追想の山々1360  

 稲包山=いなづつみさん(1598m) 登頂日1994.11.05 単独
四万日向見温泉(6.10)−−−登山口(6.40)−−−ベンチ(7.20-7.25)−−−赤沢峠(8.00)−−−稲包山(9.10-9.30)−−−赤沢峠(10.15)−−−ベンチ(10.40)−−−登山口(11.00)−−−日向見温泉(11.30)
所要時間 5時間20分 赤沢山 三等三角点
稲包山 三等三角点
稲包山山頂
登山口への赤沢林道は、四万川ダム建設工事のため通行禁止となっていたため、日向見温泉付近の駐車場に車を止めて、ここから歩くことにした。千葉ナンバーの自動車の夫婦が、やはり稲包山へ出発するところだった。

登山口まではダム工事の現場を高巻くように付けられた、工事車両用道路を歩かなければならない。はるか目の下には、既にダムが形を表していた。工事用の車両も唸りを上げて動き出している。四万川の渓流は紅葉の盛りを迎えようとしているときだった。
30分ほどで稲包山登山口ヘ着いた。ほどよい勾配の道がじぐざぐを 切りながら樹林を縫って行く。イヌブナ、ネジキ、ウリハダカエデ、ア オシデなどの広葉樹林が、色とりどりの紅葉を見せている。朝の斜光線は黄葉、紅葉をとおして吸い込まれるような透明感で降り注ぎ、何もかも染めてしまうようだ。

ベンチのしつらえられた最初のピークで休憩にする。朝陽を受けた鋭い三角峰が彼方に見える。あれが稲包山だろう。思ったよりも距離がありそうだ。予定の時間で往復するのはちょっときついかもしれないが、のんびり行くことにする。時間が足りなくなったら、この後帰りに立寄るつもりだった榛名富士は割愛してもいいだろう。
ベンチから35分ほど歩くと、四阿のある赤沢峠だった。直進すれば 法師温泉で、赤沢峠を挟んで四万温泉と法師温泉とを結ぶ道は、ハイキングコースとなっていて訪れるハイカーも多いという。
赤沢峠でそのハイキングコースから離れて、左へ直角に折れ、笹の薮っぼい山道へ入った。思ったより道は明瞭で、案ずることなく稲包山へ導いてくれる。最初の送電線作業道分岐からは、幅広く笹も刈り払われて見違えるような良い登山道に変わった。標高が高くなってきたこのあたりからは、樹林の落葉が終って、早や冬木立の景色に変わり、日陰には雪が塩をまぶしたように消え残っていた。

コースは尾根を忠実にたどっている。四つ五つ、小さなピークを越え ながら少しづつ高度を上げて行く。人気のない静かな山中に、ときおり小鳥の声が樹間を通り過ぎる。右手送電塔への道を何回か分けているうちに、登山道はすっかり雪に覆われいた。いくつ目だろうか、送電塔への立派な作業道のあるところで、稲包山方向への登山道が消えてしまった。直進方向の笹の中に踏み荒らされたような跡が残され、わずかに道形が認められる。しかし20メートルも行かずにその痕跡も消えてしまった。そのグループはここで引き返したのだろう。
雪かぶりの笹、道形の不明瞭さに一瞬ためらったが、そのまま進んで様子を見ることにした。キャラバンシューズはたちまち濡れて、中まで染み込んで来る。雪と笹をいっしょくたに蹴散らすように緩斜面を過ぎると、樹林が切れて稲包山ピークの三角錐の付け根だった。最後の急登は南向きのため雪はなく、一気に山頂へ立つことができた。

ピークは狭いながらも、四囲さえぎるもののない360度の展望に恵まれている。平標山から仙の倉山、谷川岳は白衣をまとって冬の装いに変わっている。苗場山が独特の山頂をのぞかせ、間近には大黒山と白砂山の姿がある。湯沢リゾート地の高層建築物が異様な景観に映った。
30分の滞頂の間に、早くも谷川連峰は湧き立つ雲に隠されようとし ていた。
下山後、日向見温泉で汗を流してから、榛名富士へ向かった。