追想の山々1390  

 棚 山(1171m)  登頂日1991.03.17 単独
中央線別田駅(7.35)−−−岩下温泉(8.15)−−−夕狩沢古戦場(8.30)−−−955mピーク(10.00)−−−棚山(11.15-11.30)−−−御料局境界標(11.50)−−−電波塔往復−−−太良峠(12.40-12.50)−−−古湯温泉(13.40)−−−積翠寺バス停(13.55)
行程 6時間20分 山梨県 三等三角点
棚山山頂
中央線別田駅下車、雑誌の紹介に従って国道を横断、平等川を渡り、まずは気分よく歩き始めた。
霧が深く見通しが悪いが、朝霧は好天のしるし。川を渡ると石仏七体の牧洞寺があるはずだが見当たらない。石仏はないが寺はある。隣に神社もある。鳥居の額に『走湯神社』とある。牧洞寺はわからないが、紹介文には走湯神社を左手に見て川に沿ってとあるからこれでよかろう。ところが川沿いに少し行くと行き止まりだ。戻ってお寺の墓地の小道を行ってみる。心細い道だ が何とかなるだろうと思ったのは甘かった。ブドウ畑の中に道は消えてしまった。もう戻るの面倒、急傾斜のブドウ畑の小道を見通しもないまま上って行くと、広い舗装道路に出た。感じとしては西平等川沿いの登山道に出そうに思えた。作業中の農家のおじさんに、棚山への道を聞くことができた。ポイン トの岩下温泉はこのすぐ近くだった。

岩下温泉は通らずに、次のポイントの夕狩沢古戦場へ向かう。こんな山を訪れる人はいないと思ったのに、前方に二人のハイカーが歩いている。追い付いて行く先を尋ねると兜山だそうだ。
思ったとおり霧が晴れて青空が広がってきた。
古戦場の立て札を読んで、さあこれから西平等川に沿った山道だ。とは言っても堰堤工事用につけられた自動車道で、まだ登山道という雰囲気ではない。車道が終わって堰堤を越えると、渓流沿いの気持ちいい山道となった。春を感じさせる陽ざしを浴びて、上流へと歩を進めて行く。
薄く塩をまぶしたような雪が見えてきた。先行者の足跡もはっきりして来た。すぐ前を歩いている人がいるようだ。

紹介文では渓流を三回渡ることになっている。3回目、左岸から右岸への渡り返しで大きな過ちを犯す。右手、コナラの中を尾根に取り付かなければならないのに、右岸へ渡るとそのまま左手の山腹をたどってしまった。先行者の足跡があったのでつられてしまった。
ヒノキ植林の幼木の山腹をしばらく登って行くと紹介文どおりに林道に出た。頭上に巨岩の露出したピークがあり、 紹介文にあるように赤松が生えている。まず間違いなく棚山だと確信する。
じぐざぐの林道を2〜3回折り返したところで道は左右に分かれた。
頭上急斜面の上のピークを目標に、左の道を緩く登って行ったが、林道はいきなり終点となった。この先は踏み跡もない。
強引に薮の中へ分け入る。傾斜はきつく、荊が多いのがかなわない。ずり落ちそうになってあわてて掴まったのが荊。痛いっ。  頂上直下は岩石帯、これが棚山?いやちがう。
紹介文の通りに来たつもりなのにどこで間違えてたのか。谷を挟んだ向こうに明るい雑木の山が見えるが、まさかあれが棚山・・・・。だけど標高はたなり高そうだし、頭の中の地図と比べてみても、ぜんぜん別の山という気がする。やっぱり目の前が棚山か。

ようやくにして岩石帯をクリヤー、そこはまだピークではなくゆるゆかな尾根が更に北へ向いている。切り払われた雑木を分け、雪を踏んでやっと行き着いたピークは巨岩が積み重なっていた。標柱も何もない殺風景な頂上で、やはり棚山とは違ったらしい。
北風が冷たく、汗に濡れた体がどんどん冷えて行く。

さてこれからどうするか、谷の向こうに見えるのが棚山だったようだ。もう一度棚山まで登り返す時間があるだろうか。しばし思案。わけのわからない山に登っただけで帰るのではなんとも心残りだ。
やはり棚山から太良峠へ予定のコースを歩くことにした。
登って来たあの荊の薮を下るのはかなわない。棚山は谷を挟んで正面にあり、正規の尾根通しのコースとは別に、山腹を電光型につけられたはっきりした道が、頂上へ延びているのが見える。その取り付けをめざして、雪のついた急斜面を適当に選んで下るが、思いの外急峻でうっかりすると転落するおそれがある。
何とか谷まで降りて棚山への登り道にとりつく。ヒノキ植林の中の作業道はやがて細く消えてしまい、あとは歩きやすいところを適当によじ登って行くと、尾根に踏み跡があらわれた。振り返ると先程の995メートル峰の背後に富士山が聳えていた。

少休止かたがた富士山のスケッチを一枚。しばらく尾根を詰め急登を行くと、右手の尾根から明瞭な道が合わさった。そもそもこの合した尾根を来ていればもうとっくに棚山へ着いたいたものを、とんでもない道草を食ってしまった。
ここで雪の上に残るはっきりとした足跡があった。人声が近づいて来て、三人のハイカーが姿を現した。 「兜山へ登ろうとしたのに、間違えて棚山へ登ってしまった」という。 このあたりはハイカーの少ない山域で、道標などもなく、仕事道が輻輳して間違いやすいのかもしれない。
これから太良峠へ抜ける予定だと話すと、「それなら棚山から右に回り込むようにして行くと、大きなパラボラアンテナがあるからすぐわかる」と教えてくれた。

棚山の頭部がこんもりと見えてくると後わずかだっ た。
三角点を確認しパンを食べ、水筒の水で喉を潤す。それにしても今日は汗の出方が激しい。大体汗のかきかたで自分の体調がある程度わかるが、今日の汗は体調不良の兆しが出ている。
潅木に遮られて眺望も楽しめず、じっとしていると寒い。急いで太良峠へ向かうことにする。

教えられたとおり山頂から右の尾根を下り始めたが、どうも変だ。山頂まで引き返してコースを見定める。山頂から左方向に境界標がある。太良峠へはこれをたどって行くのがコースである。あのハイカーは親切心で教えてくれたのだが、いいかげんな教え方をされたら迷惑といいたいところ。だが所詮自分がしっかりコースを確認して行動しないのが悪いのだから人を恨むのは見当違い。

境界標にそった道は迷うこともなく、樹間に奥秩父をかいま見ながら、いくつか小さいコブを上下して自動車道に出た。アンテナまで行けば奥秩父の展望が良さそうに思えて寄り道をした。案の定水ケ森、帯那山の背後に金峰山から国師ケ岳にかけての展望が素晴らしく、五丈岩も良く分かる。さらに瑞牆山も胸から上を覗かせていた。

雪の積ったアンテナ補修道を下って行くと、鉄製のゲートとなって立派な舗装道路につながった。
舗装道の途中、近道らしい脇道に入ったが、一軒家のところで行き止まりとなってしまった。その農家で道をたずねると、里へ通じる山道を教えてくれた。それにしてもこんな山中にただ一軒、なんとも寂しい住まいである。
教えられた急な山道をかなり下ったところで、ひょっこりと温泉に出た。『古湯坊』という信玄の隠し湯とのこと。まだかなり歩かなければならない。温泉に入って行くわけにはいかない。バス停の積翠寺への車道を急いだ。

汽車が甲府駅を出ると、車窓から北の方に兜山と棚山が手に取るように見えていた。