追想の山々1282  up-date 2002.02.06

                                               
大峰 大日岳=宝冠岳(1540m)・釈迦ケ岳(1800m) 
登頂日1997.06.07 単独行
自宅===天川村経由===不動の大滝(6.20)−−−林道ゲート(6.45)−−−前鬼宿坊(7.10)−−−二つ石(7.55-.8.00)−−−太古の辻(8.35-40)−−−大日ケ岳−−−深仙の宿(9.10)−−−釈迦ケ岳(9.45-10.05)−−−大日ケ岳(10.50)−−−太古の辻(11.05-15)−−−二つ石−−−前鬼宿坊(12.10)−−−ゲート−−−不動の大滝(12.55)===上北山温泉入浴後帰宅
所要時間 6時間35分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
大峰山系の主峰・300名山=60歳
釈迦ケ岳山頂から八経ケ岳をのぞむ


標高1800メートルトいう高さは、西日本においては貴重な存在である。古くから修験の山として山上ケ岳、八経ケ岳などと峰を連ねる大峰山系主峰の一つである。1918メートルの八経ケ岳にはわずかに及ばないが、中級山岳と言える高さは、本日の登山を楽しいものにしてくれるだろうという期待を抱く。

日帰りコースの登山口としては最も一般的で、かつ歩きがいもあると思われる下北山村前鬼からの往復とした。それにしても登山口までは遠かった。同じ奈良県内にもかかわらず、自宅から3時間を要した。
前鬼宿坊手前のゲートまで自動車で入り、そこを基点に往復すれば、所要9時間のコース。標高差も1000メートル余で手ごろな登山というプランだった。
天川村川合からの国道309号線で上北山村へ抜けたのであるが、地図の上では立派な国道で、何ら懸念ないものと思っていた。川合からその国道へ入ると、まるで村道か間道のような細い道で始まった。えっ、大丈夫?という感じだ。林道より狭く、その上カーブだらけの国道(いや山道?)を疾駆。曲がりくねった山間の峠を越えて、上北山村へ抜けるまで予定外に時間を食ってしまった。

下北山村へ入り、前鬼橋を渡ったところで右手の林道へ入る。
早朝のしっとりとした気持ちいい山の気が、窓から吹き込んでくる。途中工事中のため通行止めの表示が出ていたが、不動の大滝までは入れるという。こうした場合でも得てして通れることも多いので、それを期待して自動車を進めた。
不動の滝の先で通行止めになっていた。その先も通れそうだが、工事が始まって帰れなくなってしまうこともありうる。不動の滝展望台付近に駐車スペースを探して車を止めた。前鬼手前まで自動車で入る予定と比べて、往復2時間ほど余計にかかることになりそうだ。
時間が足りなくなったら途中で引き返してもいいと思って出発した。谷の対岸に見える不動の大滝はスケールの大きな滝だ。水煙を上げて滝壷に落下する様は迫力がある。工事中のトンネルを抜け、舗装された林道がやがて未舗装に変る。大きなカーブを曲がったところで、前方に高度感のある山の頂が覗き見られた。あれは多分釈迦ケ岳か、あるいはその手前の大日岳であろうと思われた。

自動車進入禁止の鎖ゲートに突き当たる。ここには広い駐車スペースもあり、通常だとここから歩きはじめることになる。1時間と読んでいたここまでの所要時間は25分で済んだ。これなら問題なく山頂を往復できる。ほっとした気分で足も軽くなった。
ゲートから登り勾配の林道を25分で前鬼宿坊に到着。清潔な広い宿坊がある。宿泊3000円と書いてある。もちろん素泊まりだろう。
宿坊の横から山道となるが、最初は階段状に整備されて、勾配もいしたことはなく歩きやすい。参道風に巨杉が並んでいる。この一帯は霊山として保護されているためか、人工的な植林がされていないのがいい。木々が茂り苔むした薄暗い樹林の中だが気持ちがくつろぐ。
沢を渡ったりしながら、沢を離れることなく登ってゆく。傾斜がだんだんきつくなってきた。汗が流れて来る。野鳥のさえずりが豊かな自然林の雰囲気を満喫しながら、急登につぐ急登をあえいで行く。朽ちかけて役に立たないような木梯子がいくつもあらわれる。赤肌のヒメシャラが目立つ。
突然目の前に巨岩が現れて道は平坦となった。平坦道を50メートルも行くと、塔のような巨岩があり、最初のポイントの二つ石と言われるところだった。前鬼から45分で来たが、ペースがちょっと早すぎるような気もする。
前を行くアベックを追い越す。傾斜もいくぶん楽になった気がする。がれ沢を渡ったりしながら高度を上げてゆくと、やがて明るい疎林の斜面を登るようになり、空が明るく抜けて稜線へ飛び出した。そこが第二ポイントの太古の辻で広場になっている。右へ行くのが奥駆道で釈迦ケ岳方面、左は南奥駆道で行仙岳方面を道標が示している。道標だけでも5つ6つも立っている。
腰を下ろして休むと、目の前に緑に覆われた大日岳があった。道標にここの標高が1500メートルと表示されている。前鬼からここまで所要1時間25分、案内書は2時間50分だからずいぶん早かった。それほど急いだつもりはなかったが。

太古の辻からコースは直角に折れて真北へ進むようになる。「大日岳」の小さな表示を見て、登山道を外れて細径を登ってゆくと、大日岳ピークへの鎖場の下に出た。荷物を置いて鎖に取りつくが、上部1枚岩の巨岩はちょっと尻込みして考えてしまう。登りは何とかなっても、下りの不安が先だってすごすごと退却。岩場基部から釈迦ケ岳が大きく聳え立つのが目に出来る。その姿を写真に収めたときに、カメラケースを落としたのに気づかなかった。
大日岳の少し先で、緩く下った鞍部が「深仙の宿」。無人ながらちゃんとした宿泊小屋がある。周囲にはバイケイソウが群生している。広葉樹林の中の広々とした鞍部で、片隅には立派なお堂もある。のんびりしたくなるような空間だ。
さて、これからいよいよ釈迦ケ岳の頂上をめざす。残す標高差は300メートル。樹木は今までのような高木はなくなって、全般に明るい雰囲気に包まれるようになった。勝手につけられた幾筋かの踏み跡を拾いながら、一歩一歩山頂へと近づいてゆく。樹高はさらに低くなり、針葉樹や低潅木が目に付くようになると、中級山岳の気配がいっそう濃厚になって、懐かしさに似た感情が湧いてきた。「山へ来たなあ」という実感だ。やはり登山をする山には、ある程度の高さが必要だと、しみじみ感じる。北海道なら1000メートルの山で十分味わえるし、東北でも1500メートルもあれば中部山岳の2500メートルに相当する。近畿以西では2000メートル前後は必要だが、それを超える山がないというのは、何とも寂しいことだ。

最後の急登を汗を流しながら頑張ると、傾斜がなくなって山頂の一端へ登りついた。
一等三角点は山頂部の奥にあった。三角点は無残に欠け落ちている。等身大の大日如来像が台座の上に立っている。行者姿の修験者二人が、野菜などを供え、ほら貝を吹き、長い経文を唱えていた。十津川村旭の方から登って来た登山者がいた。釈迦ケ岳への最短コースらしい。
山頂からは奥駆道上に孔雀岳、仏生岳そして八経ケ岳とつづく大峰の山々が手にとるようだ。その奥には大普賢岳や山上ケ岳などと見られる山々も小さく望める。遠く大台ケ原山などの台高の連山、金剛、葛城、二上山などの金剛山地、名も知らぬ紀伊の山々。好天に恵まれて展望はすこぶる良好だった。

下山は同じ道をたどった。
カメラケースを落としたのに気づいて、もう一度大日岳へ立ち寄った。無事ケースを発見したついでに、再度鎖場から頂上へチャレンジ、今度は何の不安もなく、わけなく登ることが出来た。人一人がやっと立てるほどの狭い山頂で、木立の中に大日如来像が安置されていた。
帰りは深仙の宿と、太古の辻で小休止を取っただけで、前鬼の宿まで一息に下った。前鬼の宿からは、林道を歩かずに登山道の方を取ってみた。時間的にはほとんど変わらなかったようだ。吊橋を渡ったところで林道へ合流する。そこが林道のゲートだった。
案の定、トンネルでは工事が始まっていて、もし自動車で奥まで入っていたら、工事が終わる夕方まで通れなくなるところだった。
帰宅途中、上北山村営の温泉で汗を流す。帰路は川上村、吉野村の国道を選んでみたが、やはり道路整備は遅れていて時間がかかった。