山行報告2076

西天狗(2646m) 東天狗岳(2640m)

長野・山梨県 2014.07.24 М氏同行
コース 唐沢鉱泉(5.05)−−−第一展望所7.00)−−−第二展望所(8.00)−−−西天狗岳(8.25)−−−東天狗岳(845)−−−中山峠−−−黒百合ヒュッテ−−−唐沢鉱泉(11.30)
 

長野市自宅を未明3時出発。できるだけ涼しい早朝に歩き始めようという算段。5時唐沢鉱泉に着くと、同行のМ氏はすでに準備をととりて待っていてくれた。

西尾根コースで西天狗岳を目ざすことにする。コメツガ樹林帯のルートは展望には恵まれないが、林床にはコケが蒸し、しっとりとした雰囲気が漂う。これは奥秩父の山に似た雰囲気だ。勾配は比較的緩やかで、息を弾ませるよう急登はほとんどない。定年まで教員を務めたМ氏は、植物、野鳥など自然全般の知識が豊富でいろいろ教えてくれる。今は地衣類の研究に余念がない。

樹林の奥からは、絶えることなくさまざまな野鳥の囀りが流れてくるのも心地いい。ゆっくりしたペースで登って行く。二人ほど我々を追い越して行くが気にしない。今日の登山目的は、信州百名山挑戦中のМ氏が残された2座登頂のための脚づくり。今夏の予定は光岳となっている。私も同行の予定だ。1時間ごとに数分の休憩を入れながら山頂までの行程差750mを登る計画。

(西天狗岳山頂) (東天狗岳山頂)

第一展望台、晴れていたらと思うと残念。1時間に数分の休憩を入れながら、2回目の休憩をとったあと、第二展望所に到着。標高は2000mに達しているだろう。気温も低く、強めの風が冷たい。手袋、防寒衣が欲しいほどだ。晴れていたら八ケ岳南部の山々から南アルプス、富士山まで望めるのではなかろうか。残念。

岩塊急斜面の下に到着、これを登れば西天狗の山頂、冷たい風に吹かれながら岩頭を踏み、間をすり抜け、白いペンキ印を追って登って行く。
登り着いた山頂は夏とは思えない冷たい強風、吹き飛ばされそうな帽子を脱ぎ、手に握りしめる。流れるガス、目の前にあるはずの東天狗の姿も見えない。寒さに追われるように早々に西天狗を後にして東天狗へ向かう。以前来た時の雪上登山の記憶とはまったく重ならない。吊り尾根状の鞍部から東天狗へ登り返す。視界は悪くても踏跡は明瞭で不安はない。東天狗岳と書かれた標識を確認すると寒風に追われるようにして中山峠経由で黒百合ヒュッテへ向かう。
雪上を歩いた前2回の記憶と、ここもまったく重なるところがない。夏と冬とで様変わりに景色が変わってしまうことを実感する。
途中登ってくる登山者に何人もすれ違って中山峠着。一休みしてから黒百合ヒュッテの建つ黒百合平へ。早めの昼食をとってから下山。歩きにくい岩ばかり沢状のコースをたどり、途中から渋の湯へのコースを見送って唐沢鉱泉へと下った。






残雪期の北八ケ岳
天狗岳(2646m)―中山(2496m)―高見石丸山(2330m)―茶臼山縞枯山(2402m)

長野・山梨県 1989.4.1- 2 単独
コース ●渋の湯(10.00)−−−黒百合ヒュッテ(11.30-12.00)−−−東天狗岳(12.50)−−−西天狗岳(13.10)−−−黒百合ヒュッテ(14.20)
●黒百合ヒュッテ(6.35)−−−中山峠−−−高見石(7.25)−−−麦草峠(8.00)−−−茶臼山(8.52)−−−縞枯山(9.18)−−−縞枯山荘(9.30)−−−ロープウエイ山頂駅(9.35)


赤岳(2899m)を主峰とする編笠山から硫黄岳にいたるアルペン的山容の連なりを、一般的に南八ヶ岳』と呼ぶのに対し、天狗岳(2645m)から北へ北横岳までを『北八ヶ岳』と呼んで、区別している。今回歩いたのは天狗岳から北へ向かい、北構岳を残して縞枯山までの稜線コース。前年3月、赤岳へ登ったときの八ヶ岳の印象に比べると、ここ北八ヶ岳の山々は円やかで優しい。八ヶ岳の男性的に対し、極めて女性的であった。

1日目快晴

(東天狗岳への雪原)

新宿駅をあずさ1号松本行に乗車、笹子トンネルを抜け、甲府の盆地に入るといっもながらの南アルブス大展望の始まりである。今朝の大気の透明度も上々、北岳は勿論赤右、荒川三山、更に三河の山々と続く映像が極めて鮮明。鳳凰三山、東駒(甲斐駒)、仙丈、そして右手の車窓には八ヶ岳・・・・・この展望だけでもう十分に満ち足りてしまうそうだ。茅野駅下車、1時間のバス待ちを待ち切れずにタクシーで渋の湯へ。タクシーのメーターの上が音に脅かされながらも、どんどん迫ってくる北八ヶ岳の眺めに、窓ガラスに額をすりつれるようにして食い入り眺めていた。

渋の湯からいきなり雪の多い北斜面の急坂にとりつく。黒木林の中、踏み跡はしっかりついているのでルートの心配はない。抜けるような青空に雪の白さまぶしい。サングラスを忘れてきたことを悔いる。雪目が怖いからなるべく黒木の林や、自分の影を見るようにつとめて歩く。30分もするともう汗びっしょりでセーターを脱ぎすててザックへ。樹林がまばらになって空が広くなってくると、真っ白に雪をまとった天狗岳が目の前に姿をあらわした。ようやく北八ツの懐の中に入ってきた。時間的にも「そろそろ黒百合平に着く頃かな」と思うのと同時に、樹林が切れてばっと明るい小さな雪原にとびだした。そこが黒百合平で一隅、半分ほど雪の中に沈んだような黒百合ヒュッテがあった。ひと筋煙が立ちのぼりそこだけに小さな暖かさが漂っているようだった。何百人も詰め込むような夏山の小屋と違って、小屋の若い女の人も親切で気持ちよかった。

不要な荷物を置いて天狗岳を往復する。往復2時間もあればとのこと。それでも慎重を期してパーカー上下、アイゼン、ピッケルと装備を固めて出発した。

中山峠を過ぎて爆裂火口壁に出ると、突然体がふらっくような強風に煽られて一瞬たじろぐ。火口壁を高めていった先が東天狗岳の頂、2646bである。急斜面を西からの突風性の強風が休みなく雪煙を巻き上て見えるのがこわい。火口壁を離れて斜面右手を湾曲するようにしてルートをとった。風でバランスを失わないように細心の注意をし、滑落の危険を回避して一歩一歩足場を確認しながら天狗岩を目標に登って行った。甲府盆地は桜が咲き、春らん漫の薫風が香っていたのに、ここはまだ真冬と変わらぬ厳しさを、岩にはエビのしっぼがしがみっき、ハイマツは雪の下に息をひそめ、ダケカンバの幼木は僅かに細い枝先のみ雪の上に出して冬を耐えている。小屋を出るときは思いもよらず、大袈裟かなと思いながらも完全装備できてよかった。

(西天狗岳山頂) (東天狗岳山頂)

東天狗岳頂上は支えなしでは立っていられないような強風、ゆっくりと眺望を楽しむゆとりはないが、八ヶ岳の全貌、南、中、北ア、秩父、浅間・・・・・と360度のパノラマにひととおり目をやってから天狗岳のもう一つのピーク西天狗岳に向かった。ここは主稜線から外れているので歩く人も少なく、降った直後のように乱れのない雪面。細い稜線上をひとのぼりすると西天狗岳の頂きに立っことができた。風こそ強いものの緩やかな、ひろびろとした頂上広場という雰囲気。強風は相変わらず雪煙を巻き上げている。雪煙の向こうに蓼科山そして霧ヶ峰、美ケ原、高ボッチという高原台地が展望できる。

帰途、一旦東天狗に登り返すのが厭で、頂上下をトラバース気味に微かに残る踏み跡らしき痕跡を頼りに天狗の奥庭を目指したが、その痕跡は途中から全く消えてしまい、ひざまでもぐる雪の中をラッセルすることになってしまった。一人の登山者が下って行くのが見えた。あれが登山道だ。雪崩でも起こしたらどうしよう、と不安を抱きはじめたところだった。ダケカンバが点在して、雪崩の心配なさそうなところをたどりながら登山道に戻った。無雪期は岩だらけで歩きにくいという天狗の奥庭あたりも、雪道を快調に無事黒百合ヒュッテまで戻った。

2日目快晴

高見石から渋の湯へ下る予定だったが、あまりの好天に麦草峠、縞枯山と縦走することに予定変更。

山小屋の朝食は普通遅くても5時過ぎにはできるのだが、ここではなかなか食事の声がかからない。何回も外に出て曙光に紅く染まる天狗岳を撮影したりしながら待っこと1時間、6時過ぎの遅い食事をかきこんで、直ちに小屋をとびだした。早く展望のきく尾根に出て朝陽に映える山々を見たい。気持ちが焦る。中山峠で展望が開けると天狗岳、南八ツ、南アそれに野辺山高原の向こうに奥秩父の山なみが美しい。ひと登りすると広く平坦な中山の頂上だ。声もない大展望が私を圧倒した。中部山岳のすべての山が見えるのではないかと思われるはどだ。北アの穂高、大キレット、槍ヶ岳、鹿島槍、白馬、遠く妙高、黒姫、高妻、戸隠、さらに越後の山。とても書ききれないのが残念。だだっ広い頂上は強風で、踏み跡は完全に吹き消され、高見石への降り口が判然としない。シラビソ樹林の少し切れた所に見当をっけて下るとはっきりした登山道が確認できてひと安心する。

高見石は小屋の前を素通り。しばらくはアイゼンが欲しいような急登をときにキックステップでがんばり丸山の頂上に到着。振り返ると昨日強風の中を登った天狗岳が純白に輝いていた。浅間山、四阿山と未登の百名山が登高意欲をそそるように浮かびあがっている。

麦草峠ではクロカンスキーを楽しむ人々が見える。ヒュッテでオレンジジュースを買って喉を潤すとすぐ茶臼山へ向かった。冬の支配下にあるようでも、肌に感じる息吹はすでに春のそれであり、茶臼山へのきつい登りに背中から照りっけてくる陽差しは強い。雪の照り返しがサングラスを忘れた目にきつい。茶臼の頂上は黒木に遮られて展望はなく、そのままコース最後のピーク縞枯山へと歩を進めた。

枯死したシラピソが帯状になって縞模様を描いている。近づいて見ると枯れ木の下には既に幼木が育ち、次代はちゃんと成長をはじめていた。

雲ひとっない快晴に恵まれ、ほしいままの展望を享受した後、黒木樹林の急坂をグリセードでかけ下ると鞍部盆地状の平らに縞枯山荘の青い屋根が雪の中に鮮やかだった。

思いのほか順調に歩き通して、予定よりかなり早く構岳ロープウェイ山上駅に到着できた。時間も早いので、もうひと足伸ばして北構岳まで往復すれば北八ツ全縦走は完成するのだが、それは次の楽しみにとっておくことにして今回の山旅をここで終えた。



≪雪の北八ヶ岳≫
天狗岳(2646m)〜にゅう((2352m)〜白駒池

長野・山梨県 2001.12.23-24 単独
コース ●自宅(2.30)===渋の湯(8.00-30)−−−唐沢鉱泉コース合流(9.40)−−−黒百合ヒュッテ(10.20-40)−−−東天狗岳(11.40)−−−西天狗岳(12.00-10)−−−東天狗岳(12.30-40)−−−黒百合ヒュッテ(13.20)
●黒百合ヒュッテ(6.45)−−−中山峠−−−にゅう(7.40-50)−−−白駒池(8.40-50)−−−高見石(9.25)−−−賽の河原−−−渋の湯(10.25)


2001年登り納めに、白銀の八ヶ岳へ


2日前は東京に雪が降るほどの寒波で、八ヶ岳は全山真っ白に装いを変えていた。

東天狗岳山頂 東天狗中腹の霧氷
深夜、奈良の自宅を出る。
登山口渋の湯への地方道は積雪状態、やはりスタッドレスタイヤに履き替えてきてよかった。
渋の湯にマイカーを預かってもらって(1日1000円)出発。ものすごく寒い。マイナス10数度はありそうだ。
降雪直後だが、三連休の二日目でとレールはしっかりとついている。標高が上がるにしたがい積雪も増して、林床も樹木もすべてが雪の衣をまとい、トレールを一歩外すと膝上までもぐってしまう。
寒さにもかかわらず、黒百合ヒュッテに着くころには、汗がにじんでいた。


ヒュッテで宿泊の手続きをして、まずは天狗岳を往復することにした。
防寒のため重ね着をし、完全な冬山装備のいでたちで出発。足には12本爪アイゼンを着用しているのでペースはいたってゆっくり。
好天を確かめて出てきた甲斐があって、上空には紺碧の空が広がっている。
中山峠からしばらくはコメツガの樹林を行くが、樹林が途絶えたとたん烈風まがいの強風がたたきつけてきた。頬をたたく寒風は針のようだ。天狗岳直下の山腹からは雪煙が舞いあがっている。
降雪直後で雪はまだ締まっていない。アイゼンがなくてもよさそうだが、安全のためにアイゼン登行をつづける。岩場のきつい登りを終ると天狗岳である。最初に登り着いたこの天狗は「東天狗」と呼ばれる。南北に連なる八ヶ岳の縦走路上にある。しかし三角点のあるピークは、縦走路から外れて西側に聳えるもう一つのピーク「西天狗」である。標高も西の方が少し高いのではないかと思う。西へ登らずに引き返してしまう登山者が大半だ。

休まず西天狗へ向かう。
高低差で100メートルほど下って登り返す。東天狗にはたくさ
赤岳(左)と阿弥陀岳(右)・・・・西天狗より
んの人が登っているのに、西天狗については降雪後私の前に二人連れが始めて登ったということで、その二人が西天狗のピークから下りてくるところだった。ラッセルが大変だった由、おかげで苦労は半分で西天狗のピークに立つことかできた。
立派な標識の立つ東天狗にくらべると、二等三角点標石と粗末な標識だけのさっぱりとした山頂である。
しかし眺望は東天狗よりはるかに素晴らしい。何と言っても眼前に屹立する鋭鋒赤岳と阿弥陀岳が目を引きつけて離さない。南アルプス、中央アルプス、御岳、乗鞍、北アルプス、美ケ原、霧ケ峰、蓼科、四阿山、浅間、奥秩父・・・・寒風の中、すばらしい大展望を楽しんでからふたたび東天狗経由で黒百合ヒュッテに帰った。

2日目、今日も寒い。寒暖計はマイナス10数度。風も強くて体感気温は−20℃以下。
食事を済ませて出発した。予定は中山峠から「にゅう」を経由して白駒池、渋の湯というコース。このコースはトレールがついているか心配だった。
中山へ向かうコースと「にゅう」コースの分岐で、ほとんどの登山者は中山へ向かってしまう。しかし幸いにもにゅう方面へのトレールがあった。3、4人が歩いた程度で、踏み固まった状態ではないが、それでもこの踏跡で大いに助かった。金峰山の北側からご来光が射すと、白銀の世界が茜に染まって行く。これは何度味わっても感動は変らない山の朝のドラマだ。
雪に覆われたコメツガの原生林が、異空間に入りこんだような素敵な気分にさせてくれる。樹木が防風の役割を果たしてくれるので暖かい。雪の吸音効果か、ここは音の無い世界だ。
トレールの誘導で安心して「にゅう」へ着くことができた。
巨岩の折り重なった岩のてっぺんには三等三角点が埋設されていた。

トレールと赤テープとを確認しながら原生林の中を白駒池へ向かって下って行く。稲子湯方面への道が分かれてから、白駒池へ向かうコースの踏跡は二人分だけになってしまった。赤テープもほとんど見えない。迷ったらしく、足跡は何回も行ったり来たりしている。不安になってきた。迷った足跡にお付き合いしながら、やがてコースの見当もつきやすくなってきて、迷わずに白駒の池へと向かった。

白駒池で一休みしてから、高見石へ登り返し、あとは賽の河原経由で渋の湯へと下っていった。
下山後、渋の湯の熱い湯に冷えた体を浸けていると、世界中の幸せを一人占めしたような気分になる。登り残していた「にゅう」の頂にも立てて、これで2001年の登山は終了。
今年の山行日数は66日となった。