追想の山々1355  

東吾妻山(1975m)一切経山(1949m) 登頂日1996.09.28 単独行
浄土平(7.15)−−−姥ケ原(7.45)−−−東吾妻山(8.20-8.25)−−−姥ケ原−−−鎌沼(9.05)−−−一切経山(9.40-10.00)−−−浄土平(10.35)
所要時間 3時間20分 一切経山一等三角点
東吾妻山三等三角点
やさしい山容の東吾妻山
東北自動車道福島西インターチェンジを出て磐梯吾妻スカイラインへ入った。すでに夜は明けている。高度を上げて行くと紅葉は徐々に色を増して、秋本番を思わせる鮮かさとなってきた。上空には青く吸いこまれそうない空、まさしく絶好の登山日和。今日は展望も十分楽しめそうだ。
さらに標高が上がると、吾妻小富士やラクダ山の荒涼とした異様な景観が目の前に追ってきた。ススキの穂が、陽光の中にまぶしく光り、冷たい風になびいている。
自動車は順調に走って、登山口の浄土平に着いたのは7時。所要4時間だった。車外に出ると肌を刺すような寒風に吹きさらされた。  

浄土平の湿原を横断し、一切経山、酸ケ平方面への道を右に分けると、姥ケ原への登りとなる。潅木林の道は今や紅葉の真っ盛り、カエデやサラサドウダンが黄や紅と色を織りなして、山肌を賑やかに塗り潰していた。背後の一切経山の無気質な光景とのコントラストが面白くて、何枚もシャッターを切る。
紅葉を愛でながらひと登りすると、姥ケ原の木道となった。目の前になだらかな山体を見せているのが、これから登る東吾妻山。黒木の山肌の中に、紅葉が点々と散りばめられている。姥ケ原で木道は十字に交差、分岐点となっている。高下駄のような木道の下は、本来ならば池塘の湿原なのだろうが、水は干からび、チングルマの群落は深紅の紅葉に変っている。
十字交差路で東吾妻山へのコースを取ると、すぐにシラビソの樹林 へと入って行く。シラビソに混生している潅木類が見事な黄葉を見せてくれる。紅葉狩り気分で足を運ぶ。緩い登りを苦もなく登って、突然森林限界に飛び出した。ハイマツと砂轢のゆるやかな登りが、頂上へといざなう。さえぎるものがなくなって、たちまち冷たい強風にさらされた。
入れ違いに二人のハイカーが展望台方向へ去ると、山項は私一人だけとなった。耳元を風のうなりがかすめて行く。ここは吾妻連峰の最高峰、広々とした山頂からは360度、広大な展望が広がっていた。南には安達太良山、猪苗代湖と磐梯山、北側間近に吾妻連峰が連なり、一切経山、烏帽子山、東大巓などが懐かしい。西吾妻山から北部の山々は、帯状の雲に隠れているのが残念だった。何枚か写真を撮ってから、あまりの寒さにいたたまれず姥ケ原へ下った。

姥ケ原へ戻ってから、十字路を今度は鎌沼への木道をたどる。
鎌沼の水面は、空の色を吸い込んで深い藍色の水をたたえ、わずかにさざ波だけで静まっていた。沼のほとり道は、目にも鮮やかな橙や黄色の潅木が目を引きつけ、それを愛でながら木道伝いに散策して行く。季節にはさまざまな高山植物が咲き競った沼畔も、今は枯れ草色に変わって雪の季節を待っている。ここでも沼と東吾妻山を構図にして、フィルムの残りを気にしながら、何枚かシャッターを切った。
沼を半周すると酸ケ平の湿原へと入って行と、草原はすっかり狐色に変って初冬の装いが濃い。予定ではこのまま浄土平へ戻るつもりだったが、気が変わって一切経山へ登って行くことにした。
シラビソや豊かな紅葉を見せてくれた東吾妻山とちがって、一切経山は草木一本ない死の世界。避難小屋の後ろから直登に取りついた。山頂までの標高差は200メ ートル前後、30分もみれば十分だろう。  

しばらくして浄土平からのコースと合流する。浄土平から続々とハイカーが登ってくる。天気は良し、秋の一日これ以上のハイキング日和はない。みんな気分よさそうに歩いている。見下ろすと鎌沼の水面が美しい。そして先ほどの東吾妻山。山頂に電波反射板のような構築物の見えるのが、この後時間があったら登る予定の高山だ。
火山礫地の道をたどって行くと、簡単に一切経山の山頂に登り着いた。7年前(1988年)の10月中句、西吾妻山から縦走して来て、この一切経山に到着したときには、ガスと寒風が吹きすさび、記念写真だけ撮って逃げるように下山したものだった。打って変わって今日は風こそ冷たいが絶好の日和に恵まれた。
山頂の北側からは五色沼が見下ろせるのを知っていたので、山頂で足を止めることなく五色沼を見下ろせるところまで足を運ぶ。期待どおり美しい色をたたえた沼が眼下にあった。神秘的なエメ ラルドグリーンと形容される沼は、その例えどおり吸い込まれそうな水面に、かすかにさざ波を立てていた。カメラアングルを求めて、沼の方へ下ってみた。沼の周囲は黄葉した木々が取り巻き、まさに秋ならではのすばらしい自然美、撮影ポイン トを求めながら見とれる思いだった。沼の対岸に見えるのが家形山で、あのとき長い縦走をして来て、五色沼を見下ろす家形山で、神秘の沼を眺めながらほっとして休憩をとったのを思い出した。
30人ほどの小学生が登って来て、いっペんに騒がしくなってしまった。三角点付近にたむろされてなかなか写真を撮る チャンスがない。 東吾妻山の背後に聳える磐梯山をようやくカメラに収めると、一切経山を後に浄土平へと下った。