追想の山々1424
  

迷 岳(1309m) 登頂日1998.04.10 単独
洞窟美術館駐車場(6.20)−−−尾根鞍部(6.57)−−−飯盛山(7.15)−−−好展望の突起(7.55-8.00)−−−唐谷コース分岐(8.15)−−−迷岳(9.40-9.05)−−−唐谷コース分岐(9.25)−−−好展望の突起(9.37)−−−飯盛山(10.10)−−−尾根鞍部(10.22)−−−駐車場(10.45)
行程 4時間25分 三重県 迷岳 二等三角点
陽春の迷岳山頂
登山口がわからなくて、見当ちがいのルートをうろついたあげく、登頂をあきらめたのは1週間前のこと。そのおり、登頂を諦めて帰る自動車の中から偶然にも迷岳登山口が見つかり再登を期した。
今回は確認ずみの登山口へ直行する。ガイドブックでは、登山口は『奥香肌温泉』となっているが、今は名前が変わって『香肌峡 ホテルスメール』という現代風の呼び名になっている。ホテルは新築間もない感じで、場所も以前の温泉のあったところから少し移動しているようだ。そのホテルスメールの手前、唐谷にかかる橋(唐谷橋)を渡らずに、左岸沿いの車道を行くと200〜300メートルで『洞窟美術館』という観光スポットがあり、ここに30台分ほどの駐車場がある。(ガイドブックでは『唐谷橋を渡って右岸をさかのぼる』となっているが、これは違う)ここに自動車を置いて出発する。
駐車場から唐谷にかかる立派な橋を渡ればそこが美術館の入口、迷岳へはその橋は渡らずに、橋のたもとから左岸の堤防の道を行く。見落としそうな小さな板切れに「迷岳登山口」と書いてある。
すぐに樹林の中へと入り道は二またに分かれるが、ここは直進する道を見送り、標識に従って右手の山腹を登って行く。杉植林のきびしい急登がしばらくつづく。ジグザグを切りながら一気に高度を稼ぐ。早々に一汗流して登り着いた尾根上が、迷岳から北北東へ伸びてきてる稜線である。反対の谷から冷たい風が吹き上げてくる。
ここは休まずに進路を90度左に振って、痩せた尾根をたどって行く。この先7〜8センチ幅の黄色のテープに、「登山道」の表示が山頂まで点々と続いていた。テープの表示がなくても、尾根を忠実にたどれば迷うような心配はないだろう。

右手眼下に目をやると、蓮ダムが山々の新緑を溶かし込んだように、緑色の水面をキラキラと輝かせている。
手がかりの少ない岩場が何個所か出現する。気を引き締めて、潅木の幹や岩の手がかりを頼りに、三点確保で切り抜ける。急登の尾根をひと頑張りすると『飯盛山809m』の表示のあるピークに着いた。紺碧の空を背景に、タムシバの白い花がさわやかなコントラストを見せている。うららかな春の陽に映えて高見山や三峰山が聳えている。
きつい急登は飯盛山までで、この先は勾配もだいぶ楽になってきた。
再び険しい岩場があらわれる。ここも慎重に通過する。この山は一般的なハイキングコースとはちがうようだ。登山道の手入れももう一つという感じだし、5万図には登山道が表示されていない。マイナーな山である。
コースはおおむね尾根筋の潅木帯であるが、左手には尾根まで植林が迫っている。ブナが目立つようになってきた。大木ではないが、ブナ林はほっとするような安らぎを与えてくれる。

痩せ尾根の途中にある露岩のピークに出た。ここは好展望のポイントだった。高見山や三峰山をのぞみながら一服する。木の間には迷岳の山頂も見えている。頭上にはタムシバの花が満開。
この後、山頂へは小さなコブを二つほど越えて行くが、きびしい登りはない。左手の植林の中から唐谷林道が合流しとくる地点を通過。もう山頂は近い。
突然ブナの林が目の前に広がった。降り積もった落葉が地面を厚くおおい、東北地方の山にでも来たような錯覚をおこす。明るくおおらかなブナ林である。
気分をよくして鼻歌まじりで登ってゆく。「迷岳」なんていう名前が、とんでもない大変な山を連想して少しばかり緊張してきたが、結局案ずるようなこともなく、途中の岩場さえ注意すればどうということはなかった。

右手から布引谷コースが合流して、ほどなく迷岳の山頂だった。ただ、この合流は下山時に注意しないと、布引谷コースへ引き込まれるおそれがある。今迄に間違えた人が何人もありそうに思える。下山時には直進せず、右に曲がらなければならない。
南北に細長い山頂はブナにおおわれて展望はないが、休憩には最適な環境だ。登頂記念の「迷岳」のプレートが、ところ構わず残されている。プレートの無意味なことをもう少し考えてほしい気がする。
風をさけて一段下がった台地状のブナ林の中で、落葉を布団がわりにして休憩を取った。芽吹きを控えたブナの梢を洩れる陽射しが嬉しい。ウグイスやシジュウカラがしきりにさえずっている。適度な緊張感もあったりして、登頂を果たしたとき、近畿の山では珍しい”達成感”があった。
いっとき、一人占めの山頂で静かな憩を味わった後、下山にかかった。
下山は同じ道を戻り、ホテルスメールの温泉に浸かり、汗を流してから帰途についた。