追想の山々1170  up-date 2001.11.01


祝瓶山(1417m) 登頂日1992.06.28 単独
針生平(3.55)−−−尾根上(4.15)−−−枯れ木のコル(4.50)−−−最初の岩のピーク(5.35)−−−祝瓶山(6.00-20)−−−枯れ木のコル(6.55)−−−針生平(7.40)===小国町===飯坂IC===東京へ
所要時間 3時間45分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
祝瓶山山頂
標高差約1000メートメル。
ニ王子岳を下山後、新発田市から7号線を北上、関川村の分岐から113号線へ。 小国町から五味沢、そして針生平(はんなりだいら)へと朝日連峰の懐深く進入した。林道の終点にテントを張って、明朝早く祝瓶山を目指す予定である。

清流のほとりで飯盒炊爨の若者に、「余分に作ってしまったので食べてくれませんか」と夕食を御馳走になった。東京から釣りに来た若者二人だった。礼儀正しい健康的な若者で、すがすがしく気持ち良かった
テントサイトからは夕映えの祝瓶山が緑濃く、三角錐の美しい姿を見せていた。 明朝の早立ちに備えて登山道を確認しておくため少し歩いて見た。どうも地図と登山道とが合致しない。出水でコースが変わったことも考えられる。夜通し運転して来た疲れもあって早々就寝。
深夜、谷間の狭い空には無数の星が瞬いていた。こんな星空はいつ以来のことだろう。ほの明るさを感じて目を覚ました。時計を見ると3時半。空は白みはじめていた。快晴である。

昨日下見のコースが、祝瓶山へのコースに間違いないことを願いながら、テントサイトを後にした。荒川の渓流に降りてすぐ30メートルほどの吊橋で対岸に渡る。ワ イヤーロープは赤錆び、踏み板は剥がれて、危なっかしく板が載せられていた。 揺れる吊橋を渡り、渓流沿いに川上に道を辿るとすぐ、今度は支沢の丸太橋を渡る。笹の中に建つ杣小屋らしい青屋根の小屋を右手に見て進むと、『祝瓶山・大朝日岳』の案内標柱がある。ここまでは昨夕確認に来ていたが、実はこの案内標柱がどう見ても地図と一致しない。標柱どおりに進むと、カクナラ小屋から大玉山経由で祝瓶山へ行くのではないだろうか。とてもそんな遠回りをして登頂する余裕はない。半信半疑ながら、この標柱に従って見ることにした。
標柱から進入した樹林は、うっそうとしたブナ林だった。通常、山裾は杉や桧の植林地が多いが、ここでは山裾からブナ林であることが嬉しかった。いずれも一抱えも二抱えもある大木である。
しっかりした踏み跡を10分ほどでまた道標がある。右手の山腹に取り付くのが祝瓶山、だらだらした踏み跡をそのまま直進するのがカクナラ小屋であった。ここで祝瓶山へのコースがこれで間違いないことを確信した。ほっとした気持ちで山腹への登りにとりついた。

朝日連峰が目前連なる
ブナ樹林の中、しばらくの急登で尾根上に出ると、日の出前の澄明な大気の中に朝日連峰前衛の山々がシルエットとなって聳え、背後には幻想的な曙光がしらじらと輝いていた。
潅木で見えたり隠れたする朝日連峰の姿に目をやりながら高度を稼いで行く。山並み背後から眩しい光陰が届き完全に夜が明けた。雲ひとつ見当たらない。
厳しい登りがつづく尾根道ではあるが、はっきりした踏み跡を安心してたどって行く。前衛の山に隠されていた朝日主稜の山々が次第に競り上がり、視界に入って来た。以東岳はまだたっぶりと雪をつけていた。厳しい登りが一息ついていったん鞍部に下った。見た目にはかなりの下りに見えたが、たいしたことはなかった。下り切ったところは立ち枯れの樹木が目立つ鞍部で、記憶のためここを『枯木の鞍部』とした。
さらに急登は緩むことなくつづいた。カラマツでもない、マツでもない、ハイマツでもないこの木は何というのだろう。気に掛かるがわからない。帰ってから調べると「ヒメコマツ」 だった。そう言えば平ケ岳登山でお目にかかっていた。
かなたに際立ったピークがようやく目に入って来た。祝瓶山だろうか。行程はまだまだありそうだ。




白銀の飯豊連峰をのぞむ
足元に岩角を踏むようになってひと登りで、岩のピークに立った。尾根を急登してきてこれが最初のはっきりしたピークであった。さらに先に見えるピークが祝瓶山と思ったが、本当のピークはまだその奥に隠 されていた。
樹林帯を抜け出てここまで来ると、朝日連峰はもうその姿をすべて私の視野の中に投げかけていた。昨日二王子岳から眺めた飯豊連峰も視野の中にあった。
さらに尾根を登りつづけると、大玉山への分岐で始めての標識があった。ヒメサユリが心地いい朝風に揺れている。目前のピークをひとつ越えるとその先にまた一つのピークがあらわれる。いったい何回だますのかと言いたくなったが、そこに見えるのはもう最後のピーク、 つまり祝瓶山の山頂であった。
最後のきつい登りで山頂に立った。午前6時、まだ早朝である。歩きはじめて2時間。標高1400メートルとは思えない高度感がある。素晴らしい展望だ。
肌寒い風に身を任せて日本三百名山山頂からの展望を貪った。
ここは朝日連峰の大展望台であるとともに、遠く飯豊連峰の眺望にも優れていた。ま近に大朝日岳、西朝日岳、竜門岳、寒江山とつづき、雪をたっぶりとまとった以東岳は同じ朝日連峰とは思えぬほど遠かった。これほどまじまじと、その優美な山脈、朝日連峰を眺めたことはなかった。今私の立つ山頂もまた朝日連峰の一部にもかかわらず、まるで遠い別の山から眺めているような錯覚をおぼえた。
アカモノの豆粒ほどの花や、ウラジロヨウラクの花が朝露に光って いた。

眺望を満喫した後山頂を辞した。
帰りも早かった。休憩もとらず1時間20分で針生平へ下山した。7 時40分、普通ならこれから登山にかかる時間である。
登山口には登山者も釣り人の姿もなく、下山しても快晴の山頂での余韻がつづいた。