追想の山々1176  up-date 2001.11.09


以東岳(1771m) 登頂日1994.10.09 単独行
タキタロウ公園キャンプ(3.55)===泡滝ダム(4.30-4.55)−−−冷水沢吊橋(5.45)−−−大鳥小屋(5.55)−−−森林限界(8.00-05)−−−以東岳(8.45-.9.05)−−−ウツボ峰(9.35)−−−大鳥小屋(10.45)−−−冷水沢吊橋(11.40)−−−泡滝ダム(12.20)===キャンプ場(12.45)
所要時間 7時間25分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
泡滝ダムからスピードピストン(日本300名山・一等三角点百名山)
草もみじと、紅葉に染まる以東岳


婚約した長男、次男たちとキャンプを楽しんだ折り、ついでに日本300名山の以東岳へ登ることにした。
林道終点の泡滝ダム付近は駐車スペースが乏しいところへ、三連休ということもあって何十台という自動車が溢れ、ようやく1台分のスペースを見つけて駐車できた。
車内で夜明けを待つ。4時55分、渓谷の空がいくらか明るさを兆して来たのを見て出発した。まだ暗過ぎる。懐中電灯を照らして歩く。ダムから登山道へ入る。ほとんど勾配のない渓谷沿いの道をたどって行く。30分もするとだいぶ明るくなってきた。冷水沢の吊橋5時45分、大鳥池まで1時間30分の表示がある。本日の標準コースタイムは約11時間、コースタイムどおりに歩くと、若干の休憩も見て下山が夕方の5時ころになってしまう。午後2時までには下山したい。
吊橋を渡ると傾斜も出て来たが、依然歩きやすい整備された道である。
七ツ滝沢の吊橋を渡ったところから、次第に登山道らしい急勾配の登りに変ってきた。早朝のブナ原生林が気持ちいい。肺の中が清められるような気がする。紅葉にはまだ早いようだ。じぐざぐをショートカットして直登、時間を稼ぎながら飛ばして6時52分大鳥小屋へ到着。3時間のコースを2時間弱だった。昨晩大鳥小屋泊りの登山者が以東岳へ出発して行く姿も見られる。以東岳往復には、この小屋で一泊、ここから往復するの普通である。私のように泡滝からの日帰りはかなりの強行軍となってしまう。ベンチで朝食のパンを半分食べながら3分間の小休止。

水門の上を通り、足を池畔に踏み入れるとすぐに道標、左はオツボ峰コース、直進は尾根の直登コース。予定通り直登コースを選んで池畔をそのまま進む。大鳥池は「池」というよりちょっとした湖ほどの広さがある山上湖であった。青空を映して藍色の水をたたえている。池の最奥まで進み、池に注ぎ込む小沢を渡ったところが直登コー スの始まりだった。ブナ林の中を直線的に高度を上げて行くきつい急登だ。休まず緩めず安定したペースで登って行くと、早朝大鳥小屋を出発したと思われる人達に追いつき、次々と抜いて行く。登山道は雨水により随所でえぐられて亀裂が生じ損壊して、あまりいい道とは言えない。
以東小屋泊で下って来る登山者にも出会うようになる。さすが三連休は人出も多い。
足元に目を落とし、ひたすら急登を挙って400メートルの標高差を稼ぐと、8時2分突然という意外さで森林限界を抜け出した。目の前には黄金色に黄葉した草原が、山の斜面山一杯に広がっていた。空が抜けたような明るさが溢れ、目の下には大鳥池が碧く輝き、四周見回す山々は錦繍の衣をまとって燃え立っていた。

以東岳山頂
胸を突く急登はここまでだった。吹く風も急に冷たく汗が引いて行く。 色彩華やかな目の覚めるような景観をカメラに収めたりしてから草原の中の道を頂上目指した。
二段になったスロープ状の円頂の二つ目が以東岳。後1時間もかからないだろう。左手オツボ峰から三角峰にかけての紅葉と、登山道を挟む草もみじは、秋の見本を見るような眺めだった。
一段目の円頂に登りつくと、以東岳はもう目の前だった。ふだんの年だと、この時期にはもう初雪が来ているころだろうが、今年はまだその気配がなく、普通のハイキング気分での登頂が可能である。樹木の紅葉もいいが、一面秋風になびくスゲの草原が黄金の波と見まがう光景もまた見事である。何年か前の9月下旬、日本百名山の最後に登った飯豊連峰縦走の際の草もみじを彷彿とさせるものがあった。
以東小屋から山頂あたりには大勢の人影が見える。高度を上げて一層肌寒さを感じさせる風に吹かれて、以東岳山頂には8時45分に到着、所要3時間40分、約半分の時間で歩けた。
一等三角点百名山、そして日本300名山の山頂である。
頭上には青空も見えているが、かすんで遠望はきかない。しかし寒江山から大朝日岳にかけての見事な山稜が延々と波うって、さすが朝日連峰は東北の雄、流れる雲の先には大朝日岳の見事な三角錐もうかがえた。
眼下には「熊の敷皮」たとえられる大鳥池、その背後には錦織りなす山々があった。

キャンプ場との無線交信がうまく行かず、15分ほどで山頂を後にしてオツボ峰へ向かった。
ハイマツの稜線を上下して行く。右手に連なる朝日連峰の堆大さが目に焼きつく。小さなピークをいくつか越えて、天狗小屋への分岐付近がオツボ峰。既に以東岳が遠くなっていた。
三角峰の紅葉は近づくとさらに鮮やかさを際立たせた。以東岳山頂には薄い雲が流れ出した。
大鳥池(左上隅)への下りは、燃えるような紅葉
稜線と分かれて大鳥池への下山コースを下って行くと、続々と登山者が登って来る。このコースは夏には高山植物が美しいことだろう。ときおり雲間から陽が差すと、四周の黄菓、紅葉は眠りから覚めたように、にわかにその彩りに輝きを増して、山全体が炎に包まれたかのよ うに変貌する。
飽きることなく紅葉を楽しんで、三角峰を巻き樹林帯へ入る手前で休憩をとって、もう一度以東岳をしみじみと眺め直した。そま姿は凡庸だが、重量感、存在感こそが以東岳の値打ちだろうか。

樹林帯に入ると急傾斜となって、ブナ林の中を一気に下って行く。
直登コースに比べれば、登山道の状祝は数段歩きやすい。膝の故障を気にしながらも、ワンピッチで池畔までかけ下った。大鳥小屋着10時45分、後はゆっくり歩いても1時までに泡滝まで戻れるので、池越しに見える以東岳を眺めながら休憩した。大鳥小屋は普段は無人であるが、週末だけ管理人が入るということで、この日も管理人が入っていた。宿泊は勿論すべて自炊である。傍らの登山者が、この大鳥小屋をはじめ、縦走路にある小屋すべてが昨夜は超満員だったと話し ているのが耳に入った。

キャンプ場では、妻たちが今ごろどんな夕食を作っているのか、それを楽しみに泡滝ダムへと最後の足を運んだ。
泡滝ダム帰着は12時10分、会心の山行だった。

以東岳登頂により東北地方にある日本三百名 山はすべて登り終ることができた。そんな満足感も手伝って、ワイン、ビールも 格別の美味、いつか満天星空が広がり、親子4人に、やがては息子たちの嫁さんになる二人も加えて、夜のしじまの中で楽しい時間が過ぎて行った。