追想の山々1418  

平家岳(1442m) 頂日1998.10.03 単独
登山口(6.30)−−−稜線分岐(7.15-7.20)−−−最初の送電鉄塔(7.45)−−−巡視路分岐(8.32)−−−井岸山(8.45)−−−平家岳(9.00-9.55)−−−最初の送電鉄塔(11.00)−−−稜線分岐(11.20)−−−登山口(11.55)
行程 5時間25分 福井県 二等三角点
手前のピーク井岸山からの平家岳
願いが通じた絶好の登山日和。退職してからは、無理に休日に合わせる必要はなく、天気の状況を見てから出かけることができるので、最近は雨の中を歩くということは、ほとんどなくなった。
9月は不順な天候がつづき、加えて慣れぬ海外旅行(カナダ)の時差ボケからはじまった生活リズムの乱れで山行への気力も湧かなかった。

久々の好天予報にようやく山への意欲が戻ってきた。
都道府県別最高峰踏破の目標も着々と進んでいるが、残った10座の中から、この好天を利用して福井県の二ノ峰へ登ることにした。それだけではもったいないので、以前から気になっていた平家岳にもついでに登ることにして出発した。
東名阪から東海北陸自動車道白鳥ICへと、未明の高速を疾駆する。それにしても東海北陸道が延びてくれたおかげで、この方面もずいぶん楽に入れるようになった。
ガイドブック通り、九頭竜湖から箱ケ瀬橋を渡り、さらにもう一つ面谷橋を渡って、面谷川沿いの林道を奥へ入ってゆく。目印の銅鉱山跡、その先の墓地を過ぎたあたりまで入ると、どうもガイドブックとは道の様子が違う。林道はしょっちゅう新しい道ができたりして変ってしまうのは日時茶飯事、その林道が二又に別れるところで駐車に適当なスペースを見つけて、ここを出発点とする。

左手はしっかりした林道、右手は轍の中に草の茂る狭い道で、この草の道の方に「平家岳」と書かれた木片が枝先にぶら下がっていた。ガイドブックとは様子が違うが、この木片の平家岳を信じて歩きはじめる。
草の林道は5分ほどで終わり、そこから山道となる。ここにも2、3台の駐車はできそうだ。平坦な道を10分あまり歩くと、長さ10数メートルの鉄製の橋で面谷川を渡る。清流がサヤサヤと気持ち良い音を響かせて流れ下っていく。

橋を渡るといよいよ本格的な登りがはじまった。山腹の雑木林をジグザグを切りながら急登して行く。頭上には真っ青な空が広がるが、野鳥たちはどこへ行ってしまったのか、囀りもなく静まり返っている。  雑木の途切れたガレ場から、稜線上の送電鉄塔が見える。あの稜線まで登り、跡は送電線沿いに平家岳まで登って行くわけだ。この道は送電線巡視用に作られた道で、それ以前は平家岳への登頂は簡単には叶わなかったという。

急登にしたたる汗をぬぐいながら足を運んでいると、大きな桧(サワラ?)の老木があらわれる。樹齢は何百年という代物だ。この先から勾配が緩くなって一息つく。大きなミズナラが目立つ。登山道にはどんぐりが無数に落ちている。先日の台風によるものだろう。どことなく熊が出てきそうな雰囲気を感じさせる山だ。今日は用心のため熊避けの鈴をつけてきた。以前北海道でヒグマ避けに買った鈴で、うるさいくらいに良く鳴る。
あの桧の大木から10分もしないうちに稜線へ登りついた。コースはここから稜線を南に向かって登ってゆく。最初はしばらくの下りとなる。台風による倒木が2ヶ所、道をすっかりふさいでいた。薮を分けて迂回する。勾配はだいぶゆるくなった。あたりの潅木はすべて根元が湾曲していて、ここがかなりの積雪地帯であることを窺わせる。

樹林の茂みがまばらになって明るくなってきた。ダケカンバも見えるようになる。やがて樹木の皆伐跡があらわれる。大きな切り株だけが残る斜面の中を登ってゆく。切り株の様子からは、巨木が鬱蒼と茂る樹林が目に浮かぶ。伐採から相当年数が過ぎているようだが、その後植林もなく放置されている。あるいは銅鉱山用に伐採されたのかもしれない。(鉱山には最盛期500戸3000人が村を形作っていたというが、閉山から久しく、今は廃村となって大きな墓地と、最近建立された碑石で村の存在を知るのみ。その墓には県外などへ散って行った末裔の手向けた花が供えられていた)

伐採地からは稜線を一列に並ぶ送電鉄塔が見通せる。草露で足元が濡れてきた。最初の鉄塔でレインウエアのズボンを着た。振り返ると大きな山体が聳えている。頭の中の地図を広げて考える。そうだ、荒島岳にちがいない。山頂からの眺望が楽しみになってくる。樹木がない分、解き放たれたような明るさに満ちている。
一つ、二つと鉄塔をクリアーしていくと、やがて勾配がなくなって平坦道となった。右手に皿を伏せたような山が見える。あれが平家岳か。ちょっと近すぎる気がするし、あまり見栄えのしない平凡な山だ。見回してみるが、他にこれというピークも見当たらない。
トラバースの平坦道から、今度は下りに変わった。標高差で50メートルほど下った鞍部で、道は二手に分かれる。一方は送電線に沿って左手へ行く巡視路、もう一方は右手の稜線を登って行く。右手踏み跡の入口に小さな板切れ。「平家岳」とある。するとあのお皿の底のような山が平家岳で間違いない。何だかちょっとがっかりするような気分だった。

ふたたび樹林の中の登りとなる。今までより道の状態は悪い。先ほどの分岐からこっちは、巡視路ではないため手入れもされないのだろう。しかし道形ははっきりしているので何ら問題はない。
樹林を抜け出て登りついた平坦なピークが井岸山だ。目の前に平家岳がある。展望もすこぶる良好。やや足場の悪くなった笹の道をかき分けて下り、鞍部から最後の登りにつく。潅木の明るい斜面を登りきると、広々とした潅木の平家岳の頂が広がっている。三等三角点の周囲は潅木も刈り払われている。
まずは展望を楽しむ。かねて私には無縁だった山域だが、何回か足を運んで指呼できる山もだいぶ増えてきた。西方には遠く伊吹山、能郷白山、冠山。北方に荒島岳、経ケ岳、白山、願教寺山から野伏ケ岳あたり、とりわけ存在感の大きいのが白山、さらに大日岳、三方崩山など。東方には川上岳や位山。
地図を広げて山座同定を楽しんでいると、突然潅木をかき分ける音が間近で聞こえる。登山者が薮をかき分けて登って来る筈もないし・・・・。もしかして熊か?緊張する。あわててザックの鈴を大きく振って見るが、相変わらず潅木の中の音はそのままつづく。突然熊がこの山頂へひょこっと顔を突き出したらどうしよう。そっと立ち上がって見回すと、大きな鹿がすぐ近くにいる。鹿もびっくりしたらしく、一瞬こちらを凝視したかと思うと、さっときびすを返して一目散に走り出した。人の背丈以上もある潅木を飛び越え、大きな体を宙に浮かせて走り去る姿は、大変ダイナミックであり迫力があった。どうやら鹿は鈴の音が気にならないらしい。

1時間近く山頂で時を過ごしてから同じ道を引き返した。下山途中で登ってくる登山者、3組5人に出会っただけで静かな山行であった。

翌日登頂する予定の二の峰登山口へ移動する途中、九頭竜温泉「平成の湯」で入浴、きれいな良い風呂だった。