追想の山々1371  

御坂山(1596m)黒岳(1793m)破風山(1674m)節三郎岳(1666m)
 登頂日1989.11.23 単独
天下茶屋(9.40)−−−御坂山(10.15-10.20)−−−黒岳(11.25)−−−破風山(11.45)−−−節三郎岳(12.15-12.20)−−−大石峠(12.55-13.00)−−−大石ペンション村(13.30)−−−川口湖畔バス停(14.15)
行程 4時間35分 山梨県 御坂山 三等三角点
黒 岳 一等三角点
節三郎岳三等三角点
晩秋の一日、
先日三ツ峠に行ったときと同じ電車、バスを利用して、天下茶屋から歩きだした。登山道を入ったところに、太宰治の文学碑がある。この茶屋で彼は富嶽百景を書いたという。碑には『富士には 月見草が よく以合う』 という一節が刻まれている。碑の展望台からは
節三郎岳と背後は鬼ケ岳
眼下の河口湖と、雄大な裾をひく富士が絵葉書さながらだ。妬ましいほどに端正な姿に見とれる。写生している人や、カメラを構える人々の真ん中を分けるようにして稜線への急坂を登って行く。落葉して明るくなった雑木林を、じぐざぐに20分も歩いてひと汗かけば、もう御坂山魂の尾根となる。

右に清八峠への道を見送って左にもうひと登りすれば展望が広がって、再び河口湖、富士山が現れ、行く手彼方には奥秩父の連峰も潅木越しにうかがえる。
10人ほどの熟年パーティーを追い越して、ブナの林を登ればすぐにゆったりとした円頂の御坂山に到着。ブナ林の頂は展望もなく、一服して先へ進む。手入の行き届いた道は、緊張感もなく気楽そのもの、こんな山歩きもまたいいものだ。
頂上からゆるく疎林の道を下って行くと、木の間から峰頭を突き出した釈迦ケ岳が見え隠れする。黒岳とその右手遠くに冠雪した高峰は南アルプスだ。送電線の鉄塔を過ぎると、間もなく粗末な茶屋の建つ鞍部に降り立つ。『御坂峠』と標柱が示していた。

富士山は今日のコ ース中、ずっと一緒の友である。
御坂峠で眺望を楽しんでから黒岳への登りにかかる。茶屋から100メートルほど歩くと小さな社『御坂天神』があった。手を合わせて行く。 潅木の中、少し傾斜の増した登りを40分ばかり汗ばんで踏ん張ると、小広くなった平坦部に小屋がひとつ、朽ち壊れていて、その先が黒岳の山頂だった。
一等三角点標石が真ん中に鎮座している。樹木に閉ざされて展望はきかないが、風もなく初冬の淡い日差しが暖かく包んでくれる。初老の夫婦が憩っていた。挨拶をして私も腰を降ろし、朝食の残りのおにぎりを食べる。夫婦は展望が無いことを残念がっていた。「もう少し先へ行ったらいい展望があるかもしれませんネ」とすすめてみたが、帰るのが大変だからと言って立ち上がった。

黒岳から急な下りを降りると峠で、十字路になっている。そのまま直進して、登りにかかるとほどなく破風山の山頂に着く。案内書ではここからの展望が良いことになっていたが、潅木が邪魔になっていた。
更に行くと、南側の林が切れてカヤトの道となり、富士山の大きな姿が現れた。三脚を立て枯れすすきを前景に早速シャッ ターを切る。
それからは眺望の楽しみが加わった尾根道を行く。新道峠下りの取付きで前方に節三郎岳とその肩遥かに、南アルプス連峰が雲と見まがうほどに霞んで見える。右から甲斐駒、仙丈、北岳、間ノ岳、農鳥、塩見、荒川、赤石、聖と3000メートル峰の勢揃いだ。北側には八ヶ岳、金峰、国師なども見えていた

新道峠の十字路を道標に沿って尾根を直進し、節三郎岳に向かう。眺望を楽しみながら歩いていると、知らぬ間に節三郎岳に来ていた。山頂には『中藤山』とあるが、『節三郎岳』とどちらが正しいのだろうか。
緩く上ったり下ったりしながら明るい尾根を進むうちに、沢状に下ったすぐの対岸に岩場が見えてきた。道はその岩場を越えるようにしてつづいているが、足場もしっかりしていて何の心配もなく通過する。岩場の一番高い所に立ってみると、八ヶ岳や奥秩父の山々がよく見わたせた。
岩場を登りきって不逢山という小さな頂を越えると、開けたカヤトの鞍部、大石峠に着いた。この四つ辻を直進するのが御坂主脈縦走の後半部になるが、今日はここで打ち切って、川口湖畔大石部落へ下る。

じぐざぐの下りを快調に足を運ぶ。
登山道が終わって舗装道路になり、大石の部落も間近いようだ。 しかしこの舗装道路の道ぞいは、都市部の裏通りさながらの乾いた雰囲気で、廃材が投棄され、工事で土はめくり取られ、削られ荒れた山肌が見にくく、たちまちわびしさに襲われてしまう。
遮二無二先を急いだ。

ペンション村発のバスは1時間半も待ち時間がある。河口湖駅まで歩いてしまおうと、コンクリートの道をどんどん行く。河口湖大橋がはるか向こうに見える。とてもバスより先に河口湖駅まで行けそうもない。《学校前》というバス停で待つことにして、残り物を食べながら時間をつぶし、少し遅れて来たバスで河口湖駅に向かっ た。