追想の山々1230  up-date 2001.12.19


山 伏(2014m)〜大谷嶺(2000m) 登頂日1992.06.20 単独行
自宅(3.10)===静岡IC===別荘地分岐(6.30)−−−登山口(7.00)−−−大岩(7.30)−−−蓬峠(8.05)−−−山伏(9.10-25)−−−新窪乗越(10.10)−−−大谷嶺(10.35-45)−−−新窪乗越(11.05)−−−扇の要(11.35)−−−別荘分岐(12.25)===帰宅
所要時間 5時間55分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
安倍川流域の300名山=55
山伏山頂


梅雨の合間、安倍川上流の山伏へ出かけた。梅雨どきのことだから、勿論絶好の登山日和は期待できないが、今日1日降らないでいてくれることを願う。
梅ケ島温泉手前の新田バス停で左折、集落先の茶畑の中の細い道を奥へ向かって自動車を走らせると、道が二又に分岐する。右は『大谷崩れ』 左は『山伏登山道』の標識があって、そのあたりはちょっとした別荘地 になっていた。自宅からここまで3時間余、奥多摩あたりの山へ出かけるのと大差ない時間だった。

空き地に駐車して早速出発した。
左の山伏への工事用林道をたどる。林道と並行する西日影沢は、昨秋の台風により押し出されたと見られる流石が累々と堆積、新たに道をつけなおした所もあった。マイカーが脇を追い越して行く。また1台。『乗 りませんか』と声をかけられたが登山口まで、もういくらもないことが分かっていたので、礼を言って辞退。それから5分程で林道ゲート手前に山伏への登山口があった。マイカーが4〜5台駐車していた。
支沢沿いを右手にとりつく。よく踏まれた歩きいい道である。作業用の簡易ケーブルが登山道沿いに伸びていた。何もない植林の中に解せないケーブルだったが、そのわけはすぐにわかった。沢の清流にワサビ田が現れた。石垣を積んだずいぶん手間のかかりそうなわさび田だ。信州穂高の平地栽培とは全く異なっていた。

沢を左岸、右岸とわたり返して、ほどなく『大岩』に着く。名前の通り大きな岩があり、ワサビ小屋が建っていた。その先に水場の表示がある。ここまでは沢沿いだから、ことさら水の心配はないが、ここが最後の水場と言う意味かもしれない。
水場の先でもう一度沢を横切ると、ようやく山腹をからむようになって、尾根らしい感じになってきた。それでも尾根通しには行かずに、尾根を向こう側に越えて、さらに登って行くと、ようやく本物の尾根に立った。『蓬峠』と板切れにかいてある。ここがガイドブック の稜線らしい。

いつか植林は途切れて、雑木の自然林に変っていた。気持ちいい樹相の尾根をひたすら汗を流す。急登が終わり、山頂の近づいたことを感じる。市営避難小屋への分岐表示があり、山伏まで20分とある。深い樹相が途切れて、目前が明るく開けると、そこはもう山頂の一角で笹原が広がり、立ち枯れたトウヒが白い肌を晒し、それが点景としてアクセントになっている。ナナカマドの新芽が柔らかい。
笹原の中の道を進むと山頂だった。笹に囲まれた広い山頂には、立派な山名標示板が二つも立っていた。損傷のないきれいな二等三角点に手を触れて確認する。だれもいない静かな山頂だった。
天気がよければ南アルプスや笊ケ岳、大無間山など、なじみの山々を含む大展望が楽しめる筈だが、今日は雲の中で展望はゼロ。それで も日本三百名山の一峰を踏んだ喜びはある。

大谷嶺山頂
山頂からは二本の道があった。いずれもよく踏まれた道だ。眺望がき かない上、道標もないので新窪乗越への道がどっちか、 ちょっと迷う。三角点の刻字は真南を向いているので、それで方角をつかみ、地図で見当をつけて東北への道をとった。下り始めると新窪乗越への標示もあって、道を間違えていないことを 知る。2回ほど凸部を越えてから下った鞍部が新窪乗越だった。真っすぐ稜線を行けば大谷嶺から八紘嶺へ、南側急峻のがれを下って行くと、今朝出発した、別荘のある分岐点である。
時間はまだ10時を少し回ったばかりで早いので、大谷嶺を往復して 来ることにした。1時間あれば往復できそうだ。
大谷崩れの縁を急登して行くので注意が必要だ。大谷崩れは我が国三大崩れの一つというが、あとの二つは知らない。一つは富士山の大沢崩れだろう。あぶっなかしいガレの縁は最初だけで、あとは原生林の中をトラパー ス気味に急登して行く。ツバメオモト、マイズルソウの白い花がひっそりと咲いている。その中にイワウチワをみつけた。 2〜30株、濃いピンクが印象的である。
二つのコブを越え、30分程で大谷嶺に到着した。八紘嶺から来たという登山者が一人休憩中だった。大谷嶺の標高はちょうど2000メートル、山伏より13メートル低いだけだ。足下に深々と崩壊、切れ落ちた崖は目がくらみそうだ。わずかに薄くなった雲の合間から、南西に見える青いひと塊りの山並みは、寸又峡の朝日岳、大無間山などの山々だろうか。

予定した山伏のほかに、もう一つ大谷嶺を稼いだことに満足して新窪乗越まで戻り、 崩壊壁の中につけられたじくざぐのざれ道を駈けけ下った。
扇の要を過ぎて別荘地までは車道歩きとなる。ぽつぽつ雨が落ちて来 た。雷鳴が聞こえる。強い降りにならないうちにと雨具を着る。真上で叩きつけるような雷鳴、雨脚が激しくなって、そのうち天が割れたような降りとなった。