追想の山々1177  up-date 2001.11.10


八海山(1778m) 登頂日1992.10.03 単独行
東京(3.15)===六日IC===山口・2合目登山口(6.20)−−−清滝4合目(7.05)−−−一本松5合目(7.30)−−−のぞきの松7合目(8.15)−−−千本桧小屋(8.55-9.10)−−−大日岳(9.45-10.10)−−−入道岳(10.25-50)−−−大日岳−−−新開道下山口(11.20)−−−カッパ倉・7合目小ピーク(12.05)−−−4合目稲荷清水(12.25)−−−2合目登山口(13.00)===五十沢温泉===東京(17.20)
所要時間 5時間45分(うち休憩約1時間)
岩峰を満艦飾に彩る紅葉を堪能
岩壁を飾る大日岳の紅葉
日本300名山
標高差1400メートル余。

霊峰八海山は紅葉の真っ只中にあった。
そそり立つ岩峰のどこに植物生育に必要な土壌が隠されているのか不思議である。岩肌には赤や黄や橙や紅が絢爛とちりばめられ、この世のものとは思えない景観をつくっていた。私の記憶の中での最高の紅葉であった。

山口の集落は霧の底に沈んでいたが、集落を外れて少し標高が上がると、淀んだ霧の上に出た。恐竜の背のような八海山の岩峰が高々と見上げられる。
山口集落から歩き始めるつもりだったが、自動車は細い林道をさらに 奥まで入ることができた。約40分の歩行時間短縮となった。
2合目登山口の広場に自動車を残して『屏風道コース』から山頂を目指した。屏風道はいくつかある登山道のうちでもっとも険しく、登り甲斐のあるコースだという。今ではゴンドラで4合目まで、標高差800メートルを一 気に登ってしまうコースが人気というが、運転開始を待っている間に4合目より上まで登れるから、わざわざ時間まで待つこともない。

屏風道へ入るとすぐ沢を渡る。増水時緊急用の渡し籠が設けられているが、勿論今日は籠のお世話になる必要はない。最初は変哲もない植林地の山道をだらだらと登って行く。ときおり足を止めて岩峰を見上げる。切り立っ岩壁を細く糸を引くように落下する滝が望めるようになると4合目。ここが最後の水場という表示があり、小さな小屋が立っている。避難小屋かと思って開けてみると、中には石仏等が祀られ灯明台や供物や千羽 鶴が所せましと収められていた。
『ここから鎖場の連続』の案内板がある。4合目小屋のすぐ上が生金コースと屏風道コースの分岐になっていた。
屏風道コースを取ると早速鎖場が現れる。ここは鎖に頼る程のこともなく登って行く。やがて鎖場は頻繁となり、勾配も垂直を思わせるような厳しさとなって来た。急傾斜をひと登りして見下ろすと、その急峻さ加減は驚くばかりである。それでも鎖に頼らなければならないところは案外少ない。

眺望のよくなって来た5合目は、風もなく穏やかな秋日和に気分も爽快、1分間のた立ち休み。
さらに6合目は形のよい一本松が生える岩稜で、ひと休みしながら展望を楽しむ。阿寺山の背後に越後沢山が見えてきた。眼下には魚沼平野の稲穂が黄金色に広がっている。
緩むことなく急登はつづく。薬師岳の岩峰に紅葉が照り映えている。背後には巻機山が競り上がって来た。七合目、のぞきの松。はるか上に見えていた薬師岳の岩峰が目の高さに並んで来た。青錮製の神像など、いかにも信仰の山の雰囲気が色濃くなっ てきた。東側は屏風沢に鋭く切れ落ち、足のすくむような断崖絶壁、思 わず身震いが出る。左へややトラパース気味に進み、再び鎖場の急登をいくつか越えて行くと、ようやく岩登りが終わって、草つきに変わった。
避雷針の先端部が見えるのが千本桧小屋、もうひと踏ん張りの距離だ。
一挙に潅木の紅葉帯に出た。露に濡れて熊笹を分け登ると千本桧小屋の裏手にたどりついた。思わず目をこらすような展望が待っていた。目の前に堂々たる巨体を横たえる越後駒ヶ岳と中の岳、遠くは妙高山、浅草岳、守門岳・・・・ 展望図を取り出して山座同定を始めたものの、楽しみは主峰大日岳へ預けることにする。

 
 八海山大日ケ岳
稜線岩峰の基部あたりは、カエデの黄色が鮮やかに広がる。目前の薬師岳、八峰の岩塔、これも目に痛いような紅葉、 黄葉に陶然として見とれる。
しばしの休憩のあと、いよいよ八峰の縦走にかかった。鎖に頼って恐竜の背を渡るようにして、一つづつ岩塔を越えて行く。紅葉の錦に目を 奪われっぱなしで、思わずカメラのシャッターに手がいってしまう。
大日岳は主峰の貫禄で、架けられた鎖を攀じる岩壁は、私には険しい試練の登りだった。
山頂には奥社の小さい祠がある。ロー ソクの灯明跡を見ても、いかに信者の参詣 が多いかがわかる。
山岳展望さえ忘れたように、余りに美しい紅葉にただ見とれるのみ。見ごとに描かれたこの自然の大キャンバスを、一体どのように表現すればいいかわからない。皚々たる岩肌を満艦に染め分ける黄、赤、緑、薄紅、深紅、橙・・. 秋の陽を受けて輝く色の洪水だった。
山岳展望もまた満足のいくものだった。20万分の1図を広げる。 手の届きそうなところに魚沼三山の越後駒、中の岳、がどっ しりと稜線つづきに鎮座。その二山の真ん中に荒沢岳の尖峰が頭を出している。北には浅草岳・鬼ケ面山・守門岳と並んで、その奥にあるのは神楽峰らしい。西には妙高、白馬岳方面そして広々とした魚沼の平野も眼下にある。南に巻機山や苗場山。東には平ケ岳、会津駒ヶ岳、尾瀬の山と連なり、その先にも重畳と波打ってつづくが、山名はわからない。

八海山最高峰の入道岳へ足 を延ばす。大日岳から20分弱で入道岳だった。この眺望はさらに優れていた。うっとりとして、しばしの時を過ごしてから大日岳まで戻った。登山者が次々と登って来る。みんなゴンドラで登って来た人達だった。
大日岳から千本桧小屋方向の鞍分へ降りて、新開道コースへの下りに 入った。最初だけは鎖の厳しいところがあるが、少し下ると普通の登山道になった。岩峰の基部まで降りて振り仰ぐと、八峰の岩の背が錦に飾られた絵を見ているようだった。
7合目、カッパ倉の小ピークに立って振り向くと、いつ湧き上がってきたのかガスがかかり始めていた。あとはただひたすら2合目の登山口を目指して下りつづけた。

山口集落からの八海山は、山頂付近がすっかり雲の中に没していた。五十沢温泉で汗を流し帰途についた。