追想の山々1193  up-date 2001.11.25


大千軒岳(1072m) 登頂日1995.08.06 単独行
奥二股登山口(7.00)−−−広い河原(7.35)−−−金山番所(8.05)−−−休み台(8.35)−−−お花畑(9.05)−−−大千軒岳(9.30-40)−−−休み台(10.15)−−−金山番所(10.40)−−−広い河原(11.10)−−−登山口(11.45)===函館市内泊
所要時間 4時間45分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
大千軒岳・駒ケ岳・狩場山・ニセコアンヌプリ・余市岳・富良野岳・夕張岳・札幌岳
5回目の北海道山旅(道内9泊)=58才
風・霧の大千軒岳


深夜1時、東京を出発。青森まで800キロを超える長距離ドラ イブ。青森港着9時35分、途中ごく短い休憩を2〜3回だけで運転し通した疲れもなし。午後2時発のフェリーで函館港へ。この日は函館市内のビジネスホテルに旅装を解き、これからはじまる北海道山旅の前夜祭気分で、妻と二人郷土料理屋へ足を運び、イカソーメンなどを肴に杯を傾けた。

一夜明けて第一山目は渡島半島南部の大千軒岳登頂である。
津軽海峡に面した渡島半島海岸線のドライブウェイは、早朝のため自動車も少なく、高速道並のスピードが出る。見落とすことなどあり得ない立派な道標が、大千軒岳登山口への林道を指し示していた。
水たまりの残る林道を15分前後走ると終点で、広い駐車場があり、ここから歩くことになる。掘っ立て小屋風のトイレもある。妻は東京を発つ前から体調不良で、この大千軒岳は登らずに待っことにした。

7時ちょうど、軽荷で登頂開始。雨が心配、何とか持ってくれるといいが。揺れる吊橋を渡ると登山道となる。知内川渓流右岸沿いを行く。まもなく渓流を大きく高巻く登りとなる。渓流の瀬音が爽やかに聞こえて来る。小沢をいくつか渡ったりして、やがて下りに変わった道をぐんぐん進むと、突然頭上が抜けたような広々とした河原に出た。広い平坦で幕営もできるらしいが、ごろごろと石の転がる河原は、快適な幕営は望めそうもない。
つり橋から登山道へ入る
明るい河原を遡上していくと、すぐに鉄製の橋で知内川の左岸へ移り、勾配のゆるい川沿いの樹林を行くと、流れが左へ90度近く屈曲。この屈曲点手前で、飛び石伝いに1度右岸へ渡る。そしてすぐに今度は左岸へ飛び石で徒渉。この2回の徒渉個所は注意しないとわかりにく く、増水していると靴を脱がなくてはならないだろう。

相変わらず緩い勾配を淡々と進むが、支沢を渡ったところで急に方向を変えたりしている所があるので、気をつけないといけない。樹林が切れて、岩の上に白い十字架の立つ金山番所跡へ到着。ここまで1時間5分、コースタイムの半分という早さ。十字架にはまだ新しい花束が供えられていた。幕府の弾圧から逃れた末、この地で処刑された多数のキリシタンをしのび、毎年7月末にここでミサが行われているという。
番所跡からなおも知内川の左岸を遡上して行くと、灯明沢という沢を渡る。やがて鉄砲水にでも押し出されたような大石がひしめく広い河原に出た。ここで直上して行く沢が切戸沢、大千軒岳へは右手の沢をわずか入っ たところで尾根への登りに取りつく。ここも注意しないと見落として、切戸沢を直上してしまうおそれがある。大石にペンキ印を見つけて迷わずコースを拾うことができた。むずかしいコースではないものの、コー ス途中にほとんど道標らしいものはない。

金山番所跡
尾根へ取りつくと、ようやく本格的な登りとなった。千軒平まで標高差450メートルの急登はなかなか厳しい。手づかずのブナ原生林の登山道は、道型もはっきりとした一本道で、迷うことはない。一歩一歩登って、一度だけ登りが緩んだところに「休み 台」の表示があった。
ダケカンバが混生し、ミヤマハンノキなどの潅木植生となり、高山的な様子を見せてきた。肌寒い強風が吹きつける。雨はまだこらえているようだ。
緩んで来た勾配が笹の道となると、広い草原にはじめて道標を見た。左は中千軒、前千軒へのコースが指し示されている。中千軒方面へのコースを見送って、そのままほんの一足登ったところがピークとなっていて、大きな十字架が立っていた。風の寒さにあわてて雨具を着ける。濃霧が去来して眺望はゼロ。このピークには『大千軒岳』の表示がない。頭に入れてきた概念図が混乱して、ここが大千軒岳の頂上なのかどうかわからなくなってしまった。ここから北方へつづく稜線には明瞭なルートがのびている。もしここが大千軒岳の頂上でなかったら後で後悔することになってしまう。北へ延びたそのルートをもう少し先へ行ってみることにした。

風が強く夏とも思えぬ寒さは、標高1000メートルそこそこの稜線とは思えない。様相は一変して、お花畑の草原に取って変わった。タチギポシの薄紫、ハイオトギリソウの黄色、淡いピンクのナガバキク アザミ、トウゲブキの濃い黄色などが草原を彩っている。青空の下だったらどんなにか気分のいい稜線だろう。“この先にほんとうの大千軒岳山頂があるのだろうか”そんな訝りを感じつつ、もうひと足、もうひと足と進んで、最後に笹の道を急登すると、そこに目指す大千軒岳の標柱が立っていた。日本海や津軽海峡、さらには岩木山や八甲田山までが一望されるはずの山頂も、今日は流れる霧をうらめしく思うのみ。それでも交通不便、僻地の山岳を踏んだ満足感に浸りながら下山にかかった。

途中、露岩(ガンバレ岩)急坂の下りで小さなアクシデント。二段式のストックを強く突いたとたん、ストックがスライドして引っ込み、バ ランスを失って頭から滑落。2〜3メートル程のものだったが、一瞬何が起きたかわからず、《早く停止しなくては》 《どこまで落ちるのか》 《これでおしまいか》・・‥しかし頭やほうぼうぼうを強く打ったが、手と頭を擦りむいた程度で骨折もなかった。しばらくぼうっとしていたが、無事を確認すると胸をなでおろした。

松前城まで足をのばしたあと、再び函館まで引き返した。
この夜は奮発、湯の川温泉の観光旅緒に投宿した。