追想の山々1245  up-date 2001.12.28


国見岳(1739m) 登頂日1998.10.27 単独行
杉の木谷登山口(7.15)−−−支尾根乗越(7.57)−−−国見岳(8.30-35)−−−支尾根乗越(9.00)−−−杉の木谷登山口(9.25)===緑川ダム===二本杉峠へ
所要時間 2時間10分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
国見山岳山頂
市房山を登り終えてから、次の目標「国見岳」登山口へと向かった。砥用町「内大臣橋」がアプローチの目印。アーチ型のこの橋は、かつて東洋一を誇った時代があったという。
内大臣橋を渡ってからの道がちょっとわかりにくかった(末尾参照)。
酒屋でビールを買って、目指す林道を教えてもらった。登山口まで12キロの林道は長かった。かなり整備はされているものの、そこは未舗装の林道、揺れが激しく快適な山岳ドライブというわけにはいかない。

長いアプローチでたどり着いた登山口には立派な標識が立ち、登山届や簡単な救急箱が設置されていた。自動車数台分のスペースがあり、今日はこの登山口を寝場所に決めた。
明日は日本300名山298座目の国見岳登頂。残すは比叡山、金剛山、実質的にはこれが300名山完登の山とも言える。人っ子一人いない谷間は、日が暮れるとたちまち夜の帳に包まれて行った。今日までの長かった道程を反芻しながら寝ることとしよう。夜半、近くで鹿の悲しげな鳴き声がずっとつづいていた。ふと百人一首を思い浮かべた。
   『奥山に もみじふみわけ鳴く鹿の 声聞くときぞ秋はかなしき』

朝、空は今にも降り出しそう、吹く風も雨を誘っている。急いだ方がいい。洗腸を済ませてから自動車を杉の木谷コース入口近くまで移動。雨に備えてゴム長靴で歩くこととする。途中降られても往復4時間半ほどのコースだから心配はない。
橋の手前が登山道入口になっている。すぐに植林の急斜面をじぐざぐに登るようになる。15分ほどでじぐざぐ登りが終わって、水平道に変わった。この水平道が数百メートルもつづく。雑草や潅木が蔓延ったりしているが、道幅は広く昔使っていた木材搬出の車道跡ではないかと想像される。

300名山の実質最後の山は、じっくりと味わいながら歩く積もりでいたのだが、いつ降り出すかわからない天気に追われるようにして、ついつい足は速まってしまう。
水平道が終わるとふたたび道標に導かれて、山道の登りへと取りつく。勾配は比較的緩やかで、足の動きも軽快そのものどんどん距離を伸ばして行く。
歩き出しの杉植林のじぐざぐを終わってからは、ブナなどの広葉樹を主体とした自然林が生い茂り、たいへん気持ちの良いコースだ。天気さえよかったら味わいながらゆっくりと歩きたいところだ。ひと登りすると一つ支尾根を乗越す。このあたりから林床に低潅木も笹もないからっとした雰囲気に変って、ますます気持ちがいい。黄葉もかなり進んでいる。

雨の気配を気にしながらペースを落さずに足を急かせて行く。高度が上がってくると落葉が進み、落ち葉が地面を埋め尽くして、うっかりすると登山道を外してしまいそうになる。鹿の警戒を知らせる高い鳴き声が、樹間を細く通り過ぎて行った。
足元の落ち葉の軽い音に秋を感じながら登ってゆくと、笹の茂る道になった。ずっと快適な道だったのに、ここだけ笹が少しうるさい。でもそれはちょっとの間で、笹を抜け出ると広々とした空間に出る。ブナなど、黄葉した大木がゆったりとした間隔で高々と枝を張り、明るく爽快なスペースは、まるで別天地の趣があった。誰にも邪魔されない自分だけの世界。しばらく足を止めてこの雰囲気に浸った。ことさら秋の山は静かなのがいい。「ものを思い人恋しい秋」ことさらにそんな気持ちを強くするこの場所が大いに気に入った。

高度が上がってくると、樹間に霧が煙のように漂い出した。だんだんと濃くなってくる。山頂は雨かもしれない。このあともうひと頑張りすると傾斜はゆるやかになり、やがて広河原からのコースに合流した。山頂はもう目と鼻の先だった。岩のごつごつした急坂を登り切ると国見岳山頂で、石台の上に祠がまつられていた。
コースタイム2時間半のところ、たった1時間15分で登ってしまった。それにしても少し急ぎすぎたかもしれない。ここは300名山であると同時に、一等三角点の百名山、熊本県の最高峰でもある。
すっかりガスに巻かれた山頂は、20メートル先の視界もない。吹き抜ける風が汗で濡れた体から体温を奪ってゆく。期待の大展望は望むべくもない。雨粒が落ちてきた。298座目の喜びにふける間もなく、記念写真だけ撮って早々に下山の途についた。

雨を気にして下りも駆けるように足を速めた。
無事298座目を登頂できて、実質300名山完登と思っていたが、特別の感慨は湧いてこない。やはり300座を登頂しなければその気分にはなれないようだ。登山口まで下ってみると、空の一角には青空ものぞいていた。

取りあえず砥用町まで下り、緑川ダムで休憩しなしがら、このあとの日程を検討する。五木村へ通じる二本杉峠から簡単に往復できる”雁俣山”という山がある。明日は休養日として、往復2時間もかからないその山へ登ることにした。
二本杉峠への道は国道とは言え、ヘアピンカーブの連続する細い道で、まるで林道を駆け上っているような気がする。秘境五箇荘へ通じる道路である。峠付近の展望所を4日目の寝場所にした。夜半から雨が降り出した。

≪国見岳へのアプローチ≫
内大臣橋を渡ると道は二手に分かれるが、左手の舗装道路の方を行く。すぐに二又となり左方向に「平安?温泉」という案内があるが、ここは右の道を取る。またすぐに二又に別れるが、右は舗装された道で「目丸山」方面、左が未舗装の国見岳登山口への林道となる。砂利道の林道であるが、道は比較的しっかりしているが、凸凹も多くてスピードは出せない。途中二又に別れるところがあるが、左手を取って行けばいい。昔は木材の産出で、この谷の奥に大きな集落が出来、バスも通い学校まであったというが、今はそんな面影はまったく見当たらない。
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