追想の山々1367  

谷急山(1162m) 登頂日1994.11.20 妻同行
三方境登山口(6.20)−−−三方境(7.40-7.45)−−−P2(8.32)−−−谷急山(9.03-9.15)−−−P2(9.46)−−−大遠見峠(10.20)−−−スーパー林道(11.10)−−−三方境登山口(11.40)
行程 5時間20分 群馬県 谷急山 三等三角点
谷急山山頂
自動車は横川駅の手前で国道を離れ、狭い道路を妙義山の懐へ入って行く。裏妙義国民宿舎前で、進入禁止の表示が出ていたが、鎖やゲートなどもなかったのでそのまま進むと、すぐに三方境の登山口があった。ちょうど夜が明けてきた。

身支度をして出発。コースの手入れが行き届き道標も完備、地図もいらないくらいだ。上ったり下ったり、また平坦になったりしながら山の襞を縫うようにして、少しづつ高度を上げて行く。
紅葉の時は過ぎたものと思って出掛けて来たが、樹木の色づきは褪せもせずまだ十分楽しむことができる。黄葉の中にときおり目の覚めるようなモミジの深紅が燃え立つ。
1時間近く歩いたところで妻の声がかかって小休止をとる。

杉の人工林に入る。間伐材が乱雑に放置された味気無い道を登って行く。たどりついた稜線上が裏妙義縦走コースの途中にある三方境だった。
近ごろ妻が同行のときは、きまってバナナをザックに入れて来る。昨年鳳凰地蔵岳へ登ったとき、途中で出会った人から貰ったバナナがおいしくて、それ以来病みつきになっている。
三方境で休憩をとった後、ここからはコースを左に変えて稜線を谷急山へ向かう。
最初に一つなだらかなピークを越えてから、急な登りを潅木にしがみつくようにして攀って行くと、露岩のピークとなる。これからいくつか越える最初のピーク『P2』だった。天気がいいと谷急山が手に取るように眺められるというが、霧に閉ざされてその姿はない。裏妙義の奇峰が雲をからめて墨をにじませたように、ぼやけて見えるだけだ。

急崖を足下にしたり、岩壁の下をトラバースしたりして、一つ、二つとピークを越えて行く。岩峰猛々しい妙義にしては、安全に拓かれた登山道で鎖場もない。3年前に表妙義縦走のときのスリルに比べれば雲泥の差だった。
三方境から谷急山までは落葉樹の尾根道がつづいている。クッションのような足触りのいい落葉を踏みながら、思ったより早く谷急山々頂に到着した。
展望はほとんどない。霧の裂け目から上信自動車道が見え隠れしているのみ。

ガスが湧き立っように上がって来る。雨の来ないうちにと思っ て、早々に山頂を後にした。
三方境の手前で『女道』というコースが分かれている。古い地図には載っているが、最近の地図にはないコース。道もわかりにくいようだ。しかし標識もあるし、矢印で『国民宿舎』という表示もある。同じ道を下るよりも、ちがうコースの方がと思ってこの道を選んだ。
潅木の道は明瞭で何の心配もなかった。登りのときのあの杉の植林帯に比べたら月とスッポンくらい、こっちのほうが気分がいい。
やがて落葉喬木林の窪地状の下りに変わるころから、道がだんだん分かりにくくなって来た。樹幹に見える色あせた黄色のペンキが頼りで、慎重にそれを追う。ときおり『国民宿舎』の表示が現れてコースに誤りのないことを確認する。この先妻を連れて多少の不安はあったが『何とかなるさ』と下って行った。
広い斜面は落ち葉がびっしりと敷き詰め、道もかしこもすべて覆われてしまい、なおさら分かりにくくしている。立ち止まっては慎重に方向を確認する。妻が心配げに 「本当に大丈夫なの」 と何回も問う。
この喬木林はモミジが多く、それが今真っ盛り、秋の山を十分に堪能させてくれる。

モミジの斜面を下り切ると沢だった。細い水流沿いに、それとわかる岸辺の踏みたどって行く。ときに高巻いたり、また沢に降りたりして、不明瞭な道の痕跡を拾いながら進んだが、沢底でついに痕跡も見失ってしまった。どうせこの沢を下って行けば今朝の登山口へ行きつくことは分かっていたが、途中滝や崖でもあったら厄介だ。立ち止まって周囲を見まわしているうちに、道標らしいものが高みに見える。斜面を攀じ登るとやはり道があった。正しいコースは沢を離れて小さな支尾根を一つ越えていたのだ。
後は迷いようもなく林道へ出て、この林道を30分ほど歩くと今朝自動車を止めた地点へ戻ることができた。
国民宿舎の風呂で汗を流してから帰途についた。