山行報告2066

美濃 蕎麦粒山=そむぎやま(1296m)

岐阜県 2001.10.12 単独
コース 西俣出合(6.25)−−−林道跡終点(7.15-20)−−−徒渉(7.30)−−−稜線露岩のコブ(8.40)−−−蕎麦粒山(9.25-40)−−−コブ(10.00)−−−徒渉(11.00-05)−−−林道跡終点(11.15)−−−西俣出合(11.55)
秋色の里 美濃地方坂内村の3座(貝月山・蕎麦粒山・三周ケ岳)を行く
露岩のコブから蕎麦粒山を見る

≪その2≫・・・蕎麦粒山  

坂内村から「遊ランド坂内」への林道へ入る。遊ランドを通り過ぎてなおも走ると舗装が途切れて林道は終点となる。以前はこの先もダートの林道が延びていたのだが、大雨の被害で崩壊してしまい、今ではここが終点となっている。西俣谷の出合地点である。本谷の奥正面には蕎麦粒山が見上げように眺められる。  
熊に注意という看板が立っている脇に自動車を止めて一晩過ごした。  

青空も見えるが雲が多い。昨夜は小雨が降って、藪漕ぎの濡れを覚悟しなくてはならないだろう。  
6時25分出発。山頂まではガイドブックで4時間、標高差1000メートル、けっこう歩きでがある上に、登山道とは名ばかりで、スズタケや潅木の藪漕ぎというタフなコースである。この山に曲がりなりにも登山道らしきもものが拓かれてから、まだ14、5年という若い山でもある。当時は谷を詰める以外に登る方法はなかったらしいが、今でも訪れる登山者はごく少ないという。  
蕎麦粒山と書いて「そむぎやま」と読む。それを知ったのはもうずいぶん古いことで、ずっと頭の中に残っていて、いつか登ってみたいといいう願望があった。手ごわい山、山頂までたどり着けなかったら途中退散してもいいという気持ちもあった。  

今は草むら同然と化した、かつての林道を2、3分進むと、突然林道は崩壊して荒廃した沢が立ちふさがる。ここで林道跡を捨てて右手の急な山腹へ上がるコースがある。潅木にぶら下がるようなかっこうで、腕力頼りに斜面を這いあがり、そのまま登って行くと大きくカーブしてきたて林道跡に合流した。あとは林道跡を緩く上下しながら左手の深い谷に沿って奥へ奥へと進んで行く。林道崩壊箇所も2、3あって、通過するのに注意を要する。ところどころ林道であったことを気づかせるところもあるが、おおむね草に覆われ、あるいは土砂が雨に流されて見る影もない。脚で草を分けるようにして進む。露で足元はびっしょり。  
谷幅が次第に狭まり、はるか下にあった流れが足元に近づいてきた。流れは細まって渓流となり、小滝が連続する美しい渓流風景を見せてくれる。50分かかって旧林道の終点となり細道に変る。しばらくは渓流の縁を遡上して行く。10分余で赤テープを目じるしに、渓流を飛び石で右岸へ徒渉する。ここにはじめて「ソムギ会」という小さな私製プレートが樹幹にかかっていた。登山口から山頂まで、これが唯一コースを示す表示だった。  

渡渉してシダ草を踏んで少し行くと、いきなり急登が待っていた。まさに胸を突く急登という表現ぴったりの厳しい登りである。手も足も総動員体制で急登をよじ登って行く。ときには潅木にぶら下がったり、あるいは膝をついて大きな段差を這いあがったり、久々に味わう険しさだった。  
登るのに精一杯で、周囲に気を配る余裕もない。汗だか梢からの滴だかわからいない。頭から顔までびっしょり、衣類も絞れば水が出そうに濡れている。直線的な鉄砲登りがやや向きを変えた感じがして様相が変わり、今度はいくらか勾配が緩んだように思えるが、藪がうるさくなってきた。手で分けたりくぐったりしながらなおも高度を稼いで行く。  
左手には、かなり競りあがってきた蕎麦粒山が目に入るようになった。小さなアップダウンを経ながら、正面のピークをめざして登って行くと、そのピークの手前で露岩の小さなコブに出た。徒渉から1時間10分の厳しい登りだった。露岩に立つと登って来た左手方向には蕎麦粒山が手の届きそうな位置に見える。一投足でたどり着けそうだが、ガイドブックでは1時間近くかかる。ほんとうの藪漕ぎはこれからだ。  
一息入れる間もなく、上下の雨具を着こんで蕎麦粒山へ向かった。標高差にして100メートルほどの下りでコルへ。予想どおりのスズタケと潅木の藪が待ち構えていた。足元のコースはかなりはっきりと確認できるので、その分は思ったより安心できる。  
両手で藪を押し分け、足もとの潅木を足で押し倒して前進。昨夜の雨でたっぷりと水気を含んだ薮は、たちまち全身を濡れネズミにする。着衣も汗で濡れるのか、露が染みこんで濡れるのかわからない。とにかく頭からパンツの中まで水を浴びているような気がする。  
コルからの登りもほとんど切れ間ない藪と闘いながら頂上を目指す。  
足場が悪くなってきてロープが固定された急坂を登りきると勾配が緩み、スズダケの藪から開放されて潅木の道なる。天国のような気がする。山頂は間もなくだった。  
厳しい登りだっただけに山頂に立った喜びも大きい。山頂を示す標柱もなく、私製の小さなプレートが2つばかり木の枝にかかっているだけだの、小さな地味な山頂である。山頂周辺はヤマウルシなどの潅木が真っ赤に色づいて、紅葉の見ごろを迎えていた。  
美濃随一と言われる山頂も、曇り空で展望はほとんど得られない。二等三角点のあるピークから、わずか南へ行ったところから止めてある自動車が豆粒のよに見えた。

1296メートルの低山らしくもない登り甲斐のある山だった。一人の登山者に会うこともなく、また熊の心配も忘れて登るのにただ夢中の往復5時間は、久しぶりに大きく心を満たし、下山の足も軽かった。