追想の山々1413  

三方崩山(2059m) 頂日1999.10.19 単独
林道標高650m地点(6.30)−−−登山口(6.45)−−−最初の尾根(7.10)−−−二つ目の尾根(7.32)−−−四等三角点(7.52)−−−休憩(8.05-8.10)−−−三方崩山(9.33-9.50)−−−四等三角点(10.57-11.05)−−−二つ目の尾根(11.15)−−−最初の尾根(11.30)−−−駐車地点(12.00)
行程 5時間30分 岐阜県 三方崩山 二等三角点
三方崩山
日本300名山に入れ替えたい山がいくつかある。その中でもこの三方崩山は是非とも入れたい山の最右翼と考えている一つである。

秋の奥山は熊が怖い。熊よけの鈴を忘れてきてしまった。白川郷合掌村の土産物屋で音の出そうなものを探したが、小さな鈴くらいしか役に立ちそうなものがない。ないよりましと思って、一応その鈴を2個買って携帯することにした。

三方崩山へは平瀬温泉の集落から歩きはじめるのが普通だが、集落から自動車がようやく通れるほどの林道がさらに延びている。林道の路面状況が悪く、途中のちょっとした平らを見つけてここに車を止めた。平瀬集落から歩いても10分とかからない所だ。ここで一晩明かして翌朝三方崩山を目指した。

天気予報では午後から崩れるらしい。早く登って来た方がよさそうだ。
駐車した所から林道をさらに15分ほど歩くとトンネルとなる。その手前に三方崩山登山口の道標があった。取付き早々から急登が待っていた。
草の茂る道を、石ころを踏みながら直登、すぐに樹林の中のじくざぐ道に変る。足元の草も消え、整備された道は明瞭で歩きいい。しかし急登の方は相変わらずだ。
原生林のまま手づかずで残されているブナの大木が目立つ。実に気持ちのいい道だ。
急登を30分弱で尾根に出る。ブナ樹林がさらに素晴らしい。まるで東北の山を歩いているかのような錯覚を覚える。尾根をすぐに外れて、コースはトラバース気味に山腹を巻いて山奥へと進んで行く。ふたたび傾斜を強めてじぐざぐ模様のきつい勾配に変る。
ブナ林は相変わらず美しい。紅葉には少し早く、ようやく色づいてきたばかりだ。

最初の尾根から約20分、今度ははっきりとした尾根に乗った。急に紅葉が目立ってきた。この尾根を辿るコースにはブナの若木が並んでいる。青みがかった灰色の樹肌と、始まった黄葉、中にツタウルシやハゼの紅が交じり、秋山の雰囲気が濃くなってきた。
尾根の途中にある四等三角点を過ぎた先から、再び急登となる。そしてブナ林の密度も濃くなってきた。半端な急登ではない。まさに胸を突くような急登が、じくざぐを切ることもなく一直線に真上に向かってかけ上がっている。足元に目を落としてひたすら足を運ぶ。息が切れ、汗が流れる。長い登りだったが休むことなく足を進めて、ようやく急登の尽きたところは崩壊地の縁だった。これが『三方崩れ』の一つである。
突如とて三方崩山が目の前に姿を現した。素晴らしい山容だ。アルペン的ムードの峨々とした山巓は迫力満点、これほど素晴らしい山容の山とはまったく知らなかった。
岩山の肌には紅葉した潅木が錦を彩り、もう見ているだけで心踊る。

手の届きそうな距離に見える。目算であと30分・・・・と踏んだのはとんでもない誤りだった。だいいち高度計を見ると山頂までの標高差はまだ500メートル近く残している。しかしとてもそんなには見えないのだ。一投足くらいにしか感じない。

山頂へは右に馬蹄形の弧を描くようにして、崩壊縁の痩せ尾根を登って行く。この登りがまたとてつもなく急ときている。岩交じりの急登を四肢を動員して攀じって行く。すでに1000メートル近い標高差を歩いてきている足には、この急登はかなりの負担である。
頭上に見えるあのピークを越えれば、いよいよ三方崩山頂まで一息か・・・・そう期待して行き着くと、その先にまた一つピークが。そしてまた次も裏切られ、同じことを何回繰り返したことか。
時間はどんどん過ぎて行く。あの崩壊縁に立って、もう手の届く距離と目算した甘さを思い知りながら、それでも休まずに攀じりつづけて、四等三角点を通過。昨日、天生峠から籾糠山を往復したあとで足が重くなってきた。5分だけ休憩を取る。

三方崩山山頂
再び山頂を目指す。段状につづくピークをいくつ越えたか。ようやく最後のピークに立つとその先にあるのはもう三方崩山の頂上だけだった。
少し下ってから登りかえすと待望の三方崩山三角点があった。潅木の幹に「三方崩山 2059m」というプレートが1枚ぶらさがっているのみ。これだけの貫禄を持った山としては、何とも地味な佇まいの山頂である。
標高差約1400メートル、所用時間は3時間を要した厳しい登りだったが、 山頂に立って苦労はいっぺんに報われた。天気の崩れはまだない。頭上には太陽が見える。
切れ落ちた足下は高度感をさらに高めてくれる。北アルプスの展望が良いと聞いていたが、確認できたのは立山、剣と後立山の一部だけだったのが惜しまれる。白山の一部や人形山、猿ケ馬場山、野谷荘司山、妙法山など奥飛騨から加越の山々が遠くあるいは近く望むことができた。
標高差1400メートルと言う歩き甲斐、ブナの原生林に覆われた豊かな自然、岩肌をむき出した迫力で峨々と聳える山容、そして素晴らしい眺望。これは日本100名山に名を連ねても当然と言いたいような山である。久々に満足感に浸った山頂であつた。

天気の崩れないうちにと思い、後ろ髪を引かれる思いで下山の途についた。
下りはじめると同時に雲量が増してきて、見えていた立山、剣もたちまち霞んで視界から消えていった。
下山の行程も長かった。膝にこたえる急な坂を、かばいかばい下って行った。