追想の山々1294 up-date 2002.02.28


蓬莱山(1174m) 登頂日1998.06..18 単独行
坂下町坂下バス停(9.30)−−−休憩(10.20-30)−−−小女郎ケ池(11.25-30)−−−蓬莱山(11.50-13.00)−−−小女郎ケ池(13.25)−−−サカ谷渡渉(14.45)−−−坂下バス停(14.50)===比良リフト乗場方面へ
所要時間 5時間20分 1日目 ***** 2日目 **** 3日目 ****
愛車テラノとのお別れ山行、武奈ケ岳につづいて1日2山目の登頂=61
小女郎ケ池と蓬莱山


武奈ケ岳を下山して、ただちに蓬莱山登山口の「坂下」の集落へ向かう。国道が新しく付け替えられていて、旧道の方に坂下集落はあった。
ガイドマップでは、登山口は桂昌寺のそばからとなっているが、居合わせた村人に尋ねると、「それでもいいが今はその道はほとんど使われていない」と言って新しい取付き口を教えてくれた。
1車線の狭い旧道が、2車線に広がったところに小さな神社があり、その前の路肩に駐車できた。
安曇川にかかる桂昌寺への橋(狭くて自動車は通れない)入口より、国道を200メートル川沿いにさかのぼったところが、自動車を止めた神社前。この斜め前から川に向かって枝道が分かれている。教えられたとおり枝道へ入って200メートル程行き、橋の手前で左手に見える丸太の階段を上がる。ここに登山口の道標が立っていた。
堰堤が5つつづいている。この沢を「サカ谷」と言い、地図にはこのコースを「サカ谷道」と記されている。アプローチの利便性もあって、大半の登山者は琵琶湖側、つまり東側から登り、この西側からのコース利用は少ないようだ。それに、武奈ケ岳にしても蓬莱山にしても、ロープウエイ、リフトなどが琵琶湖側にあって、「サカ谷道」などという不便なコースを選ぶ人は、きっと数が知れていると思う。

5つの堰堤を越えたところで、サカ谷の流れを渡る。杉の植林帯へ入って胸を突く急登にかかる。武奈ケ岳から下山してからまだ30分。はなからの急登はこたえる。ペースを落としてゆっくりと登って行く。今日一日で目的の2山を登ってしまっても、今日中に帰宅することは考えていない。主目的がテラノへ寝ることが主目的であるから・・・。したがってあまり早く登ってしまうと、寝るまで時間をつぶすのに苦労する。そんなことも計算して、おおいにのんびり歩くことにした。
それにしても今日は蒸し暑い。またもや汗が滝のよう。気をつけないと水分不足、脱水症状を起こしかねない。
急登が一段落した杉林の中で、左から薄い踏み跡が合流していた。これが桂昌寺からのコースと思われる。一旦植林帯を抜け出して、若葉のすがすがしい落葉樹林帯に変わった。気持ちだけでも暑苦しい杉林から開放されてほっとする。歩きはじめて約40分、ふたたび杉の植林へ入ったところで休憩にする。腰をおろして10分間。足が疲れているということもあるが、こんな休憩の取り方をするのは自分としては珍しい。

杉植林のジグザグの急登を何回も折り返しながら一歩一歩登る。相変わらず激しい汗。しかし植林帯は長くはつづかず、やがて落葉樹林帯に変わった。とたんに小鳥の囀りが頭上から降りそそぐ。傾斜も緩くなってひと息つく。しばらくトラバース気味の水平道を行くが、ふたたび登り勾配に変わる。しかし最初のような急な登りではない。そのかわり登山道は潅木の枝がかぶさっている所があって、手で払いながら歩かなくてはならない。
薮は次第にうるさくなってきた。潅木の枝の張り出しに加えて、熊笹も目立つようになった。 潅木の枝の下をくぐったり、背丈を越える笹を両手でかき分け、あるいはトンネル状の笹を腰をかがめて通り抜けたり、これはけっこう疲れる。それでもこの程度の薮なら、あの死んだような杉の植林帯の中を歩くよりはよほどましだ。野鳥の囀りがあるだけでもいい。
背の高い樹木は消えて、低潅木ばかりになると明るい陽射しがいっぱいに降り注ぐ。空は抜けるように碧い。
低潅木の道がいくらか下って行くようになったかと思うと、突然目の前に小さな湿原が出現した。「小女郎ケ池」だ。標高1070メートルと表示されている。池の向こうに蓬莱山の山頂が手の届きそうな位置に見える。空の青さを吸い込んだ池は、大小二つに分かれている。手前の小さい方には蓮の小花が浮いていた。大きい池の方を見ると、池畔の潅木に白いものがまといついている。あれはモリアオガエルの卵だ。よく見るとあそこにも、向こうにも10ヶ所以上目についた。

山頂まではもう一息。池からは、今までとは打って変わった良い道を、5分ほど登ったところが小女郎峠で、登山道が十字に交差している。遊歩道のようによく整備された道をわずかに登ったあと、少し下ってから最後の登りとなる。琵琶湖がきれいに見下ろせる。ときおり吹き抜ける風が何とも言えず心地いい。 これまで一人も見かけなかった人影が、急にハイカーやリフトでの観光客で賑やかになった。
登りついた山頂は、そこがリフトの終点でもあった。このリフトはまさに山頂の三角点のすぐそこまで来ていた。一歩も歩かずに山頂へ達することのできる山である。一等三角点標石は無残に欠けている。リフトがあったり、変なケルン状の塔が立っていたりして、郊外のどこにでもある遊園地といった雰囲気だ。ここはスキー場でもある。山頂一帯はスキー場にはうってつけのゆったりとした斜面が広がっている。
北方には先ほど登った武奈ケ岳が、南には比叡山が見える。 しかし展望盤にある伊吹山や鈴鹿の山並みは霞の中に溶けてしまって見えない。山頂の草の上に体を横たえて休んだ。

夏を思わす強い陽射しの中だが、ここは標高1174メートルの山頂、さわやかな風が吹いている。まどろみながら1時間以上の休憩をしてから、山頂を後にした。

帰りもゆっくりペースで、途中2回の休憩を入れながら下って行ったが、それでもコースタイムよりかなり早い。最後のサカ谷の徒渉地点で、渓流の音を耳にしながら、ここでも時間調整を兼ねて休憩を取った。喉を潤したりしてから駐車場所へ帰って行く途中、親切に登山口を教えてくれたおじさんにまた行き会った。

このあと、今夜テラノと共にする場所を探して琵琶湖畔へ出た。
最初は蓬莱山ロープウエイの乗り場付近が、標高がある分だけ涼しいかと思い、行ってみたが、この道路は夜間閉鎖されてしまうようだ。しかたなく今度は比良リフト乗場方面へ行く。どうやらうまい駐車スペースを見つけて、テラノの車内最後の夜を過ごすことができた。
テラノの車内で寝たのは何十回、いや百回以上かもしれない。あるときは窓から満天の星を見続けたこともある。あるときは激しい風雨の音に寝られない夜を過ごしたこともあった。テントより多少窮屈だが、ここはまさに自分の城だった。別れを目前にして、懐かしさもひとしお、せめて三百名山完登まで一緒ならどんなによかったかと思わずにはいられない。
一夜を明かすと雨降りに変わっていた。テラノとの別れを惜しむ涙雨!!
思いは残るが一路、薄明の街を走り奈良自宅へと向かった。