追想の山々1349  

阿寒富士=あかんふじ(1541m) 登頂日1999.07.23 単独行
釧路市内(3.00)===オンネトー登山口(4.40)−−−5合目(5.30-5.35)−−−雌阿寒岳分岐(5.55)−−−阿寒富士(6.30-6.40)−−−雌阿寒岳分岐(7.00)−−−5合目(7.15)−−−オンネトー(7.50)
所要時間 3時間10分 一等三角点
阿寒富士山頂にて  背後は雌阿寒岳
未明、釧路市を出たときはひどい霧だった。これが「釧路名物の霧」だろう。ヘッドライトも役に立たないような濃霧の中を阿寒湖へ向かう。
噴火活動が活発となり、雌阿寒岳とともにこの阿寒富士も登山禁止となっている。インターネットで照会した結果も、当面入山禁止が解除になる見込みはなかった。
1週間前、雄阿寒岳に登ったときに、「雌阿寒岳へ登ってきた」ということを話していた人がいた。 「登山禁止中ですが?」と聞くと 「いやあ、大勢登っていますよ」 という返事だった。禁止措置を無視して適当に登られているようだ。これは雌阿寒岳に限ったことではなく、浅間山しかり、頚城の焼山しかりである。そんなことを耳にしたので、阿寒富士に登ると男阿寒、雌阿寒と合わせて阿寒三山を登ることができるし、うまくすればオンネトー湖からの雌阿寒岳、阿寒富士の絵葉書的風景を目にすることが出来るかもしれない。
何があっても自分の責任ということにはなるが、アクシデントが発生すれば、結果的には自分だけでなく町村をはじめ多くの人に迷惑をかけることになる。社会ルール違反に後ろめたさを感じながらの登山であった。

釧路湿原を過ぎ、そして阿寒町を走り抜け、ひたすら濃霧の中を疾駆して行くと、突然霧の世界から飛び出した。進行方向に雌阿寒岳や阿寒富士の姿が早朝の青空の下に横たわっている。雌阿寒岳は噴煙をまっすぐに噴き上げている。絶好の登山日和となりそうだ。思わず顔がほころんできた。
オンネトー湖畔を進んでキャンプ場に行き着くと、そこが登山口である。 自動車が1台止まっているだけで、だだっ広いキャンプ場には人影もない。登山口には『噴火活動による危険あり、登山禁止』の注意書があってロープが道をふさいでいる。
登山口を入ると、しばらくはトドマツ等の原生林の中を平坦な道がつづく。倒木が道をふさいだりしているが、登山禁止中ということで整備もしていないようだ。やがて丸太の階段となって登り勾配になってくる。ヒグマに注意という看板がある。
コースは明瞭でその点は何の心配もない。しだいに勾配がきつくなってくる。相変わらずトドマツなどの原生林が空を覆って展望はない。5合目の標識到着まで50分。ここで小休止を取る。注意してみると登山靴の跡がかすかに認められる。歩いている人がいる証拠だ。

突然樹林を抜け出した。目の前がぱっと開け、右手眼前に火山灰地の阿寒富士があった。 黒茶色の山肌は、一木一草とて育ちそうもない荒涼とした風景だったが、その中に低木の緑がまばらに見える。一方左手には雌阿寒岳の噴煙が、静かに揺らぎながら上空へ立ち昇っている。
さて阿寒富士はどのあたりの斜面を登って行くのだろうか。しばし立ち止まって山頂へのコースらしいものが見えないかと、丸裸の砂礫の山肌を望見したがそれらしいコースは目で確認することはできない。  火山灰地を踏んで、雌阿寒岳と阿寒富士のコルあたりを目指す踏み跡を登ってゆく。はじめて小さな道標があった。直進が雌阿寒岳へ、右へ折れるのが阿寒富士となっている。
山腹をトラバースするように進むと、雨水でえぐられて沢状となった溝を渡る。この先から踏み跡もほとんど判別できなくなってくる。ガスでもかかっていると歩くのが難しそうだ。

 山頂直下の火山礫帯
平坦となったあたりが雌阿寒岳と阿寒富士とのコルだ。山頂への登山道は間際までわからなかったが、コルまで来るとちゃんと踏み跡があった。一木一草とてないような砂礫の急登が山頂へと伸びている。富士山の砂礫帯と同じだ。
小さなジグザグを繰り返しながら登って行く。目標となるものもなく、かなり登ったと思って振り返っても実感がない。不毛に見える砂礫の中にイフブクロの花が咲いている。ふと注意してみると、あっちにもこっちにも見える。根を張る土もないようなところに、よくも生きているものと感心する。目の先に大きな岩が見えてきた。メアカンフスマも群落を作って白い花を咲かせている。大岩の高さまで登ると、ようやく急な勾配は終わり、緩やかに山頂へと登山道が延びていた。
山頂手前の平坦地は、さながら高山植物のお花畑になっていて、イワブクロ、メアカンキンバイ、メアカンフスマ、イワギキョウが混生して咲き乱れていた。荒涼とした山頂付近にこんな素晴らしいお花畑が形成されているのが、何だか不思議な光景だった。

登りついた山頂は視界を遮るものもない。赤茶色の火山灰地の中に一等三角点標石が埋め込まれている。遠望こそきかないが、絶好の快晴である。巨大な噴火口から噴煙を吐き出す雌阿寒岳、端麗な姿を見せる雄阿寒岳、その先はるかに霞んで見える山は多分斜里岳などだろう。眼下には、緑の樹林に囲まれたコバルトブルーのオンネトー湖。 素晴らしい展望に、しばらく目を凝らして見入っていた。

禁を破っての登山だっが、アクシデントにも遭わず無事下山できた。 下山後、オンネトー湖畔に立って見た。静まり返った藍色の湖面の向こうには、雌阿寒岳と阿寒富士が仲良く肩を寄せ合っていた。まさに絵葉書で見るのと同じ、あの風景であった。
帰路雌阿寒温泉(=野中温泉)に立ち寄る。国民宿舎で汗を流し釧路への帰途についた。