追想の山々1249  up-date 2001.12.30


茅ケ岳(1704m)〜金ケ岳(1764m) 登頂日1993.11.23 妻同行
東京(4.00)===柳平集落先の登山口(6.15)−−−林道終点(6.45)−−−女岩(7.00-05)−−−稜線(7.35-40)−−−茅ケ岳(7.55-8.05)−−−金ケ岳(8.55-.9.20)−−−茅ケ岳(9.55-10.05)−−−女岩(10.35)−−−登山口(11.10)===東京自宅へ
所要時間 4時間55分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
深田久弥終焉の山・300名山=56
双峰の茅ケ岳と遠く八ヶ岳


登山口は韮崎ICを出て柳平集落の先、標高1000 メートルにある。枯草に霜を置く寒さに冬の訪れを実感する。

明るくなるのを待って出発した。
緩い勾配のつづく林道を妻のペースに合わせてのんびり歩くと、落葉した林の中からときおり野鳥の囀りが、透明な音色で冷たい大気を震わせる。吹きだまった落ち葉が登山靴の下で軽い囁きを交わす。梢の先、夜の明け切った空にコバルトブルーが底無しに深い。

30分ほどで林道は終点となった。そこからは登山道となって、細い径が潅木の間に延びて、つま先上がりに15分の歩きで女岩の水場に到着した。降雪直後だった前回は、銀世界の中、岩肌にびっ しりと氷柱が凍りつき、それが陽光に眩しく輝いていたのを思い出した。
楢や轢の明るい林の中を踏み跡が幾筋もできて、訪れる登山者の多さを感じる。日本百名山の著者深田久弥終焉の山として、また東京から比較的近く、かつ登りやすい好展望の山として、ひと きわ高い人気を得ているためだ。
急になった登山道を30分頑張って稜線に登り着いた。そこは茅ケ岳と大明神ケ岳とのコルである。コルから少し大明神ケ岳に寄った所は、露岩の展望台になっていた。とりわけ奥秩父の展望がいい。瑞牆山、金峰山、国師岳等メインの山影の奥には、小川山の気取らぬ姿もあった。いっとき展望を楽しんでから、茅ケ岳の山頂を目指した。    

コルからのきつい登りにかかると、深田久弥が眠るように息を引き取ったという『終焉の地』である。それを記した木柱、そして花が供えられていた。
冬枯れた木立の隙間から、奥秩父の山並みを見ながらの急登を終われば茅ケ岳山頂だった。この前は処女雪、白無垢だった山頂も、今はただの冬枯れの風情を漂わせるのみだった。しかし展望は相変わらずの見事さであった。
甲斐の盆地を隔てて鳳凰三山が大きく聳立する。その後ろには例のごとく甲斐駒、仙丈、北岳、間ノ岳とつづく南アルプスの高峰群、すでに雪の衣をまとってその姿はひときわ凛々しい。

実は、今日の登山の主目的はこの先の金ケ岳であった。前回は積雪のため、茅ケ岳のピークを踏んだだけで引き返してしまった。茅ケ岳より標高で60メートル高い金ケ岳山頂は是非とも踏んでおきたい。残した宿題のように気にかけて来た山であった。
茅ケ岳から鞍部に向けて急降下して行く。道はしっかりしている。落葉した樹林の道は静けさが漂い、落ち葉を踏む音が林の中に吸い込まれて行く。冬木立の陽差しは弱々しい。汗ばんだ背中を追いかけるように して北風が吹き上げてくる。寒気に思わずぶるっと震える。
200メートルほどの高度を下り、鞍部から金ケ岳への登りにかかると、すぐに岩をくりぬいたような洞門をくぐる。潅木で蔽われてはいるが、金ケ岳は岩山であった。
岩っぼい尾根を攀じって行くと黒木に囲まれたピークに立った。ここが南峰で、観音峠から登って来る登山道が右手から合していた。樹林の中で展望はない。三角点の北峰はここからわずかに下ってから、もら一度 登り返すことになる。
露岩の好展望地を通り過ごしてすぐ、北峰山頂に達した。潅木に遮られて意外に展望には恵まれない。北の方角、木々の間から八ヶ岳が見えるだけだった。

山頂手前にあった露岩の好展望地まで戻って休むことにした。そこは南アルプス方面の展望がことさらに冴えていた。眼下、釜無川流域の村落が長閑に冬の陽を浴び、畑から立ちのばる紫煙が、ゆらぎもせずに真っすぐに空に昇って行く。落葉樹に覆われた茅ケ岳も、中央線方面から見る姿とは違って、全く平凡な取り立てる特徴もない、ごく普通の山でしかなかった。
スケッチをしたり食事をしたりして30分程を過ごして下山の途につ いた。
茅ケ岳まで戻るとすでに多くの登山者が思い思いに場所を占めて憩いの時をもっていた。

女岩には何十人という人達が休憩している。さらに下ると4〜50人という大集団に出会う。それをやり過ごすのに散々待たなければならなかっ た。それにしても、どうしてこんな大人数が一団となって登山をしなければならないのだろうか。多くは中年過ぎのおばさんたちだった。せめて10人程度の班に別れて行動すれば、これほど他の登山者の迷惑にな らなくて済むものをと思う。
茅ケ岳を正面に見る深田記念公園で『百の頂きに百の喜びあり』の碑 を見てから帰途についた。