追想の山々1171  up-date 2001.11.02


餓鬼岳(2647m) 登頂日1992.07.04 単独行
東京(1.00)===白沢登山口(4.55)−−−紅葉の滝(5.35)ー−−魚止の滝(5.50)−−−大凪山鞍部(7.10)−−−松川道分岐(8.00)−−−百曲り下(8.25-35)−−−餓鬼岳(9.15-10.05)−−−餓鬼岳小屋(10.10-40)−−−百曲り下(11.00)−−−大凪山鞍部(11.55)−−−魚止めの滝(13.05)−−−白沢登山口(13.50)===帰宅(18.15)
所要時間 8時間55分・・・・・(うち休憩時間1時間30分)
山頂の雷鳥

標高差1650メートル。

安曇野の白沢登山口は既に夜が明けていた。4台がやっとという駐車場に自動車を止めて出発した。林道は駐車場からもう少し先までつづいていたが、その先から車は進入禁止だっ た。
林道が終って草むらの中の小径を行くと、すぐに白沢の河原に出た。木製の橋で右岸に渡り、沢沿いをついたり離れたりしながら、勾配を感じさせないほどのだらだら道を行く。
山頂まで1600メートル余の高度差を登ることを考えて、今日はいくらかペースを落として楽な歩きを保った。ガイドブックには登りだけで 6時間30分とも7時間30分ともある。

40分ばかり歩いて紅葉の滝に着く。水流が狭い岩の隙間をしぶきを上げて激しくほとばしっていた。沢は険阻で、このあとも幾つもの滝があらわれた。桟敷のような橋を渡ったり、木梯子をよじ登ったりして徐々に高度を稼げるようになって来た。険阻な沢筋コースではあるが、そこはさすが北アルプス、危険箇所にはきちんと橋や梯子や鎖があって何の心配もない。マイナーの山域だったらこうはいかない。つい最近、6月25日の餓鬼岳小屋シーズン開業に合わせて手を加えたらしく、ノコギリ屑も新しい工作の跡が随所に見られた。
次のポイント『魚止の滝』も落差のある滝だった。滝から20分程行 くと『最後の水場』と表示があり、枝沢の清流が本流に流れ落ちていた。休憩に手頃の広場でもあったが、ここは素通りして先を急いだ。
水場を過ぎると登りもいよいよ本物となって来た。時には衝立のような岩を仰ぎ、あるいは登山コースを拓いた苦労のほどをしのびながら、連続する梯子で高度を上げて行く。高度計を見るとまだ半分も登っていない。これからの厳しい登りが思いやられる。
梯子を踏ん張る足に力が入らなくなって来た。気がつくと沢は涸れ沢と変わり、源頭が近いようだ。 ひたすら登りつづけてやっと稜線に立った。ここが大凪山の鞍部である。これで半分以上を登り終えたことになる。初めて休憩を取った。休憩で腰を下ろすのはめったにないが、このときは座り込んでの休憩となった。
残雪も見える山影が前方に立ちはだかっていた。餓鬼岳のようだ。

餓鬼岳山頂
休憩のあと、第二ラウンドの登りにとりかかる。
鞍部からは稜線コースとなる。2000メートルを越して樹相も高山的な雰囲気が濃くなり、ツガやシラベの黒木林に変って来た。いたるところコイワカガミが咲き競っている。大凪山鞍部までの厳しい登りに比べると、やや勾配が緩んでほっとした登りがしばらくつづき、 2,3の小さなアップダウンを過ぎて、沢筋に残る雪渓を渡った地点から最後の急登『百曲り』に入った。雪解けのあとにはオオバキスミレの群落がどこまでもつながっていた。百曲りの名の通りじくざぐに厳しく登って行く。シナノキンパイも咲きはじめていた。さらに樹相はダケカンバやハイマツに変わって来た。とりわけダケカンバの芽吹いたばかりの早緑は、柔らかくふくよかに匂い立つような風情を醸していた。

いくつか雪渓を踏みしめていくうち、前方稜線の上にプレハブ小屋が見えて来た。餓鬼岳小屋はもうすぐ、小屋まであと30分の表示があった。
ハイマツ帯の道を登り切ると、餓鬼岳小屋だった。
予期した通りの大展望が広がっていた。『山頂で展望を楽しみながらビールを一杯』と思って、小屋に声をか けたが返答がない。どこかへ出掛けたようだ。諦めて5分ほどの山頂へ向かった。つがいの雷鳥がハイマツをついばんだり、砂あびをしていた。 2メートルまでは近寄れるが、それ以上近づくと2メートルを保つように離れて行く。 しばらく雷鳥に遊ばせてもらってから、目と鼻の先の山頂に立った。
山頂は幸いにも青空ものぞき、薄日が差すほどの天気だった。早速周囲の山嶺に目を回らす。唐沢岳は踏んでおきたい山ではあったが、今日中に東京へ帰りたかったためにそれは諦めた。
ここでの展望は何と言っても裏銀座の山々である。不動岳、烏帽子岳、 三峰岳、野口五郎岳、真砂岳・・・・鷲羽岳、三俣蓮華岳、双六岳と残雪がたっぶりの山肌を映して堂々として連なっていた。
燕岳、大天井岳とその後ろに槍ヶ岳が意外に大きく、穂高連峰ものぞめる。大気が澄んでいれば、針の木岳から蓮華岳と後立山連峰も存分に味わえただろう。

 
 餓鬼岳山頂から三ツ岳、野口五郎、水晶岳方面をのぞむ
展望を楽しみ、写真を撮ったりしていると、突然女性に声をかけられた。すぐに小屋の人だとわかった。しばらく話をしたが実に感じのいい人だった。餓鬼岳小屋の評判の良さがわかる。
山頂から唐沢岳方向へ岩場の尾根を少したどってみた。ハイマツ帯の岩場には、イワウメの花がちょうど盛りとなって咲いていた。
小屋に戻るころ、下からガスが湧き上がって来た。裏銀座の山々を眺めながらビールで登頂を乾杯する。
まだ10時30分、下るには惜しい時間だが、後ろ髪を引かれる思いで下山の途についた。下山はマイペースで『最後の水場』まで一気に下ってしまった。水場の清列な流れで汗を流し、昼食をとりながら山頂での眺望を反芻するのもまた良い気分だった。
2003.09.15 餓鬼岳、唐沢岳山行はこちらへ