待機することにした。
虻がうるさい。追い払いながら出発の身支度を整えて沢コースヘ出発した。神室山はみちのく山旅9座の中で、一番期待した山であった。願わくば山頂での展望が叶えば最高である。
登山道は西の又川左岸の中腹をへつるようにつけられている。20分弱でひとつ目の吊橋を渡って右岸に移った。さらに10分ほどで二つ目の吊橋で左岸に戻る。樹林が深くなって沢音がはるか足下となる。山腹高くつけられた道は、山の璧にそって屈曲しているが、傾斜はゆるやかだ。高度が上がって行くと次第に霧が立ち込めて来た。もはや青空は見えない。期待が大きかった分、失望も大きい。『朝霧は好天の 兆し』と言い聞かせても空しい。

緩い勾配をたんたんと歩いて、左手に二段の滝を見るようになると、道は沢芯へと下った行った。この滝は『三十三尋の滝』といい、西の又川右岸に懸かる落差20メートルの滝で、雨の後だけに水量も多く迫力があった。
西の又川の流れを飛び石伝いに右岸に移る。腰までの夏草を分けて沢沿いを進むと、すぐに急な坂があって、その上がブナに囲まれた不動明王だった。清水もあってい い休懇ポイント、ここで3分の休みを取る。
不動明王からは胸突き八丁と呼ばれる本格的な急登となる。ブナ林の中、御田の神まで高度差500メートルを一気に登って行く。久しぶりに雨具をつけない身軽さで、厳しい急登も苦にならずいつものペースでぐいぐいと高度を稼いで行く。ブナ自然林の美しさを鑑賞しながら約50分、樹林を抜け出して低潅木の尾根に出ると勾配も緩んで来た。この辺りから一気に展望が開けて来るところだが、ガスのため遠望はない。そして平坦な草原状になったところが御田の神だった。湿性の草原が盆地状に広がっている。進行前方に障壁のようにそそり立つのが神室山だろうか。頂上部は雲の中にあってうかがうことができない。湿原にはイワイチョウ、ゼンテイカ、キンコウカなどの花が見られる。
御田の神の草原を縦断するようにして通り抜けると、再び登りとなる。目の下になった御田の神は、やがて乳白色の霧の中へ消えて行っ た。霧で方向感覚がまったくきかない。道標もないので果たして正しい方向へ進んでいるのか自信が持てない。しかし1本道だから間違うはずはないと信じて登山道を追った。

 
前神室山山頂  神室山山頂
ハクサンシャジンやタチギホシが振やかに咲く登りが終ると稜線に出たことがわかる。そのまま稜線を少し進んだところが神室山と前神室山との分岐だった。ここはしっかりとした道標が立っていた。頭の中の方向感とはぜんぜん違うが、道標にしたがって神室山へ向かった。
分岐からはアルプス的な痩せた主稜線上を行く。小さな岩場があったりして短いながら変化のある主稜で、時折薄くなったガスの切れ間から足下に深く切れ込んだ谷が覗く。襞には残雪も見える。
花を愛でながら神室山項まではわけなかった
山頂は裸地の狭いスペースに標柱や石碑が風にさらされていた。雲に閉ざされて展望はない。

神室山から分岐までは咲き乱れる花の写真を撮りながら歩いた。ミヤマアキノキリンソウ、ハクサンフウロ、トウゲブキ、ハクサンポウフウ、 ハクサンシャジン、タチギボシ、エゾシオガマ、クルマユリ・・・・
分岐から先の1235メートルピーークの露岩まで来ると、突然雲の外に出た感じで東側の展望が開けた。御田の神の湿原が眼下に、草原を分ける登山道も明瞭だ。昨日、一昨日登った虎毛山や高松岳も確認できる。行く手には前神室山のゆったりとした山頂もあった。十分とは言えない展望だったが、これだけでもがっかりしていた気持ちをかなり癒してく れた。 しばらく展望を楽しんでから前神室山へ向かった。有屋口分岐の道標のあるあたりまでは、登山道の手入れもよくて実に快適なスカイライコー スである。この先いったん鞍部に下ってから前神室山へ登り返すのだが、この部分は道を潅木が覆い、露で上から下までびっしょりと濡れてしまった。

中央奥が前神室
前神室山は草地の気持ちいいピークだった。通過して来た1235メートルの露岩ピークや東面の展望も楽しめる。陽が降り注ぐ山項でしばら休憩にする。
1235メートルピークまでは雲がとれているが、その背後にある神 室山は依然姿を見せない。執拗に意地悪している感さえあった。ところが前神室山に到着してものの10分も経っただろうか、1235メートルピーク背後の雲が急に切れはじめた。見る見る神室山が姿を現してきた。嬉しさにカメラのシャッターをたてつづけに切る。それから四面の山座同定に熱中。興奮したひとときを過ごした。1235メーートルピークの左に禿岳、右に神室山。蔵王連山。虎毛山山項の避難小屋もはっきり見える。高松岳、山伏岳。栗駒山、遠く焼石連峰らしい山影も見える。雲の上に突き出した残雪の山は月山と鳥海山。緑一色の新庄平野も俯瞰できた。
今回の山旅で始めての満足感に浸って下山にかかった。
途中三つの小ピークを越え、ざんげ坂という急坂を下る。右手に栗駒山が見えるたびに足を止め、そして駈けるようにして下った。

登山の後は温泉。 まず川原毛地獄を観光。かつての硫黄採集の跡である。立山、恐山と並ぶ日本三大霊地である。そこから徒歩15分ほどの大湯滝へ。滝壷がそのまま温泉として入浴できる。落下する滝に打たれ、自然そのものの温泉でくつろぐ気分は最高であった。見物する観光客も多くて女性は水着がないと入ることができない。滝壷から流れ出る湯がそのまま渓流となって、その湯の中で飲食を楽しむ男女もあった。
大湯滝を上がってから、さらに自動車で泥揚温泉に移動。奥山館の小屋掛けの湯に浸かった。
今日のキャンプ地はつぶ沼。栗駒有料道路から一路岩手県胆振町の石淵ダム近くのキャンプ場は管理人もいない質素なキャンプ場だったが、 20張り以上のテントが並んでいた。
天気予報はまた下り坂だった。