追想の山々1353  

大博多山=だいはださん(1315m) 登頂日1995.06.17 単独行
林道終点(7.55)−−−ヒメコマツの尾根(8.17)−−−尾根・稜線屈曲点(8.37)−−−山頂手前ピーク(9.15-9.20)−−−大博多山(9.35-9.55)−−−尾根・稜線屈曲点(10.30)−−−ヒメコマツの尾根(10.43)−−−林道終点(10.55)・・・・・このあと大戸岳へ
所要時間 2時間45分 一等三角点
大博多山一等三角点
会津地方の一等三角点峰『大博多山』と『大戸岳』を選定して出かけた。
手持ち資料の中には、この2座を詳述したものが見当たらない。5万図上には大博多山、大戸岳とも登山道を示す点線が記されていなかった。しかし村落背後に位置する山であれば、山仕事の道程度のものはあるだろう。

天王峠を越えて会津西街道へ入ると霧雨が舞っている。予報に反した空模様に、出鼻をくじかれたような苛立ちを感じながら、通いなれた会津西街道を駆け抜けて行く。田島町から駒止峠を越え、大博多山のある伊南町へと入り、5万図を頼りに自動車を進めると、『官の倉山登山口』の標識が見える。もし大博多山がだめだった場合の予備の山だ。
5万図を検討すると、大博多山への登山口は青柳集落を流れる青柳 沢沿いあたりにありそうだ。地図には青柳沢に沿った林道が記されている。それをたどってみることにする。
国道から伊南川にかかる橋を渡って、対岸の青柳集落へと入った。居合わせた老人に尋ねると、予想していたとおり青柳沢に沿った林道を行くと登山口のあることがわかった。林道途中の“横向” 二又で右の林道を行くのだと、念を押して教えてくれた。
教えられとおり集落西はずれあたりを流れる川に出たところで、後は その川(沢)沿いに畑の中の舗装された林道を上流へ遡上して行く。畑はすぐに消えて、山の中へ入り砂利道に変わる。ときおり釣り人の姿が見える。一つくらい道標がないかと目を配ったが、それらしいものはまったく見なかった。林道を約3キロ走ったところが 念を押された二又分岐で、さらに右手の道を1キロ進んだところで林道が終わった。数台分の駐車スペースがある。

ウグイスのさえずりを耳にしながら軽い朝食をとる。
ところでどこから登りつけばいいのか、あいかわらず何の標識もない。沢沿いの草むらに一筋の踏み跡が見える。釣り人のものかもしれないが、 ほかに歩けそうな道は見当たらない。
露を含んだ草に靴を濡らして、沢沿い左岸の踏み跡を進むこと2〜3分、山菜採り禁止の立札のところで道は沢をまたぐ。ここで右岸に移って沢沿いを行くのか、あるいは右手山腹をからんで尾根へ取りつくつのか・‥・。立ち止まってしばらく思案する。地図上では目ざす大博多山へは、右手山腹を登った稜線上をたどらなければならない。とにかくその稜線へ登ることが先決と、山腹の急斜面を登って行くことにした。道形らしいものは確認できないが、雑木林の薮の隙間を選んで登って行く。ざれた急登で一歩ごとに足がずり落ちる。帰りの道を頭に入れておくため、ときおり立ち止まっては、振り向き樹木の特徴や地形を記憶にたたきこむ。薮はそんなにひどくはないが、ざれの斜面で足もとがずり落ちるので難儀だ。尾根にさえ登りつけば、あとは忠実にその尾根をたどって何とか山頂へ達することができると思う。

標高差6〜700メートル、それほどハードな登りではないし、最悪午後3時までに下山するつもりなら、6〜7時間はある。あわてることはない。それにしても下山のことを考えると、赤布を持ってくるべきだったと反省。『帰りはこっちの谷へ入ってはいけない』 とか『あの枯れ木を右に見て下ればいい』とかあれこれ頭に記憶をたたきこみ、不安を払拭しながら登っているうちに、案外早く尾根に登り着くことができた。
尾根のそこには大きなヒメコマツが3本、よく目立って帰りのいい目印になる。尾根に出ると、思ったとおりその先はコースらしい踏み跡があった。もう迷う心配ないだろう。ヒメコマツのつづく尾根はきつい急登だったが、道形さえはっきり していればどうということはない。潅木に身を支えたりしてその急登を登りきったところが稜線だった。ここではじめてコースを示す表示として、木の幹に赤いペンキ印がつけられているのを目にした。
赤ペンキ印で踏跡は左へ直角に曲がって、後はこの稜線を伝っていけば山頂へ達するはずだ。念のためコンパスで方向を確かめた見たが間違いはなかった。 歩く人も少ないためか、道形も消えかかっている箇所が多く、また潅木の茂みが道に迫り出したりている。潅木の露で上半身まで濡れてきて、雨具で完全武装となった。
幽霊のような気味悪さでギンリョウソウが並んでいる。勾配が少し緩んではまた急登と繰り返して高度を稼いで行く。
道を塞ぐ倒木がそのまま放置され、またいだり迂回したりを強いられ て体力を使う。ところによっては薮の茂みと化し、道形が消失しているところでは、とにかく稜線を外さないことを心がけた。ときおり見える赤ペンキに安堵しながらも、多少の不安をかき消せないまま、広い平坦なピークに達した。ブナ林に覆われたピークで眺望はない。大博多山にしては三角点が見当たらない。 地図を広げると、どうやら三角点の手前のピークらしい。

樹林の中でひと休みしてから、やや下り加減に先に進み、コルからの急登をひと頑張りすると樹林が切れて、明るい空間に飛び出した。一等三角点大博多山だった。
一等三角点標石が、頭部10センチだけ地上に出ている。山名表示一つなく、まことに地味な頂だった。ここまで歩いてきたコース中に、飴の包み紙一つ落ちていず、その清潔さはすがすがしいものがあった。
曇り空で眺望の利かないのが残念だったが、伊南町や只見と思われる町が遠くかすかに眺められた。東方には藍色をした山巓の一部が浮かんでいたが、どこの山だろうか。 ナナカマドやダケカンバの樹木の中に、2〜3本のウラジロヨウラクが 薄紅色の花を数珠なりに咲かせていた。

下山では、登り以上に稜線を外さないよう気を使って下った。ヒメコマツの尾根で始めて登山者に出会った。まさかと思ったが、この山を訪れる人もいたのだ。
一度も迷わずに、山菜採り禁止の立て札のあった場所にぴったりと下山することができた。
青柳集落から国道へ出てしばらく走ると、通りすがりに“田口温泉” の看板を目にして、借りきりの浴槽に身を沈めた。すがすがしい気分で翌日登る予定の大戸岳登山口へ向かった。