追想の山々1239  up-date 2001.12.26

大滝根山(1192m) 登頂日1992.02.26 単独行
東京大森駅(4.27)〓〓〓上野・郡山・神俣駅(9.54)−−−あぶくま洞(10.35)−−−登山口(11.00)−−−大滝根山(12.20-25)−−−あぶくま洞(13.35-55)−−−神俣駅(14.30-57)〓〓〓郡山・黒磯・上野駅(20.47)
所要時間 4時間30分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
青春18切符でのんびり山行=55
中腹から安達太良山をスケッチ


全国のJR全線、一日中乗っても2500円という青春18キップを利用しての格安の山旅。新幹線や特急なんかと違ってあまり退屈を感じない。それというのも、特急だと上野駅を発てば途中から乗車してくる客ははとんどなく、停車駅で客を降ろして行くばかりだが、鈍行は近距離利用者が多いので、駅ごとに乗り降りする客があって、顔ぶれが変わり、方言でのさまざまな日常会話が耳に入って来て、それが結構楽しいのである。
また各駅のホームには、その駅を基点にする名所案内板があって、史跡やハイキング案内などがあって『そうか、この駅から××山へ行けるのか』なんて新発見でもした気分になれる。窓を過ぎる田舎の風景を眺めているのも、特急列車にはない味わいである。

郡山駅で乗り換えのためホームに出ると、風花が舞っていた。磐越東線に乗り換える。二両編成のワンマンカーだ。郷土玩具なじみの『三春駒』の三春駅。春は梅・桃・桜がいっペんに咲くから『三春』というのだそうだ。寒々とした風景からは、まだ春の息吹は感じら れないが、素朴な村落のたたずまいの中から『相馬盆唄』でも聞こえて来そな暖かい雰囲気は感じ取れる。
10時前神俣駅下車、無人駅だが、この時間事務のためか職員が一人だけいた。職員に道を尋ねて出発する。自宅を出てから6時間だ。
北風がぴゅうぴゅうと吹き付ける。思わず首をすくめてしまう。
冬枯れの山の中腹に建物が一つ遠望できるのが『あぶくま洞』で、 目指す大滝根山はその背後になる。駅前から自動車道を菅谷方面へ引き返すように、線路伝いに3〜4分行くと、右にカーブして線路を渡る。線路から100メートル弱、滝根中学の手前、Tの字を左折(『あぶくま洞』の案内板あり)、Tの字から6〜7分で再びTの字で突き当たったら、今度は右折する。このあとはあぶくま洞目がけて一本道である。
自動車道をだらだ らと登ってあぶくま洞に着く。あぶくま洞のすぐ先で舗装道路が一本左へ分かれている。直進する自動車道では遠回りになるので、傾斜のついた左の道へ入る。数十メート ルで自動車は行き止まりとなり、ここから雑木の山道になる。少し雪の残った急登をひとしきり登ると、また先程の自動車道に出る。自動車道 を100メートル余で道は二分する。左仙台平への道を見送って、右鬼五郎渓谷とある方の道へ入る。仙台平方面が主道らしく雪はないが、鬼五郎方面は雪道だった。自動車の轍がコチコチに凍りついて、やや下り加減の路面はビブラム底がつるつると滑る。
数分行くと、樹幹に大滝根山と書かれた木札が目に着く。うっかりす ると見落とすような小さな木札だ。ここが登山口だった。

登山口から唐松林に一歩入ると、かなりの積雪量だ。つぼ足の跡と、ワカンの跡が残っており、これに歩幅を合わせて歩く。この雪ではどこまで行けるのかちょっと心配だ。道はほとんど平坦に近い。小さな水流を二つ渡る。三つ目の流れの手前でトレールは左へ直角に折れて、ようやく登りとなった。雪がまばらになって、分厚い落ち葉のクッションが気持ちいい。ひと登りすると尾根に出た。尾根は深い雪に覆われていた。
坪足のトレールに合わせて進む。雑木の尾根道は傾斜も緩く、無雪期ならば楽々だろう。しかし足跡に合わせて歩くのは疲れる。足跡を外すと簡単に膝まで埋まってしまう。風が吹くたび地吹雪きが顔を打つ。突然足跡が消えてしまった。無垢の雪を踏んで進む。すぽっすぽっと足が膝まで沈む。また足跡が現れて来た。消えたり現れたりする足跡を追うと、小さな広場が雑木の中にあった。
いよいよ急登の始まりだった。急登の取付きは雪が少なかったが、やがて本格的な積雪となり、足跡を外すと、太腿の上まで雪に没してしまうこともある。本格的な雪山の様相となってきた。標高1200メートルに満たない低山ながら、阿武隈山地はやはり東北の山だった。阿武隈山地最高峰とはいえ、冬季訪れる登山者 も少なく、そこそこに厳しい条件にあった。

足跡はほとんど消えてしまっている。強い北風が吹き抜け、梢をごう ごうと鳴らす。雪を舞い上げる。鎖場を通過。 キックステップを使う箇所もある。『無理をせずにいつでも撤退を』 と自分に言い聞かせて、状況判断を誤らないようにしながら登った。
勾配が緩くなって、切り開きの好展望地に出た。しかし頂上はまだ先のようだ。
なだらかな雑木の中、新雪のような奇麗な雪の上を、太腿まで埋まりながら、一歩一歩前進、しかし金網に行き止まってしまった。ここは自衛隊のレーダー基地、中には大きな電波塔がいくつも立っている。本物の山頂は金網の中らしい。
先程の切り開きまで戻って展望を楽しむ。北の山々は雪雲に定かではない。

下山途中で安達太郎山とおばしき山をスケッチ。
3〜40分前に膝上まで潜って歩いた自分の足跡が消えてしまってい る。一瞬、道を誤ったかと疑ったが、風の仕業だった。強風が足跡を埋め戻してしまったのだ。帰りは自分の足跡をたどればいいなんていう甘い考えは役に立たないことを教わった。
来た道を忠実にたどってあぶくま洞へ戻った。
雪道のため思いの外時間がかかり、予定の列車には間に合わないので、あぶくま洞の鍾乳洞を見学して行くことにした。

神俣駅は無人ながら、待ち合い室には石油ストーブが赤々と燃えていた。
阿武隈山地を見ると、あぶくま洞の背後に雪をまとった大滝根山が、少しだけ顔を覗かせていた。

神俣駅14時57分発の列車で郡山駅へ。郡山の街には雪が舞っていた。黒磯乗り換えで、上野駅に着いたのは20時48分だった。 それなりに味わいの残った汽車の山旅だった。